第4話 『さるかに合戦』をリメイクしてみた
「次は『さるかに合戦』よ」
「しかしこいつは元ネタが多すぎてバリエーションがかなりあるぞ?」
「そうなの?」
確か江戸時代に書かれた奴だと最初に登場した蟹が死んで、子どもが敵討ちする話になっている。
「友達も臼、栗、蜂は大体共通しているが昔は牛糞も参戦しているらしい」
「じゃあそれもリメイクしましょう」
「なんだと」
「まずは冒頭部。柿の種とおにぎりの交換ね」
「どうリメイクする気だ」
「『この柿の種をまけば、毎年美味しい柿の実がなるよ、交換してあげようか』」
「普通じゃないか」
「『イーッヒッヒッヒ!』」
「魔女かよ!?」
「『うん、ありがとう、魔女猿さん!』」
「何だ魔女猿って!?」
「『蟹は家に帰り、早速種を蒔きました。そしてせっせと水をやりながら————』」
確か歌を歌うんだったか。
確かこの時の歌って……
「『早く芽を出せ柿の種。成らなきゃ鋏でちょん切るぞ』」
「そこは原典のままか」
しかし、昔の話とは言え、物騒な歌だと思う。
「『そして柿の種は芽を出し、ぐんぐん大きくなりました』」
「前半の山場だな」
「『何という事でしょう。雲の上にまで木は伸びました』」
「ジャックと豆の木じゃねえか!」
「クロスオーバーだって面白いじゃない」
タイミングを考えろと言いたい。
「『蟹は柿をとりに行こうとしましたが、木に登れません。代わりに猿が登りますが、一人で柿を食べ始めます』」
「『ずるいよ猿さん。おいらにも柿をくれよお』だったか」
「『うるさい、これでもくらえ!』」
猿が蟹にまだ青くて硬い柿を投げつけるんだったな。
これで蟹が殺されるか逃げるかで原典寄りか現代寄りか変わるのだが……
「『怒った蟹はその鋏で木を切り倒し始めました』」
「だからジャックと豆の木だろそれは!」
油断も隙も無い。
「ちぇー、わかったわよ。今回は猿蟹一本に収めるわ」
「そもそも勝手にクロスオーバーさすな」
「『ケガをした蟹は、友達の臼と蜂と栗と牛糞にそのことを話しました』」
「さすがに牛糞はやめとけ」
「まあまあ、現代人が知らない原典キャラってのも面白いじゃない」
果たして牛糞はキャラなのだろうか。
そんなことを思っている内に部長は次の展開を口にし始めた。
「『おのれ猿め、蟹に受けた恩を仇で返すとは何事ぞ』『猿、討つべし!』『慈悲はない』『討ち入りじゃ!』」
「待て待て待て」
何だこの忠臣蔵みたいな展開は。
「『同志蟹よ。悲運の戦いに倒れたる君よ!』『さあ、今こそ無慈悲な法の鉄槌を!』『我ら労働者!』『
「何で社会主義者になってるんだよ!」
悪乗りが過ぎる。
さすがにやりすぎたのか、元のトーンで語り始める。
「『猿が帰って来て囲炉裏で体を温めると……』」
「まずは栗がはじけるんだったな」
「『囲炉裏の中で焼け死んでいる栗を見つけました』」
「ちょっと待て!」
「『い……一体何事だ? 落ち着こうと水を飲もうとした猿の目に飛び込んできたのは、水桶で溺れて浮いていた蜂の姿でした』」
「何だこのサスペンス劇場は!」
「『びっくりした猿は牛糞に滑って転倒。その時に牛糞は踏みつぶされ、あっけなく生涯を終えたのでした』」
「牛糞の存在意義は何だ!?」
雲行きが怪しいなんてもんじゃない。すでに真っ暗だ。
「『そこへ、屋根から臼が落ちてきて猿は潰されて死に、衝撃で臼もバラバラになりました』」
「全滅エンドじゃねえか!」
「『そして、蟹は言いました……計画通り』」
「お前が黒幕か!」
「『めでたしめでたし』」
「蟹が怖すぎるわ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます