第11話 『耳なし芳一』をリメイクしてみた
「エンタメ性を取り入れようと思うの」
「どういう意味だ」
また碌でもないことを思いついたな。
「歌とかあった方が面白いでしょ?」
「演出次第だがな」
「と言う訳で」
「どう言う訳だ」
「『耳なし芳一』をリメイクします」
こいつは怪談の類だ。
琵琶法師が夜な夜な平家の亡霊に連れ出され、危機を感じた和尚様が体中にお経を書いてくれたのだが、耳だけ書きそびれて持って行かれてしまうと言う話だ。
「これにエンタメ性だと?」
「まっかせなさい!」
だから不安だと言うのだ。
「『昔、芳一と言う琵琶法師がいました。幼い頃から目が不自由でしたが、琵琶の腕は師匠を凌ぐほどでした。』」
「始まりは普通だな」
「『ある夜。お寺で稽古をしていると、高貴なお方の使者が来ました。招かれた屋敷で芳一が弾き語りをすると、客たちは激しく感動し、七日間の演奏を頼まれ、毎晩出かけるようになりました』」
「ここも普通だ」
「『和尚は毎晩芳一が出かけることを不審に思い、寺男に尾行させると、なんと芳一は平家一門の墓場で鬼火を前に琵琶の弾き語りをしていたのです。』」
「……どういうことだ」
全然改変が見られない。
リメイクはどうした。
「『平家の亡霊に取りつかれていると知った和尚は芳一の体に経文を書きました。そして、話しかけられても絶対に返事をしてはいけないと言い聞かせました。その晩、亡霊が芳一を迎えに来ました。』」
もうすぐラストだ。
「『芳一様、芳一様! どこにいらっしゃるのか! 皆、貴方を待っているのですぞ!』『和尚様に言い聞かせられていた芳一は返事をしません』『ダメか……帰るしかあるまい』」
あとは経文が書かれていない耳だけが見えてしまっているため、亡霊に取られてしまう。
「『————待ちな』」
「ん?」
「『その声は……芳一様か!』『ワリィなマネージャー。やっぱ黙っていられなかった』」
「何だマネージャーって!?」
と言うか、返事したら駄目だろう。
「『俺を、連れて行きな。ファンには俺から説明する』『は、はい』」
「待て待て待て」
何かおかしな方向へ行ったぞ。
と言うか、何だこのファンキーな坊主は。
「『ホウイチー!』『HOUICHI!』『みんな、遅くなって済まねえ……突然だが、今日で俺のライブは最後になっちまった……』『えーっ!?』」
何だライブって。
「『実は……和尚にバレた』」
「親バレしたみたいに言うな」
「『ホウイチ、姿を見せて!』『ある事情で姿は見せられねえ……だが、お前らには見えているはずだ。その目の前に、いつもの俺の姿を! 最高にクールな俺の姿を!』『キャアアアアアア!』」
駄目だ、ついていけん!
「『さあ、最後の夜だ! お前らを連れて行ってやるぜ、極楽浄土の彼方まで!』」
「阿弥陀様逃げて!」
亡霊を極楽へ連れて行くな!
「『行くぜ、
「打楽器しかいねえ!?」
「『
「仏具を何だと思ってんだお前は!?」
「『最初のナンバーは恒例の奴で行くぜ!「
「何だその題名は!」
「『GI・GI・GI GIONSHOJAの! KA・KA・KA! KANEの音!』」
「リメイクそこかよ!?」
エンタメ性って平家物語をアレンジするってことか!
「『響き渡るぜ!』『
「一体感ありすぎだろ!」
亡霊たち訓練されすぎだろ。
「『そして墓場はその晩、ロックに包まれました』」
「怖いわ!」
「『みんな……最後まで付き合ってくれてありがとう。最後の曲だ』『ホウイチ……』『シクシク』」
「泣くな」
「『お前らのこれからの極楽往生を願ってるぜ……「
「『ワアアアアア!』じゃねえよ!」
お前らの滅んだ話だろ。
「『みんな……これで終わりだ。俺もこれで普通の琵琶法師だ』」
「そもそも異端だろお前」
「『引退の証に琵琶を置いて行きたいが、こいつは俺の商売道具だ。だから……こいつを置いていくぜ』『芳一様』『やってくれ』」
「ちょっと待て」
「『武者は芳一の耳をもぎ取ってしまいました』」
「そこだけ元の話をなぞるな!」
対比で妙に浮いて怖い。
「『これで……俺の耳には、お前たちの声以外もう入らねえ。忘れねえぜ、お前たちと過ごした日々』『ホウイチー!』『行かないでー!』」
「何だこの状況」
「『……ああ、駄目だ。心が痛いぜ』」
「耳は!?」
「『そして、涙と共に「芳一ライブ~ラストナイトは般若心経と共に~」は閉幕しました。その後、メジャーデビューを果たした芳一は、何不自由なく暮らしたと言う事です』」
「釈然としねえ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます