第3話 『桃太郎』をリメイクしてみた

「じゃあ、桃太郎をグレードアップさせましょう」


 これも、誰もが知っている有名な話だ。

 だが、これは既にある程度完成している気がする。


「曖昧な点をハッキリさせるなんてどう?」

「例えば?」

「『昔々ある所におじいさんとおばあさんがいました』」

「別に何の変哲もない冒頭部じゃないか」

「昔っていつ?」

「『桃太郎』は室町時代辺りには成立していたという話だな」

「じゃあ、その頃に『昔々』って言うなら鎌倉時代以前ね」

「平安時代ごろが一番合うかもな」

「じゃあ次。『ある所』って?」

「わからんな」

「おじいさんとおばあさんって何歳?あと名前と仕事は?」

「見て老人だとわかる年齢ではあるだろうが、具体的にはわからんな」

「うーん。それじゃ、ここまでの情報をまとめるとこうなるわね」


『平安時代ごろ、老夫婦(匿名・年齢不詳・住所不明・無職)がいました』


「一気に胡散臭さが増したじゃねえか!」

「おじいさんは山へ……ねえ、しばかりって何?」

「『柴刈り』ならば雑木林の手入れだな。薪を拾いに行ったとも考えられる」

「『芝刈り』だったら?」

「庭の手入れか……?」

「ゴルフ場の整備とか」


 時代を考えろと言いたい。


「次は、おばあさんが桃を拾うシーンについて考えたいわ」

「ここは議論の余地はないだろ」

「どれだけ大きいかわからないわ」

「おばあさんが持てるくらいの大きさで赤ん坊が中に入っている程度……か」

「赤ん坊が生まれたてくらいの重さとすれば桃全体の重さは……最低でも七、八キロはあるんじゃない?」


 それを川から引き揚げたのかこの御婦人は

 このおばあさん、実はかなり強いのではないだろうかと思った。


「じゃあ次、桃太郎が生まれる所」

「原作では桃を食べた夫婦が若返って子作りをしたという展開らしいな」

「それ、リアルに描写してみる?」

「やめろ」

「でも、桃を切ったのに子供が無事ってわからないわね」

「子供が入っているほど大きい桃だ。一刀両断できる包丁なんてないだろう。切り分けていたら中から子供が出てきたと考えるのが自然だ」

「なーるほど。あ、でも日本刀だったら」

「何故唐竹割にこだわる」


 それは確実に室町残虐物語になる。


「犬、猿、雉を仲間にする点はどうしようかしら?」

「ファンタジーだから動物がしゃべるのは大目に見ろ」

「じゃあ、次は鬼ヶ島での戦闘ね」

「犬が噛み付き、猿がひっかき、雉が鬼の目をつつく。桃太郎は刀を振り回す……か」

「雉は良いとしても、正直鬼がこの程度で降参するかしら?」


 少々パンチが弱いことは認める。

 しかし、どうするつもりだ。


「どうリメイクする気だ?」

「犬が鬼の頸動脈を噛み切り、猿が引っ掻いてはらわたを引きずり出す」

「待て」


 そんな血生臭い話を子供に見せられるか。


「あるいはこちらも頭数を増やしましょう。鬼の集団に対して動物の集団よ」

「数を増やすのは構わんがどうなる?」

「犬が見事な統率でまず脚に噛み付き、倒れた所を首元に集団で襲い掛かる」

「頸動脈は譲らんのか」

「あるいは全員狂犬病にしておくとか」

「桃太郎たちまで危ないからやめろ」


 それでは全滅エンドだ。

 違った意味で鬼は泣いて許しを請うかもしれない。


「猿も元々群れだし、ボス猿の命令で鬼にまとわりつくなんてどう?」


 それなら確かに鬼にとっても面倒だ。

 理に適っているかもしれない。


「そこへ雉が集団で鬼をつついて殺す」

「ヒッチコックの映画かよ」


 前言撤回。こいつの辞書に慈悲と言う言葉はない。


「とどめは桃太郎の必殺技」

「中二病な展開にする気か」

「じゃあ的確に急所を斬る」

「また物騒な」

「『桃太郎も刀を振り回し、首をはねて大暴れです』」

「いちいち残酷な方向へ持って行くな」


 血を見ないと気が済まんのかこの女は。


「『桃太郎と犬と猿と雉は、鬼から取り上げた宝物を車につんで、家に帰りました。』」

「金銀財宝を持ち帰ってハッピーエンドだな」

「『おじいさんとおばあさんは、桃太郎の無事な姿を見て大喜びです』」

「うん」

「『そして、宝物と一緒に持ち帰った鬼の首を見て大いに驚きました』」

「だから首から離れろ!」

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