第22話 『裸の王様』をリメイクしてみた

「昔話って寓話ぐうわとしての側面もあるのよね」

「今更どうした」


 こいつにしてはまともなことを言う。

 昔話の中には教訓となるような話に加え、滑稽な行動をさせて教え、さとすものもある。いわゆる寓話ぐうわという奴だ。

 現在見られる昔話は明治以降、子供の読み物として寓話に改変されている者も多い。


「そんなわけで、人間心理を鋭く抉り出すような感じにしてみたいの」

「何を被害に遭わせるリメイクする気だ」

「『裸の王様』よ」


 確かに寓話ぐうわだ。スペインの古い伝承を元に、ハンス・クリスチャン・アンデルセンが翻案して発表した童話だったはず。

 お洒落な王様が詐欺師に騙されて「馬鹿には見えない服」を献上されてしまうのだが、自分が馬鹿であると認めたくない王も家臣も「見える」と言い張り、国民へのお披露目の際に子供から「裸だ」と指摘されてしまうという、人間の心理を皮肉ったお話だ。


「まあ、コンセプトには合致するな」

「と言うわけで今回も行ってみよー!」


 そして、部長は語り出した。


「『ある国に、おしゃれの好きな王様がいました。ある日、王様の下に二人の仕立て屋がやってきました』『私たちは世にも珍しい服を作ることができます』『ほほう。一体どんな服を?』『「馬鹿には見えない服」でございます』」


 さて、どう切り込む気だ。


「『今なら四万八千九百円(税抜き)の服が二割引き、ボーナス一括払いで5%OFF!今ならポイント還元が13%ついて、さらにクーポンで500円引きできます。そして今、入会すれば会員価格でさらに一割引き。入会金は代金に加えさせていただきます』」

「明らかに怪しいじゃねえか!」


 すぐ計算できない言い方で畳み掛けるあたりがいかにも悪質くさい。しかもさりげなく入会申し込みまで紛れ込ませやがった。


「『うーん、なんだかお得な感じがしてきた』」


 騙されてるぞ王様。


「『また、新規で会員を紹介していただければ報酬が』」

「マルチ商法じゃねえか」

「『うむ、買おう』」

「買うな!」


 完全に詐欺の手口にハマってやがる。


「『では、是非とも作ってもらおう』『はい、それではお代を……あれ?』」

「ん?」

「『あの……お代は?』『そこにあるではないか』『は?』『「ああ、済まんのう。こいつは「馬鹿には見えぬお金」なんじゃ』」

「大岡裁きかよ!?」

「『どうした、儂は金を払ったぞ。いや、まさかとは思うがそなた、?』『ふ、ふふふ……やってくれますね、王様(ゴゴゴ……)』」

「何だその効果音は」


 何やら微妙にバトル漫画の様相を呈して来た。


「『それから二人の戦いは激しさを増していきました。詐欺師は王から金をむしり取ろうと、王は何としても金を払うまいと互いに知力を尽くした攻防が繰り広げられたのです』」


 ちょっと待て、話の本筋はどこへ行った。


「『しかし、王様は気が付いていなかったのです。その裏で思いもよらない陰謀がめぐらされていたことに』」

「ん?」

「『こ、これはどういう事じゃ!』『ククク……気が付くのが遅かったようですね!』」


 何事だ。


「『既に主な家臣は私の側。あなたを守ろうとするものなどいないのですよ!』」

「詐欺師すげえな!?」


 どんな手で懐柔したら家臣一同味方に引き込めるんだ。


「『あなたがいけないんですよ……あなたがあの時、代金を支払いさえすれば』」

「詐欺師が何を言う」


 逆恨みもいい所だ。と言うか、これで『裸の王様』が成立するのだろうか。


「『王よ、守る者のいないあなたなど裸も同然!』」

「無理やりこじつけて来やがった!?」

「『ですが、命だけは助けてあげましょう。こいつの身ぐるみ剥いで放り出せ!』『イエス、マイロード!』」


 本当に裸にしやがった。


「『あー、王様が裸だ!』『本当だ、王様が裸だぞ!』」

「そこだけ本筋を絡めるな」

「『ふっ……お洒落にかまけて国政を疎かにしたツケかのう……』」

「微妙に教訓くさくまとめようとするな」

「『まあよい。ならば再びこの身一つから始めるのも面白いわ』『王様は鍛え直し、若かりし頃の筋骨隆々の見事な肉体を取り戻しました』」

「ちょっと待て」

「『黒光りするその肉体を見て、誰もが馬鹿にすることなどできません』

「まだ裸なのかよ!?」

「『安心してください、穿いてますよ』」

「やかましいわ!」


 どうしてこうなるのか。


「『――これは、全てを失った王が裸一貫から国を取り戻すまでの道のりを描いた物語……「The King of Naked裸の王様―その身にまとうは人々の愛―」ありのままの王の姿がここにある!』」

「映画の予告になってんじゃねえか!」

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