第18話 『大きなかぶ』をリメイクしてみた

「みんなで力を合わせて困難を打破するストーリーって良いわよね」

「まあ、少年漫画でも定番だな」


 魔王を倒す勇者など、多くの仲間の助けを得て困難を打破するストーリーは確かに評価が高いし、これまでのライバルが集結したりするので盛り上がることは多い。


「じゃあこの要素を加えたストーリーを作ります」

「題材は?」

「『大きなかぶ』で」


 また短いストーリーを持ってきたものだ。

『大きなかぶ』

 原典はロシア民話。

 突如現れた大きなかぶを、おじいさん、おばあさん、孫娘、犬、猫、果てはねずみまで動員してみんなの力を合わせてようやく抜くことができたという話だ。


「元々みんなで力を合わせるストーリーじゃないか」

「そこをリメイクするのよ」


 何をやる気だ今回は。


「『おじいさんが種をまくと、畑に大きなかぶができました』『うんとこしょ、どっこいしょ』『大きすぎて一人では抜くことができません』」


 そして次々と手伝う仲間が増えて行くと。


「『ばあさん。こいつは一人じゃ無理だ。あいつらを呼んでくれ』」

「誰だ」


 おばあさんを呼ぶんじゃなくて、おばあさんに呼んできてもらうのか。


「『おう、老いたなビフ』『お前もな、トニー』『ハッハッハ、ドクほどじゃないさ』」

「色々集まってきたぞおい」

「『10年ぶりに集まったチームによって、かぶを抜くためのプロジェクトが始まりました』」


 そう来たか。


「『重機を使って引っ張りますが、それでもかぶは抜けません』」

「でけえな!?」

「『仕方ねえ、採掘作業に切り替える』」


 掘り始めた。良いのかこれ。


「『トニー、作業状況を報告しろ』『ああ、地下30メートルまで掘り進んだ所だ。まだかぶの全体は見えてこねえ』」


 ただの収穫作業が異様に壮大になった。


「『無理はするな』『ハッハッハ、大丈夫だぜ。それより帰ったら一杯やりたいからビールを――』『おい、どうしたトニー、トニー!』『おじいさん、あの煙は!?』『あの馬鹿野郎……』『トニーはお星さまになったのです』」

「微妙にお伽話要素を入れるな」

「『ドク、いいから脱出しろ!』『ダメだ、ドリルが抜けねえ! ダメだ、機械がオーバーロードし――』『ドク、ドーク!』」

「また死んだ!?」

「『おじいさん……』『死んでいった奴らの為にも、絶対にかぶを抜いてやる』」


 こんな話だったか。

 いや、断じて違う。


「『ミシェル(孫娘)、お前の彼氏のチームも呼んでくれ』『わかったわ』」

「まだ増えるのか!?」


「『――あれから10年の月日が流れた』」

「何事だ」

「『ビフじいさんも5年前に亡くなり、今は俺が現場で指揮を執っている』」

「まだ掘ってんのかよ!?」

「『一体かぶはどのくらい大きいのか。どこまで俺たちは掘り続ければいいのか。それは誰も答えちゃくれない』」


 抜けるのか、このかぶ。

 と言うか、最早抜く作業ではない気がする。


「『――そう思っていたのは3年前までだった』」

「ん?」

「『3年前、突然かぶの中から妙な奴らが出てきた。奴らは作業員を片っ端から捕まえて殺し始めた』」

「ちょっと待て」

「『あのかぶは食べ物じゃない。でかい巣だったんだ……奴らの』」


 しまった。気を抜いていたらバイオレンス方向に持って行かれた。


「『もうすぐ奴らがまた出てくる。今度は生き残れるかわからない……だから、この映像を観た人にお願いしたい。婚約者のミシェルに、「愛している」と伝えて欲しい』」

「映像記録かこれ!?」

「『そして、ビデオメッセージを受け取ったミシェルは解放軍を組織し、謎の怪物たちと終わりのない戦いに臨むのでした』」


 ただの農作業が何でこんなことに。


「『戦い続けるミシェル。そんなある日、彼女の前に現れた人物とは!』『――帰って来たぞI’m back』」

「シュワちゃんかよ!?」

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