第9話 『ウサギとカメ』をリメイクしてみた

「これまでで学んだわ」

「何をだ」

「やっぱり躍動感のあるストーリーは記憶に残るのよ」

「ほう」


 こいつの場合、躍動感と言うより「厄」を「導」いている方だと思う。


「と言うわけで躍動感を加えたリメイクをするわ」

「次の犠牲者は誰だ」

「『ウサギとカメ』よ!」


 ウサギとカメ。割とポピュラーな話の一つだ。

 油断大敵がテーマとなっており、己の力を過信したウサギが痛い目に遭い、継続は力なりを地で行ったカメが勝利するという戒めの意味合いも込められている物語だ。


「だが、これに躍動感をどう加える」

「だってこの話。走ってゴールするだけでしょ?」

「身も蓋もないな」

「ここに演出を加えます」


 さあ、碌なことにならない気しかしないぞ。


「『さあ、始まりました。ウサギとカメによる熾烈な争い。その火ぶたが切って落とされようとしています』」

「何でカーレース調になってんだよ」

「『実況は私、浦島太郎。解説は、かちかち山のタヌキでお送りいたします』」

「何やってんだお前ら」


 カメ繋がりとウサギ繋がりかよ。


「『また、特別ゲストに因幡の白兎からサメをお迎えしております。よろしくお願いします』『よろしくお願いします』」

「お前も何やってんだ」

「『どうですかタヌキさん。下馬評では圧倒的にウサギ優勢となっておりますが』『そうですねえ、彼は抜け目のない所がありますし、油断する悪い癖さえなければ勝利は揺るがないと思いますよ』」

「焼かれた挙句に溺れさせられてよくそこまで評価できるなお前」

「『しかし、カメの方も侮れないと思います。私、彼のことをよく知っているのですが、子供たちにリンチを受けてもじっと耐えることのできる耐久性と、隙を伺う戦略眼を持ち合わせております』『それは楽しみですね』」

「あのカメここのカメなのかよ!?」

「『サメさんはいかがですか。何でもウサギのことはよく知っているとか』『ええ。あいつの皮は美味いんですよ』」

「帰れ」


 何のための特別ゲストだこいつは。


「『さあ、いよいよ選手入場です。拍手に包まれて両者が現れます。まずはウサギの入場です!』『アイムチャンピオン! HAHAHAHA!』」

「すげえマッスルな感じのウサギ出てきた!」

「『続いてカメの入場です』『フッ……我が策に抜かりなし』」

「軍師かよ」

「『さあ、いよいよスタートの時です。両者シグナルが青になるのを待っております』」


 大丈夫かこのレース。


「『さあ今、青になりました。やはりウサギ早い! 初速からトップスピード。それに対してカメはマイペースでスタート。カメをグングン引き離します』」

「『やはりマシンの基本性能の差が出てきますね』」


 何だ、マシンって。


「『第一コーナーにはウサギが入りました。おーっとここでクラッシュ!』」

「ウサギーっ!?」

「『しかしすぐに体勢を立て直して再スタート。カメはまだ追いついておりません』『マシンが炎上したらかちかち山の再現なのに……』『焼いても美味いんだよな……』」

「この解説、本当に中立なのか!?」

「『一時はヒヤッとしましたが、レースは続行されます。しかし、圧倒的ですね』『いやあ、まだわかりませんよ。カメが機をうかがっています』」


 この展開でどうやってウサギが休む気だ。


「『さあ、ここでウサギがピットイン』」

「待てや!」

「『先ほどのクラッシュの影響でしょうか。念入りに調べております』『この時間は大きいですよ』『ウサギを食べるくらいの時間は確保できますね』」

「もうサメ黙れ」

「『おおーっと、ここでカメが猛烈な勢いで差を詰めてきた!』『この瞬間を狙っていたんですね!』『カメはレース終盤まで持つようにメンテされてます。これはわからなくなってきました』」

「何だメンテって」

「『遂にウサギを抜いたああああ!』『これは番狂わせですね』『負けたウサギは罰ゲームで食べていいですか?』」


 駄目だこのサメ。早くどうにかしろ。


「『ウサギがようやくレースに復帰。全力で追い上げます』『これは最後の直線までわからなくなってきましたね』『お腹が空きました』」


 サメに関してはもう無視しよう。うん、それがいい。


「『しかし、カメが独走のままゴール!』『うわああああ、万馬券きたあああ!』『ウサギめ、損させやがって!』」

「賭けてんじゃねえよ!」

「『いやあ、凄いレースでしたねえ』『久々に手に汗握る戦いでした』『十分に肉がほぐれてて美味かったです』」

「ちょっと待て」


 さらばウサギ。


「『また、次のレースでお会いしましょう。本日はありがとうございました』」

「もうねえよ!」

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