第27話 「青い鳥」をリメイクしてみた
「幸せって何なのかしらね?」
「いきなりどうした」
部長が窓の外を眺めながら、唐突におセンチなことを言い出した。
「これまで私たちは数多くの昔話をリメイクしてきたわ」
「
耳なし芳一が野外ライブやったり浦島太郎が仮面ライダーになったり、傍若無人の限りを尽くした感があるが。
「でもようやく悟ったの。私のリメイクは間違っていたんだって」
「今更どうした」
「みんなを幸せにできるような物語じゃなくちゃダメなのよ!」
「幸せにならない作品もあるだろ」
ハッピーエンドにならない作品なんてごまんとある。ごんぎつねにマッチ売りの少女や人魚姫、フランダースの犬……挙げればきりがない。
「大丈夫。ハッピーエンドで教訓も盛り込んだいい作品があるから」
「題名は?」
「『青い鳥』よ!」
メーテルリンク原作「青い鳥」
チルチルとミチルの兄妹が幸せの青い鳥を求めて冒険するお話だ。
数多くの冒険の果てに、実は青い鳥は身近にいたという、「灯台下暗し」を表した結末になっている。
「『昔々あるところに、チルチルとミチルと言う貧しい兄妹がいました。クリスマスの前の夜のことです。二人の部屋に、魔法使いのおばあさんがやってきて言いました。』『わしの孫が病気でな。幸せの青い鳥を見つければ病気は治る。どうか見つけてきておくれ』『そしてチルチルとミチルは青い鳥を探しに旅に出たのでした。』」
意外と普通のスタートだ。まずは「思い出の国」に行くんだったか。
「『チルチルとミチルが最初に行った国は、『思い出の国』。二人はここで、死んだはずのおじいさんとおばあさんに出会いました』」
人は死んでも、思い出せばまた会えるという話になるんだったか。
「『これをあげよう』『これは、おじいさんとおばあさんの土地の権利書』」
「生々しいな!?」
なんだその即物的な幸せは。
「『人は死んでも、遺産があるから孫は生きていけるんだよ』『お爺さんはそう言いました』」
「子供の教育に悪いからやめろ」
「遺産相続はしっかりと教えるべきことじゃない?」
「昔話に盛り込む話じゃねえよ!」
「わかったわ、じゃあ――」
シナリオを訂正し、部長が再び話し出した。
「『そしてチルチルとミチルは、この国に青い鳥がいることを教えもらいました。ところが、『思い出の国』を出ると、青い鳥は黒い鳥に変わってしまったのです。』」
そう、この物語はこんな感じで兄妹は青い鳥になかなか巡り合えないんだ。
「『そう、それは羽根をペンキで塗った鳥だったのです』」
「偽造かよ!」
「『偽ブランド品には注意。お電話はこちら』」
「消費者庁かお前は」
こいつ、「幸せになる物語」を作るつもりで「不幸にならない方法」を教えに来ていやがる。しかもかなり現実的に。
「『チルチルとミチルは、次に悪い物がたくさんある『夜の御殿』に行きました。ここにも青い鳥はいましたが、捕まえて『夜の御殿』を出ると、青い鳥はみんな死んでしまいました』」
「その環境でしか生きられなかったということか?」
「『そう、クスリが切れて発狂してしまったのです』」
「
「『そして、発狂したトリはトラに姿を――』」
「山月記じゃねえか!」
「『その声は我が兄、チルチルではないか?』」
「何でチルチルが虎になってるんだよ!」
青い鳥はどこへ行った。
「『それから二人は『贅沢の御殿』や、これから生まれてくる赤ちゃんのいる『未来の国』に行きました。どこにも青い鳥はいましたが、みんな持ち帰ろうとするとだめになってしまうのです。』」
そう言えばどうしてだめになるのか、あまり知らない気がする。
「『そう、外来種は厳しく取り締まられていたのです』」
「税関かよ!」
そっちの意味の「だめ」かよ。
「『突然、お母さんの呼ぶ声が聞こえました。目を覚ますと、二人は自分たちの部屋のベッドの中にいたのです』『チルチルとミチルは、とうとう青い鳥を見つけることが出来ませんでした。でも、二人がふと見ると、青い鳥があったではありませんか』」
いよいよ終わりだ。実は自分の家で飼っていた鳥が青い鳥だったのだと気づくシーンだ。
「『そういえばこのアプリは青い鳥だ』」
「ツイッターだろそれ!」
「『二人に使い方を教えてもらった魔法使いは大喜びでした』」
「それでいいんかい!」
「『二人はお互いに顔を見合わせて、ニヤリとしました』」
「なんかニュアンスがおかしくないか?」
なんだか邪悪な雰囲気が。
「『お前もツイ廃になるんだよ!』」
「布教すんじゃねえ!」
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