第6話 『シンデレラ』をリメイクしてみた
「じゃあ次、『シンデレラ』」
「先に言っておくがバイオレンス傾向は禁止だ」
「えー」
この話、原作ではガラスの靴とサイズを合わせるために踵を斬ったり、義理の姉たちが最後に鳥に眼を抉られる描写があったはずだ。
「せめて子供にちゃんと見せられる表現に抑えろ」
「わかったわ」
「じゃあ、リメイクにあたって色々と現代風にしてみようと思うわ」
「現代風……?」
嫌な予感がするが、現代風なら血生臭い描写は抑えられるかもしれない。
「わかった、やってみろ」
「『ある所に、少女が住んでいました。父子家庭で貧しくはありましたが、お父さんは頑張って少女を高校まで通わせてくれました』」
「時代も現代かよ」
「『ある日、父親は再婚しました。継母には連れ子が二人いて、彼女たちは少女の姉になりました』」
「この辺は現代でも有り得る展開かもしれんな」
「『ですが、この母娘……っ、人の皮を被った蛇……っ!』」
「何だその演出は」
「『守銭奴……っ! 凄まじい強欲……っ! 美しさを追い求める魔性の女……っ!』」
「落ち着け!」
妙な方向に行きそうになるので止める。
しかし、そもそもこの現代風のどこでシンデレラ(灰かぶり)と呼ばせるのか。
「『程なくして父親も亡くなり、少女は継母と二人の姉に日々いじめられるようになりました』」
「いつ聞いても嫌な展開だな」
「『あーら、こんなところに埃が』『掃除も満足にできないのかしら』『うちの味はこんな味じゃないでしょ?』」
「姑かよ!?」
「『いじめはエスカレートし、遂に彼女たちが通うハイスクールでも起きました』」
「国どこだよ」
「『出して、出してお姉さん! トイレに閉じ込められた少女はドアを叩きますが、姉の無慈悲な一言に凍り付きます』『焼却炉から灰持ってきて』」
「えげつねえな!? と言うか、灰かぶり要素はそこかよ!?」
やや強引に持って来やがった。
「『そんなある日、ハイスクールでダンスパーティが開かれます』」
「これどう見てもアメリカだよな」
「『ハイ、キャシー。今度のダンス、一緒に行かないか?』『ええサム。喜んで』」
うん、確実にアメリカだ。
それと、誰だこいつら。
「『おいおい、妹も連れて行ってやらないのかい?』『無理よー、あの子灰まみれだもの』」
「まだ灰かぶってんのかよ!」
「『あんな子放っておいて、ダンス行きましょう』『OKキャシー。その後はベッドで踊ろうか』『やだもー』」
「下品なアメリカンジョークを交えるな」
「『ああ……私もダンスパーティへ行きたい。そんなシンデレラの所にある人物が現れました』」
遂に魔女の登場か。
だが、現代風の魔女ってなんだ?
「『あなた、良い素材ね。コーディネートさせてくれない?』」
「美魔女かよ!」
というか、どこのファッションデザイナーだよ。
「『あなた名前は?』『みんなは私を灰かぶり……シンデレラって呼ぶわ』『いい名前じゃないの。マサイの言葉でシン・デレ・ラとは「勇猛な女」を意味する言葉なのよ』」
「勝手にマサイの言葉を捏造するな」
「『これが……私?』『まあ素敵、私の見立て通りに良い素材だわ。あなた、モデルとしてパリコレに出ない?』」
スカウトされるのか。
だが、これもある意味シンデレラストーリーと言える。
「『ごめんなさい。ハイスクールのダンスパーティがあるの』」
「断るなよ、パリコレのモデルだぞ!」
「『そう……それじゃ私があなたを最高のレディにして送り出してあげるわ』」
「手厚いなこの美魔女!?」
何が彼女をそうさせるのか。
しかし、この分だと王子様はどうする気だ?
「『魔女が一声かけるとカボチャ色のリムジンが用意されました』『さあ、乗りなさい』『運転はあっしが引き受けましょう』」
「誰だ」
「『あなたは?』『あっしの名ですかい……「鼠」とでもお呼び下さい』」
「何で裏社会の雰囲気を出す」
「『いい、シン・デレ・ラ。レンタルは0時までだからそれまでに帰るんだよ』」
「レンタルなのかよ、このリムジン」
「そして『シンデレラ(芸名)はカボチャ色のリムジンでダンスパーティの会場へ向かいました』」
「芸名にするな!」
だが、一応現代風シンデレラの体裁は整っている気はする。
おそらく。たぶん。メイビー。
「『シンデレラがダンス会場へ着くと、人々は驚きました』『ヒュー、何だあの美人』『おいジョン、お前行けよ』『ハーイお姉さん。俺サム、一緒に踊らない?』」
キャシーはどうしたサム。
と言うか乗りが軽い。このパーティはどこでやっているのか。
「『その頃、ダンス会場は熱狂に包まれていました』」
「どういう事だ」
「『インドの富豪の息子がダンスバトルに参戦していたのです』」
「ダンスってそっちの方かよ!」
いや、確かにダンスと言えばインドかもしれんが。
「『やあ、次は君を相手に指名するよ』『受けて立つわ坊や』」
「キャラ代わってるぞシンデレラ」
「『二人の戦いは見る者全てを惹きつけました。DJはその熱狂ぶりにディスクさばきも熱が入ります』」
この場所、完全にクラブだった。
「『やるわね、私も本気を出すわよ』『ヒュー!』『シンデレラが靴を脱ぎ、本気のバトルが始まりました』」
「靴脱いじゃダメだろ!」
「『そして、時を忘れて踊っている内に0時になって蛍の光が流れ始めました』」
「閉店時間かよ!?」
「『いけない、こんな時間!』『待ってくれ!』『でも、リムジンの返却時間が!』」
「無駄にリアルな事情を差し挟むな」
「『くっ……勝負はお預けだ!』『シンデレラが去った後、店内に彼女の靴が残されていました』」
「そこで靴を残すのかよ」
「『あの女……こんなガラスの靴で最初は踊っていただと……』『王子様は戦慄し、すぐにこの靴のシリアルナンバーからシンデレラを探すように指示を出します』」
「シリアルナンバー有るんかい」
「『シンデレラが靴を履くとぴったりでした。そして再び熱いダンスバトルが再開されました』」
「まだ踊るのかよ」
「『やはりあなたは素晴らしい……是非私と一緒にインドへ行き、映画に出演してくれませんか』」
「どんだけスカウトされるんだこのシンデレラ」
「『はい、喜んで』」
そこは受けるのか。
「『こうしてシンデレラはインド映画のスターとなり、ひと財産築いて幸せに暮らしましたとさ』」
「待て、姉と継母どこ行った」
「あ、『ちなみに継母と姉たちはその後没落して借金取りに追われました』」
「『トリ』に姉を襲わせたかっただけだろ!」
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