第19話 これが12のチートだ

「それじゃあ、素晴らしい戦いを期待しているよ」


 先程までそこにいた勇者12人はかき消え、テーブルと椅子も霧のように消滅した後、ピエロの格好をしたチート神はそこで佇み思案に耽っていた。


 うん、なかなかいい駒が揃っていたね。中にはゴミも混ざっていたけど、まぁ今回のイベントでいなくなるだろうしね。


 僕的強さランキング1位の『魔王勇者』、魔王なのに勇者を付けると混乱するから単に魔王と呼ぶね。彼のチートは「悪のカリスマ」、だから彼の仲間は彼の事を崇拝している。そして仲間の強さも勇者級。中には相手の時間を止めて攻撃してくるのもいるから厄介だよ。

 そんな仲間をどうやって集めたのかと云えば、実は旧魔王の四天王なんだ。あぁ、こういうと旧魔王を殺したのかと思われるかも知れないね。いや、実はまだピンピンしてるよ。ぶっちゃけ旧魔王も化物だからね、本気で戦ってたら魔王の統治する魔国は地上から消滅していただろうね。それが分かってたから魔王も城を離れて武者修行の旅に出たんだろうね。

 あぁ、もちろん仲間が強いのもそうなんだけど、彼自身もとてつもなく強いよ。そして彼には必殺技があってね、それは地獄で罪人の魂を焼きつける為に使われる炎を召喚するという技なんだ。この技は発動したら相手の魂を燃やし尽くすまで消えないからね。それに魂を焼かれる痛さは生きた人間にとっては想像もできない苦しみを伴うから、まさに魔王の必殺技に相応しいよ。


 2位は『聖勇者』大精霊の加護を持ち、地水火風の4精霊が彼の周りをいつも飛び交っている。もちろんカリスマ性は抜群でハーレムパーティーを形成している。当然のごとく異性に対しては鈍感だよ。まさに勇者の中の勇者、能力名を付けるなら『僕が考えた最強の勇者様』でいいんじゃないかな。魔王とは対極のポジションになるね。


 3位はズバリ『超能力者』だよ。魔法世界で超能力なんてインチキなんだけどね。でも彼はそれを望んでしまったのさ。詠唱なしで即座に発動する破壊的な光線。テレポート、念動力、忘れてはならないのがバリアだね。とにかくこの世界で彼はバランスブレーカーになると思うよ。性格は短気で攻撃的だから野良犬のように誰彼構わず噛みつくから、見かけたら即座に逃げることをお勧めするよ。


 4位は紅一点の『魔女』。ふたつ名は『星喰いの魔女』。彼女の願ったチートは星をひとつもらって、そこから得たものを全て自分の力にできるというものなんだ。そんな星ひとつをもらうなんて能力のキャパシティーを越えているって思うかもしれないけど、実はそれほど大したコストじゃないんだよ。だって宇宙を見てごらんよ、たくさんの星が転がっているだろ。あの星のたったひとつだからね、そんなの僕達にしたら、道に落ちている小石をくれと云われたのと同じだよ。

 それで彼女は星を亜空間に取り込んで、そこに家畜やら人間やらを色々送り込んで飼っているんだ。


 5位のチートは『不可侵』だね。このチートはぶっちゃけ攻撃が何も効かない能力なんだ。さっきここにいた中で彼にダメージを与えることができる存在はいないよ。もちろん僕も含めてね。魔法も効かないし強制転移もできない。さっきここに喚べたのは本体じゃなかったからさ。もし本体だったら僕にも喚べないからね。それほど強力なチートを持っているってことさ。でも、そんな強力なチートを選んだせいで、彼の身体能力は一般人並みなんだ。彼なら魔王でも倒せるんだけど、いかんせんスピードに難があるからね。つまり逃げられたらどうしようもないってことさ。


 6位のチートは『魔力錬金』、このチートは魔力さえあれば知っているものなら何でも錬金できる能力なんだ。もちろん銃でもミサイルでも何でもオッケーさ。構造を正確に覚えてなくても、何となくで錬金できてしまうのがこのチートの凄いところなんだ。

 彼自身は、爽やかな青年を装った女好きの鈍感系ハーレム主人公なんだよ。今日もチートを使って温泉宿を造ったり、この世界にはない甘いお菓子とか料理で女の子達に「さすがです」って褒められて喜んでいるよ。彼の作るお菓子は魔力で出来ているから甘くても太らないし虫歯にもならないんだ。そういう意味でも本当にチートだね。


 7位が山賊の頭みたいな大男なんだけど、実はあれは本当の彼じゃないんだ。その理由はチートを見れば分かるんだけど彼のチートは、『成り代わり』なんだ。つまり自分を殺した相手にとり憑いて、1週間ぐらいかけて身体を乗っとるのさ。この能力にかかれば魔王でも乗っとることができちゃうんだ。かなり厄介なチートだよ。でもその代わり欠点もあるんだよ、まず寿命で死んだらジ⚫エンド、つまり終了さ。それと自殺もアウトだから、どこかに閉じ込められちゃうと負けだね。

 寿命で死ぬなんてまずないと思ったら、それは間抜けだね。こんな強大なチートをぺ⭐天使君がただで渡す訳ないじゃないか。彼の場合はセミからスタートだったよ。僅か1週間の命だったから彼はそれはもう必死で殺してくれる相手を探してたよ。わざと殺されたら自殺だと判定されるかもしれないからね、大変だったよ。


 8位のチートはズバリ、『ダンジョンマスター』だ。凄く広大なダンジョンに罠をいっぱい仕掛けて待ち構えているよ。そしてこちらのハーレムは人外魔物ハーレムだ。ダンジョンポイントで購入した雌の魔物にビキニアーマーとか着せて遊んでいるみたいだよ。さっきの魔力錬金の勇者と似ているけど、こちらの彼はゲーム好きで、ダンジョンに入ってきた冒険者で遊んでは、それを見て嫁とイチャイチャするといった感じだよ。

 そうそう、さっき僕にからんできたのが彼だよ。全てがゲーム感覚だから礼儀がなってないんだよ。


 9位のチートは『巻き戻り』 だよ。能力は死んだら5分巻き戻るというものなんだ。やり直しが効くから有効といえばそうなんだけど、たったの5分だからね。自殺しても巻き戻るからいざというときは死ねばいいと思っているのかも知れないね。この能力は使いこなすのにちょっと頭を使うから、頭のキレる自分ならなんとかなると思ったのかな。


 10位のチートは『収納』だよ。相手に触れて収納と云えば、亜空間に入れることができるんだ。亜空間内は時間が止まっているから、彼が出そうと思わなかったら永遠に出てこられないよ。彼を殺してもパスが切れるからね、誰も取り出せないんだ。それはこの世界にある全ての亜空間収納に云えることで、カバンにしろ空間に切れ目が出来るにしろ、とにかくパスが切れたらおしまい、どうすることもできないんだ。だから本当に大切なものは亜空間にはしまわないし、誰の手にも渡したくないものは亜空間カバンに入れてカバンごと燃やすんだ。


 11位 の彼はヒーロー願望のある高校生、チートは『スライム使い』だよ。彼はね全てのスライムを使役できるんだ。実は彼の望みが巨大ロボットに乗り込んで悪者を蹂躙したいというものだったんだけど、この世界にはロボはないからねロボは。それで考えついたのがスライムを使うことだったみたいなんだ。

 この世界には精神感応ができるスライムがいてね、そのスライムを使役すると、まるで自分の身体の一部みたいに動かせるんだ。そのスライムを何千と集めて鉄板とかをくっつけると巨大ロボットみたいなのが完成するよね。元々スライムの動きは遅いんだけど、型にはめると意外と速く動けるんだよ。知能の低いスライムがそんなこと考えたりしないから今まで誰もやらなかったんだけどね。本当に人間の想像力は凄いよね、僕だったら絶対に思いつかないよ。


 そして最後、12位が『ゴミクズ』勇者だ。能力値が低かったから、使い魔を一度だけ召喚できるというチートしか渡せなかったんだ。一度だけだよたったの。使い魔が死んだらただの無力な人間になるんだよ、一体何を考えているんだろうね。

 僕も初めはちょっとだけ期待してたんだよ、どんな使い魔を召喚するのかなって。でもね、王城に1ヶ月、城下町に1ヶ月となにもしないで寝てばかり、いい加減僕も飽きちゃって、見るのをやめちゃったんだ。

 それで今日会って驚いたよ、だってまだ生きていたんだもん。しかもあんなに低いステータスで、使い魔の方も人形みたいに動かないし、きっとどこか安全な所でお人形遊びでもして遊んでたんだろうね。あの使い魔の目を見て分かったよ、あの目は性的な虐待を受けているものの目だってね。

 まぁ、何をしようと勝手なんだけど、ちょっとは良いところを見せてから死んでほしいものだね。


 ⭐ ⭐ ⭐


 ハッ、いよいよ始まっちゃうのか、僕は宿の一室で先程までのことを思い出しながら目覚めたんだ。みんな怖そうな人ばかりだったな。きっと凄いチートを持っているんだよ。ネコニャーなら何とかできるのかな?

 僕はその辺で丸まって寝てるはずのネコニャーを探したんだ。あれっ? ネコニャーがいないぞ。おかしいな、こんなこと今まで一度もなかったのに。もしかしたら、さっきまでいた部屋に置いてきてしまったんじゃないかと思った。

 凄く心細くなって焦ってたんだけど、枕の方を見て一気に脱力したんだ。そこにネコニャーが丸まっていたから。どうやら僕はネコニャーを枕にして寝てたみたい。よかったよ、そこにいてくれて。


「ステータスオープン」


 とりあえず、もらった能力を試してみたんだ。なんかこの画面てぺ⭐天使が持っていたのと似てるね。検索とかはできないみたいだから、機能限定版なのかな。

 僕が自分のステータスを見ていると、ネコニャーの耳がピクピク動いて起き上がってきたんだ。


「何か聞こえるニャ」


「おはよう、ネコニャー、どうしたの?」


 僕がそう訊くとネコニャーはウィンドウを見て、「ここから何か出たり入ったりしてるニャ」って云ったんだ。

 なんのことを云ってるのかな?  ネコニャーはたまに訳のわからないことを云うからね。まあ、これがパソコンだったら無線でデータをやり取りしているんだけどね…………、ってもしかしてネコニャーって電波を認識できるの? しかも神界で使ってるやつの。


カン、カン、カン、カーン


 そのとき突然ウィンドウから音がしたんだ。まるで踏切の遮断機みたいな音だった。ウィンドウを見ると地図が開いていて人の形をしたアイコンがいくつか表示されたんだけど、ふたつのアイコンが重なりそうになってる所が1ヶ所あったんだ。仲がいいんだなと思ったんだけど、これってもしかしたら動いてない方が僕で近づいて来てるのが僕を殺しに来た人じゃないのかなって思い至ったんだ。それでさっきの遮断機の音が転移の警告音だったんだ。つまりここから5キロぐらいに敵がいて、すぐここにやって来るってことなんだ。


「ネコニャー、ヤバイよ誰かが殺しに来るよ、早く逃げないと」


 僕はそういってネコニャーを抱えて窓から飛び出した。3階だったけど大丈夫。


「ネコニャー、ステルスオン。このまま上昇して」


 こうして僕たちは地上千メートルぐらいまで上昇して敵の出方をうかがうことにしたんだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る