第5話 『かさじぞう』をリメイクしてみた

「もう少し刃傷沙汰から離れろ」

「えー、だってアクションがあった方が面白じゃない」


 だからと言って何でもかんでも血生臭い話にされてはかなわん。


「時と場合による。昔話を無駄遣いするな」


 そもそも現代じゃ子供に聞かせる話なのに『本当は怖いグリム童話』みたいにしてどうすると言うのか。

 リメイクするにもR15以上にならないようにしてもらいたい。


「うーん、じゃあもうちょっとほのぼの系の奴?」

「ああ」

「『かさじぞう』なんてどうかしら?」

「よし、それで行こう」


 これならどう考えてもバイオレンスな話には変えにくい。


「『ある雪深い地方に、とても貧しいけど心優しい老夫婦が住んでいました』」

「よし、その調子だ」

「『とても貧しいので、新年を迎えるのに餅も買えませんでした』」


 さて、どの辺からリメイクするのか。

 気を付けないととんでもない方向へ舵を切るから油断ならん。


「『何故こんなに苦しいのか。それは数年前から続く不況のせいで笠が売れないからでした』」

「リアルすぎるわ!」


 と言うか、笠作りが生業なのかこの老夫婦。


「『本当なら笠を一つ1000円で売ろうとしましたが、取引先の業績悪化に伴い、値が暴落。渋々100円で売っていたのでした』」

「そこを掘り下げんでいい!」

「『せめて、新年の餅くらいは食べたい。おじいさんは町へ笠を売りに行くことにしました』」

「ようやく本筋へ戻ったか」

「『さあ、そこの紳士淑女、お兄ちゃんお嬢ちゃん、ちょいと寄ってらっしゃい見てらっしゃい。歳末売り尽くし、当方出血大サービスでお送りするこの編み笠。本日は1000円の所、500円で売ってあげようじゃーありませんか!』」

「手慣れすぎてるだろ!」


 と言うか、心優しいおじいさんが言う台詞なのかこれは。


「『おうじいさん。誰に断ってここで商売やってんだコラ』」

「何か出て来たぞおい!?」

「『おじいさんは柄の悪い人たちに絡まれ、渋々引き上げることにしました』」

「笠が売れなかった理由それ!?」


「『結局、笠が売れなかったおじいさんはとぼとぼと雪の降る中、家へ帰りました』」

「お、今回のハイライト来るか」

「『その途中、お地蔵様が並んで立ってました。その上には雪が積もり、とても寒そうでした。おじいさんは放っておけず——家に持ち帰りました』」

「ちょっと待て!?」


 笠はどこへ行った!

 と言うか、何体ものお地蔵さん全部持ち帰ったのかおじいさん。


「『あらまあおじいさん。いいことをしましたね』」

「おばあさんももうちょっと突っ込んであげて!」

「『でもおじいさん。お地蔵様を勝手に持って来たらいけませんよ。元の場所に返しておやりなさい』」

「おばあさん、さり気無く鬼畜なこと言わないで!」

「『ごめんなあ、うちじゃ引き取ってやれんのじゃ』」


 お地蔵さんが完全に捨て猫扱いだぞ、おい。


「『せめてこの笠をかぶせてあげよう』」

「……ようやく軌道修正が完了したか」

「『おや、一体分足りんか。しかたない、じゃあ儂の笠をあげよう』」


 やっと一番の見せ場が出て来たか。


「『何なら儂の服も着せてあげよう』」

「そこまでやらなくていい!」


 これでは心優しいと言うよりただの変な人だ。


「『おやまあおじいさん。いいことをしましたねえ』」

「だからおばあさん、そこ突っ込んであげて!」


「『その夜、不思議な歌が聞こえてきました』」

「来たか、地蔵」

「『笠のお礼を』『笠のお礼を』『笠のお礼を』『届けに』『届けに』『とっどけっに来ったぞー』」

「何で輪唱になってるんだよ!」

「『デュワー』」

「揃えるな!」


 何だこの地蔵ユニットは。

 JZU48とかでも結成してるのか。


「言ってしまえばJ-ZOUs Brothersって所かしら」

「ユニット名を付けんでいい」


「『歌声はどんどん近くなり……』」

「……しかし、輪唱が近づいて来るのは怖いな」

「『おじいさんの家の前に来ると、ズシーン! と、何かを置く音がしてそのまま消えてしまいました』」


 ようやくラストシーンだ。

 良いことをしたのでおじいさんたちに地蔵たちが御馳走を持ってくる。


「『おじいさんが戸を開けると、おじいさんのあげた笠と服を纏ったお地蔵様の後姿が見えました』」

「結局服あげちゃったのかよ!?」

「『そして家の前にはお正月のお餅や御馳走が山のように置いてありました』」


 ようやく終わったか。


「『おやまあおじいさん。落し物は持ち主に返してあげないとねえ』」

「だからおばあさん、違うから!」

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