第17話 『浦島太郎』をリメイクしてみた

「整合性って大事だと思わない?」

「昔話をカオスにしている輩が何を言う」


 だが、行っていることはもっともだ。

 昔話は後の世で「子供向けではない」として改変されたものも多い。

 そういう意味ではリメイクされた物と言えるかもしれない。


「で、今回は?」

「浦島太郎をリメイクしてみようと思うの」

「浦島太郎か……」


 こいつは色々と考えさせられる点の多い話だ。

 何せ竜宮城から帰ってきたら数百年経過しているわ、玉手箱を開けたら爺さんになるわで今一つ釈然としない展開だ。


「だって、故郷に帰ってきたら天涯孤独になっているんじゃどうしようもないじゃない」

「おまけに爺さんになって終わりじゃ救いはないな」


 竜宮城で遊び呆けていた事に対する戒めなのか。

 しかしそれにしては仕打ちが苛烈すぎる。


「と言うことで、まだ納得できるストーリーに改変します」

「ちなみにラストは原典か、それとも後世版か?」


 原典は爺さんではなく、鶴になると言うストーリーだったはずだ。


「ふっふっふ……原典一択よ!」

「何する気だ」


 と言う事は鶴になるバージョンか。

 果たしてどうなることやら。


「亀がいじめられるシーンはどうする?」

「そこは物語の発端だから外せないわ」

「じゃあ竜宮城に着いてからか」


 タイやヒラメが踊っておもてなしか。


「『タイやヒラメが舞い踊り……それにつられてサメが寄ってきました』

「待てい」


 何故物騒な輩を呼ぶ。


「小魚だけじゃインパクトが薄いと思って」

「もう少し穏やかな奴を呼べ」

「大丈夫よ。サメも竜宮城のメンバーと言うことにしておけば」

「そうか?」

「ええ。おもてなしの為にサメの集団が浦島太郎の周りをぐーるぐると回って……」

「却下だ」


 それは狩りの行動だ。


「じゃあミノカサゴ」

「毒じゃねえか」

「クジラ」

「でかすぎる」

「海坊主」

「妖怪だな」


 クジラや海坊主が舞い踊る竜宮城なんて見たくない。


「もう何も追加しなくていい」

「わかったわよ……じゃあ続き『そんなことが続いて三年が経ちました』」


 これが実際は地上で七百年経っていたというのだから驚きだ。


「『ウーウー(警報)』『な、何だ! 私は宴会の最中だったはずじゃ……』」

「ちょっと待て」


 何だその展開は。


「『浦島様、早くお逃げください』『乙姫様、一体何が』」


 こっちが聞きたい。


「『私は償えない罪を犯しました……ですがもう耐えられない。今すぐここから逃げてください!』『乙姫様……?』」


 誰かこの状況を説明してくれ。


「『銃弾の飛び交う中、乙姫様に連れられた浦島は入口までたどり着きました』『浦島様、この箱を……この箱にはここで過ごした「時」が入っています。決して開けてはなりません。開けると今までの「時」が戻ってしまいます』『わ、わかりました』」


 確か『時』が入っているという話はあちこちに採用されていたはずだ。

 しかし、帰った浦島を待っているのは天涯孤独の世界。

『時が戻る』と言う意味を過去に戻れると解釈した浦島が玉手箱を開けてしまうという流れだ。


「『地上に戻った太郎は、周りを見て驚きました』『三年でずいぶん変わったな……すいません、浦島の家を知りませんか?』『浦島? ああ、七百年前に海へ出たきり帰らなかった人の事ですか』『な、七百年!? 家族も友達もみんな死んでしまったと言うのか……?』」


 しかし、この流れでは元のままだ。

 整合性とやらはどうしたのだろう。


「『キャー!』『打ちひしがれていた太郎の所に女性の悲鳴が聞こえました』」

「ん?」


 また新たな展開だ。


「『へへへ、いいじゃねーかよ』『お止めください!』『お、おいアンタ、やめねえか!』『邪魔すんじゃねえ!』『殴られそうになった太郎。ですが、その男のパンチはスローモーションのように見え、あっさりとかわしてしまいました』」

「おい、どうした太郎」

「『や、やめろよ!』『太郎が思わず突き飛ばすと、男の体は勢いよく吹き飛ばされてしまいました』」

「何事だ!?」

「『こ、この力は一体……?』『己の身に起こったことがわからない太郎は、過去のことを知りたいがために、玉手箱を開けてしまいました』」


 話の展開がおかしいが、問題はここからだ。


「『これは……!?』『太郎が玉手箱を開けると、煙の中に竜宮や乙姫様の姿が映ります。そして、三年間の事が次々と映し出されます』『ああ、懐かしい……おや? こ、これは……私が眠らされて、台に乗せられて……やめろ、やめろおおおお!』『そう、太郎が見たのは己が改造手術を受ける光景だったのです』」


 何だ改造手術って。


「『話が違うわ、脳改造までする予定ではなかったはず!』『乙姫様、こいつに惚れたのはわかりますがこれは決まりです』『なら……せめて私が生きている間はこの方を封印して!』『こうして太郎は七百年の間、眠り続けたのです』」


 どんどん変な方向へ行き始めたぞ。


「『そうか……玉手箱のお陰でようやく思い出した。そして、俺が成さなくちゃいけないことがはっきり分かった……変身!』」

「何だ変身って!?」

「『俺は鶴の力を得た改造人間。この力を使って世界を守ってみせる。そして乙姫……もう一度あなたと……』」

「鶴になる原因それかよ!?」


 改造手術ときたものだ。


「『浦島様……どうかご無事で』『乙姫様……お覚悟を』『そう簡単にやられるつもりはないわ……変身!』」

「お前もかよ!?」

「『鶴の力を得た戦士、浦島太郎と亀の力を得た戦士、乙姫は改造人間である。世界を狙う悪の結社、竜宮城を抜け出した二人は人類の自由と正義のために戦うのである』」

「仮面ライダーじゃねえか!?」

「『味方も家族もいない七百年後の未来を舞台に、今、彼らの孤独な戦いが幕を開けたのである!』」


 ヤバい、ちょっと見たいと思ってしまった。

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