第28話 「眠れる森の美女」をリメイクしてみた

「そう言えば、昔話ってお姫様が助けられる話って多くない?」

「確かにな」


 白雪姫やらシンデレラみたいに苦難の中から王子様が助けられる話はよく見る。


「成立した時代を考えたら仕方ないんじゃないか?」

「でも毎回ぽっと出の王子様が苦労もなくお姫様と結ばれてめでたしめでたしって都合よすぎない?」

「もう少し言葉を選べ」


 言葉は過ぎるが一理あるのも事実だ。とかく昔話は何の脈絡もなく現れた王子様が王女や姫を苦難から迎えに来て大団円となるパターンがよく見られる。


「で、何が言いたい」

「カタルシスが欲しいのよ。お姫様だけが苦労するんじゃなくて王子様も同様に苦労することでより苦難を乗り越えて結ばれたっていうドラマチック感が出るんじゃないかしら?」

「なるほど。で、題材ぎせいとなるさくひんは?」

「これ」


 本棚から部長が絵本を取り出す。


「『眠れる森の美女』よ!」


 また有名な作品を持ってきたものだ。ヨーロッパの童話だがペローやグリムが童話集に収録しているし、ディズニー映画やバレエの演目にも取り上げられている名作だ。


「王子様がやって来たタイミングで都合よく百年目を迎えてお姫様にキスして目覚めるってさすがにどうかと思うの」

「いや、これをどうやって勝ち取るストーリーにする気だ」

「王子様がやって来た瞬間、城をおおういばらが襲い掛かって来る」

「それは原作にもあるんじゃないのか?」


 原作だとそんな描写があったはずだ。これまで城を訪れた者もそうやって襲われて命を落としたという話になっている。


「『しかしいばらは切り落としても切り落としてもキリがありません。とうとういばらに取り囲まれた王子様は死を覚悟したのです』」

「確かその瞬間に百年目を迎えたんだっけか」

「『しかしその時、突如現れた何者かが王子様を襲ういばらを断ち切ったのです』」

「誰だよ!?」


 援軍が来たぞおい。


「『私たちは十二人の魔女。あなたが来るのをお待ちしていました』」

「待てい」


 こいつら確か物語冒頭で出てくる魔女たちか。


「魔法だけかけて百年後に託すなんて虫が良すぎるから再登場させてみたわ」

「全員百歳越えてるだろ」

「そこは魔法で若さを保ってるとかで」


 そっちの方こそ虫が良すぎるのではないだろうか。


「『魔女たちと合流した王子様はいばらをかき分け、遂にお城までたどり着いたのです』」

「もう姫にキスするしかなくないか?」

「『ケッケッケ、待っていたよ』」

「誰だ」


 また誰か出てきたぞ。


「『呪いを解きたかったらあたしを倒していきな!』」

「こいつ、十三人目の魔女か!」


 こいつも生きてたのかよ。


「『なんと魔女の魔法の力で王子様たちはいばらに取り囲まれてしまいました』」

「なんかラスボス戦っぽくなってきたな」

「『ぬう、これはまさか伝説の出巣沫血ですまっち……!』『知っているのか王子!』『いばらに取り囲まれた様子はさながら鳥の巣。そこから出れるのは勝ち抜いた一人のみ。まさか血塗られたこの闘法を伝える者がいたとは』」

「男塾じゃねえか!」


 と言うか解説役が王子様かよ!


「『これがのちの鉄条網デスマッチである』」

「明らかな嘘をつくな!」

「『そして王子は十二人の魔女を倒し、速やかに結界を脱出しました』」

「躊躇ねえな!?」

「やっぱり十二人は多すぎたわ」

「お前の都合かよ!」


 部長の方が魔女に見える。


「『そして、魔女も倒した王子は遂にお姫様の眠る部屋に入りました』」

「しかもラスボス戦を省略しやがった!」

「『お姫様を見つけた王子は、思わずキスをしました。するとどうでしょう。お姫様の目が開いたのです』」


 これで城の住人も全員目が覚めてハッピーエンドだ。本当ならば。


「『その後、お姫様は眠っていた自分に狼藉を働いたとして、王子様を告発しました』」

「ちょっと待て!」

「『キスの様子は城の住人全員が目撃していたので王子様に逃れるすべはありませんでした』」

「罠じゃねえか!」

「『そして示談の条件として王子様との婚姻を取り付けたのでした。こうして王子様が継ぐ予定の国は労せずしてお姫様のものとなったのです』」

「やることが汚え!?」

「『さすが百歳を超えるお姫様。たかだか二十年程度しか生きていない王子様に御せる相手ではありませんでした』」


 魔女よりたちが悪い。


「『結婚はゴールではない。むしろ王子様の本当の戦いはここからだったのです』」

「こっちがラスボスじゃねえか!」

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昔話をリメイクしてみた 結葉 天樹 @fujimiyaitsuki

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