第18話 チート神と12人の勇者達

 ハッ、と気が付くと僕は大きな円卓の席に着いていたんだ。記憶が少し混乱したけど、最後に覚えているのが宿で寝たことだったので、どう考えても普通じゃないことが起こってるって分かったんだ。

 前を見ると10人以上が席についていて、その人達も何が起こったのかわからないみたいで、周りの様子を確認してたんだ。

 ここにはテーブルと椅子以外には何もなく、霧で被われたように壁も天井も床さえも見えないんだ。

 僕の向かい側にはピエロみたいに顔に白いのを塗って丸とか三角をペイントした人が座っていた。そのピエロさんから時計回りに視線を動かすと、次に目に入るのが黒い甲冑を着た大柄な人、甲冑にトゲトゲも付いているから、間違いなくこの人が魔王だ。顔まで隠しているからどんな表情をしているのか分からないけど、絶対に目を合わせたらいけない人種だ。

 その隣が真っ赤な髪の毛をツンツンに立たせた人。身長は170ぐらいかな。割りと小柄なんだけど、物怖じしない感じの人だ。魔王様の隣にいるのに腕と足を組んでイライラしてるのか身体を小刻みに動かしている。

 その隣の人は逆に全く動かない。表情も乏しくまるでロボットみたい。身長は高く190センチぐらいかな。

 その隣の人は、身長はさっきの人と同じぐらいなんだけど見た目が何ていうか、山賊の親玉みたいなんだ。つまり、暴力的な筋肉をこれ見よがしにさらけ出して、しかも不潔な印象なんだ。何でこんな姿を選んだんだろう。容姿はこの世界に転移したとき選べたと思うんだけど。

 その隣が眼鏡をかけたクールな感じの人。きっと頭も良くて、全てお見通しって感じがする。身長は175センチぐらいかな。

 そして僕の右隣にいるのが見た目が高校生の男子。身長は165センチぐらい。特徴は肩にスライムを乗せていること。うん、スライム使いだね。ネット小説で読んだことがある。最弱の魔物と云われているスライムを操って、うまいこと相手をやっつけるって所でみんなにスゲーって思われたいんだね。分かる、分かるよその気持ち。普通の冒険者や魔物だったらそれでいいんだけど、チート持ちに対してはどうなんだろうね。

 僕の左にいるのが気さくそうなお兄さん。身長は175センチぐらい。さっきから僕に微笑みかけてくれるけど何か怖いんだよね、だって殺し合いをするかもしれない相手だから。もしかしたら、こういう人が笑顔のままで殺しに来るのかもね。

 その隣がちょっとチャラそうなお兄さん。身長は175センチより少し高いぐらい。年齢は20歳ぐらいで、一日中ゲームしてそうな、頭は良いけど働いてませんという印象を受けた。

 その隣が、爽やかな感じのお兄さん。身長は175センチないぐらいかな。鈍感系のハーレム主人公みたいな感じの人。きっと死ねばいいのにって言葉が良く似合うよ。

 その隣が、紅一点の黒目黒髪黒の衣装と黒尽くしの女の子。身長はたぶん僕と同じぐらいで小柄なんだけど得体の知れない威圧感があるんだ。この感じ、多分エターナルロリータだね。ということは魔女的な何かだね。

 そして最後は、金髪で長身、カリスマ性たっぷりの、いかにも正統派勇者ですって感じの人。もうこの人が主役でいいですと思わず云ってしまいたくなるよ。着てる服も上等そうだし、きっと礼儀作法もバッチリなんだろうな。


「お待たせ、お待たせ」


 そういって席に座っていた内のひとり、僕の真正面にいたピエロさんが喋り出したんだ。


「僕はチートの神、君達12人をこの世界に転移させた張本人さ。おっと、暴れようなんてしても無駄だよ。ここは現実じゃないからね、まぁ、意識だけがここに集まっていると思ってくれていいよ。だから、今ここで全員殺してとっとと片付けてしまおうなんてしないでおくれよ」


 そういってピエロの神様は笑ったんだけどジョークだよね。何人かチェッて舌打ちしたけど、皆殺しなんて考えてないよね。


「あぁそうそう、ここでいくら話しても現実の時間は1秒も経ってないから安心していいよ。それで今回集まってもらったのは、こちらに転移して100日以上過ぎたからね、そろそろ身体も能力も慣れた頃だと思ってね。能力を磨いた者、仲間を集めた者、難攻不落の要塞を造った者、それぞれ準備万端で殺し合いがいつ始まるのか待ち遠しかったんじゃないかな。他の勇者を探そうと思ってもけっこう距離が離れてるしね。それで今回君達にプレゼントするのが、勇者を探知できる能力と、勇者の近くに転移できる転移能力なのさ」


「それでは転移する方が圧倒的に有利ではないですか。不意打ちができますから」


 ピエロ神の左に座っている金髪でカッコいい、いかにも勇者ですという感じの人が質問したんだ。


「もちろんすぐ近くには転移出来ないようにしているよ。距離にして5キロぐらいかな。それに転移してきたら相手にも伝わるようにしているから、迎撃の準備は出来るんじゃないかな。逆に転移で逃げることもできるよ。ただし追いかけっこになっちゃうからね、転移は1日1回にさせてもらうよ」


「それでどうやって転移してきたのを知るのですか」


「それがもうひとつのプレゼントさ。みんな大好きステータスウィンドウだよ」


 ピエロ神は得意満面で云ったんだ。


「ステータスウィンドウは自分のステータスを確認することと、地図を表示してこの惑星上に存在する全勇者のいる位置が確認できるんだ。転移するのも転移したい相手の勇者を指差して転移と云えば跳べるようにしているよ」


 ピエロ神はまるで自分が作った作品を自慢しているかのように説明していた。


「それでどうやってウィンドウを出すんだ」


 ぶっきらぼうにそう云ったのは、僕のふたつ左に座っているチャラそうなお兄さん。神様のこと怖くないのかな?


「もちろん、ステータスオープンじゃないか」


 ピエロ神様がそういうと、その人は、「はっ、ダサ」って云ったんだ。


「おやおや、もっといい言葉があるのかい?」


 そうピエロ神様が訊くと、その人はそんなことを云われるとは思っていなかったようで、少し考えてから「す、ステータスだけでいいんじゃないか」と答えたんだ。


「じゃあ、君だけはその言葉にするよ、いいかな?」


「ああ、いいぜ」


 それで話がついたので、みんなでステータスオープンしたんだ。透明なガラス板に文字が表示されているように見えるけど、指でさわっても感触は無いんだ。みんなうまくいったのかなと思って見たら、さっきの人だけステータスが表示されていなかったんだ。


「おい、開かないぞ、ちゃんと変更したのか?」


 その人はまるでレストランの店員がおかしたミスを咎めるかのようにそういったんだ。仕返しされなければいいんだけど……。


「おや、さっき君がいったキーワードに変えたけど忘れちゃったのかい?」


「ステータス、やっぱり開かないだろ」


 それを聞いてピエロ神様は愉しそうに云ったんだ。


「やっぱり忘れているよ、君がキーワードにしたのは、『す、ステータス』だったはずだよ」


 うわー、根に持ってるよ。男の人もポカーンとして放心状態だよ。その後、男の人が小さい声で、「す、ステータス」っていってたよ。


「君たちなら使い方はだいたい分かると思うんだけど、とりあえず説明するね。画面上にアイコンが2つあるけど、人の形をしているのが自分のステータスを確認する用で、もうひとつの地図のアイコンは押せば世界地図が表示されるよ。見てもらえば分かるんだけど、地図上に人の形をしたアイコンが表示されるから、そのアイコンを押しながら『転移』と云えば移動できるよ。さっきも云ったけど5キロぐらい離れた所に転移するからね。後、誰かが転移してきたらウィンドウを閉じていても音がするから。僕からの説明はこれぐらいかな。ステータスは各自確認しとくといいよ。何か質問はあるかい?」


「地図上に表示されている人の形をしたアイコンは全部同じに見えますが、誰がどのアイコンなのかは分からないのですか?」


 この中で唯一の女性がそう訊いた。


「どのアイコンが誰を指しているのかは見た目では分からないけど、アイコンに名前を付けることはできるから、誰を指しているアイコンか分かったときには名前を付けておくといいよ。名前の付け方は、アイコンを指差して命名と云った後に名前を云うとかすればいいよ。言語理解機能も入っているから意味さえ伝われば操作はできるはずだよ」


 こうしてステータスウィンドウの説明が終わって一区切りしたんだけど、この後ピエロ神様がとんでもないことを宣言したんだ。


「じゃあ参考までに、今僕が思っている君達の強さのランキングを発表するよ。1番が僕の左に座っている君、次が右隣の君。そして次が左にふたつ目の席に座っている君、後は云わなくても分かるよね。左右交互に強い順になっているんだから」


 みんなは左右と交互に目をやり、そして12番目に僕を一斉に見たんだ。つまり、お分かりだと思うけど、とりあえず云うね、僕が一番弱い。


「でもみんな油断したらダメだよ。どんなチートを持っているか分からないんだから。例えばさっきからその子が大事に抱えている人形が襲い掛かってくるってこともあるからね」


 何か僕以外の全員から失笑が漏れたんだけど、僕は何も云わず俯いていたんだ。こんな化物達に目をつけられたくないもんね。こうなったら逃げて、逃げて、逃げまくるしかないかもしれない。


「あぁ、そうそう、あんまりゆっくりされても僕が退屈だから、とりあえず一戦交えてもらうと云うことで、今日から30日以内に誰でもいいから必ずひとり以上と戦ってくれないかな。まぁ、必ず殺せとは云わないけど少なくとも腕の一本ぐらいは折ってもらいたいね。もし逃げてばっかりで誰とも戦わなかったら、大事なものをひとつ失うことになるよ」


「大事なものって何だよ。もしかして僕のスラ君を……」


「違うよ、そんなことしたらチート対戦が不利になって、最強のチートを観測できないじゃないか。だから、まぁ男の場合は金玉ひとつだね。ひとつぐらいなくてもチートには影響ないだろうしね。女性の場合はまた今度考えておくよ」


 そういってピエロ神様は笑ったんだ。みんなさすがに金玉が無くなるのは嫌みたいで本気モードだよ。そしてそんな人達が見ているのが一番弱い僕なんだ。なんて苦行なんだ。

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