第20話 怪獣 vs 巨大ロボット vs 超能力者

 はー、さっそく殺しに来るなんて、きっと夏休みの宿題は初日からやるタイプだよ。僕が一番弱いからみんな僕を狙ってくるのかな?


「なんて苦行だよ!」


「クギュウニャ」


「それツンデレキャラが云うセリフだから。ネコニャーはツンデレじゃないから」


 地上千メートルまで昇ったバリアの中で、僕はネコニャーに頼んで宿に向かってくる人をバリアのウィンドウに映してもらった。見るとカンガルーぽい体型の動物に引かせている荷台の上に乗った男が映し出されていたんだ。その顔は、さっきまで僕の左横で作り笑顔を浮かべていた人だった。

 僕はピエロ神様からもらったウィンドウの近付いてくる人の形をしたアイコンを指差して、「名前登録、作り笑顔」って云った。そして僕のアイコンもどれか分かったので、「僕」と名前を付けておいた。

 10分ぐらいして僕と作り笑顔の人のアイコンが重なった。でも僕は千メートル上空にいるので、見つけられずあちこち探していたけどついにあきらめて帰ろうとした時だった。


カン、カン、カン、カーン


 うわっびっくりした。また鳴ってるよ。ウィンドウを見ると僕と作り笑顔の人のアイコンから少し離れたところに2つもアイコンが増えてたんだ。ネコニャーにその方角をウィンドウで映してもらうと、街の外にそれらしいふたりの人物がいたんだ。

 ひとりは肩にスライムを乗せている高校生みたいな人、もうひとりが鈍感系のハーレム主人公みたいな爽やかな人だった。僕はさっそくアイコンに「スライム」と「鈍感ハーレム」を追加したんだ。

 映像を見ているとどうやらふたりは戦うみたいで、スライムの人が肩に乗せていた金色のスライムが急に膨れ上がったかと思うとスライムの人を体内に入れてしまったんだ。

 その後もどんどんスライムが増殖していって15メートルぐらいの人型の巨人になった。更に今度はメタルっぽいスライムが体表に付着して多い尽くしたかと思ったら、一瞬にして鋼鉄のように硬くなり、まるで巨大ロボットのようになったんだ。でも単色なのは寂しいなと思っていたら、様々な色のついたスライムが表面を這うように流れ落ち、綺麗に着色されたんだ。もう完璧にロボットだよ。


「ネコニャー見てよ、体は鋼鉄みたいに硬そうだし、鬼みたいに2本の角まであるよ。この前ダンジョンで見た巨神像みたいに大きいね」


 僕がそういうとネコニャーは急にガタガタと震えだしたんだ。


「どうしたのネコニャー、あんなの恐くないでしょ? ネコニャーの方が強いに決まってるよ」


「鋼の鬼の神ニャ……」


「ネコニャー、あのロボットのこと知ってるの?」


「殺しに来たニャ、吾輩を殺しに来たニャ、鋼鬼神が吾輩を殺しに来たニャーーー」


「どうしたんだよネコニャー、何があったんだよ。何であのロボットがネコニャーを殺しに来たって分かるんだよ」


「いってたニャ、みんないってたニャ、鋼鬼神が猫を殺しまくってるっていってたニャ。吾輩も猫だからきっとこーきしんに殺されるニャーーー」


 えーと、それって「好奇心は猫を殺す」だよね。


「ネコニャー、あれは偽物だよ。鋼鉄じゃなくスライムだし、鬼の角じゃなくてアンテナだし、神様でもないから」


「そうニャか? ほっ、安心ニャ、安心したニャ」


 そういってネコニャーの震えは止まったんだ。よかったよ、でもネコニャーにも怖いものがあるんだね。


 ⭐ ⭐ ⭐


「どうだ、見たかこれが俺の究極最強ロボ、グレートイナズマメガオークだーーー」


 ここまで来るのに長い道のりだった。思い出すだけでも気が遠くなるような絶望の日々。だが俺は頑張った、考えては実験し、問題があれば修正し、ちょっとした成功で狂喜した。それを積み重ねてここまで来たんだ。死にかけたことだってある。初めて全身をスライムに包まれて思考を繋げたとき、俺は無意識に考えてしまったんだ。スライムを肺に入れて直接酸素を取り込まなければならないと。まったく何でそんなことを考えてしまったのか、おかげで死にかけたぜ。


「さー、俺様のチートを見せてやる。どこからでもかかってきやがれ!」


「ハハハ、そうかい、ではこちらもいかせてもらうよ。魔力錬金」


 掛け声とともに巨大な怪獣が現れた。体長は20メートル、巨大な2本の足で直立した、日本ではよく見るタイプの怪獣だ。

 そしてここに巨大ロボット対怪獣の頂上決戦が開催された。

 まず先手をとったのはロボだった。届かぬはずの間合いから右腕を突き出した。すると肘のあたりがビヨーンと伸びて怪獣の頭部に命中。怪獣はお返しとばかりに口から火の玉を飛ばしてロボの胸部に命中したが、お互いにダメージはなかった。

 そこからは接近して殴ったり噛み付いたりしていたがお互い決めてもなく時間だけが過ぎていった。

 その膠着状態を打開したのは、必殺技やどちらかの油断なのではなく、遮断機の音、つまり新たなる勇者の登場だった。

 その赤い髪をツンツン立てた勇者は辺りを見回すと自分のいる場所からは相手を確認できないと悟りフワリと空中に浮き上がった。

 そして5キロほど離れた場所に怪獣と巨大ロボットが組み合っているのを見つけると、ニヤリと口角を上げてその場からかき消えた。

 次の瞬間、赤髪の青年は2体の頭上に発現していた。そしてまるで拡声器でも使っているかのような大音量で彼の声が響き渡った。


「おいおいおい、楽しそうなことしてるじゃねーか。ハーン、怪獣に変身するチートとロボットを召喚するチートってところか。どっちもクズチートだな。いくらガタイが大きくてもよー、圧倒的な破壊力の前では無意味なんだぜ。今度生まれ変わるときには、もっと頭を使ってチートを選ぶんだな」


 唖然として動きを止めていた2体の間に赤髪の青年が降りていくと、怪獣の胸とロボットの顔面の間で停止した。


「貴様は3位の――邪魔をするな。今は俺のグレートイナズマメガオークと怪獣ワニータとの一騎討ち中だ。相手をしてほしかったら俺様がワニータをぶっ殺すまで待ってろ」


 スライム使いは赤髪の青年に負けないようにスライム魔法を使って拡声して答えた。


「ククククク、じゃあこっちは勝手にやらせてもらうぜ、お前たちの対戦の続きはあの世でしな」


 そういうと、赤髪の青年から四方八方にエネルギー波が放出され2つの巨体が10メートルほど後方に弾き飛ばされた。幸運にも怪獣には尻尾があったおかげで転ばずに済み、ロボットの方はスライムで出来ていたのでグニャッとなってバランスを取り転ばなかった。


「キャハハハハ、どうしたお前も何か云ってみろよ、それとも変身したら口は効けませんってか?」


 そういって赤髪の青年は怪獣の方を向いて嘲笑っていた。それが油断だった、ロボットからの距離は10メートルあったし、攻撃を受けて大きくのけ反った後なので、すぐには反撃してこないと思っていたのだ。

 離れて観戦していた人達は見ていた。ロボットが大きく両手を広げて、赤髪の青年までの距離と同じ長さになるまで腕を伸ばしているところを。そして、まるで蚊を叩き潰す時のように手のひらを合わせるところを。

 街の外で巨大生物が戦ってると聞き見学に集まっていた人々の中で、プチッという音を聞いたように感じた人は一体何人いただろうか。あまりにも呆気なく、先程まで上から目線で語っていた赤髪の青年は潰された。

 が、次の瞬間轟音と共にロボットの両腕が肘のあたりから吹き飛んだ。


「バカどもが、これしきの攻撃でこの俺様が死ぬわけないだろ。無駄なんだよ、無駄、無駄、お前達の攻撃じゃあ俺様にかすり傷ひとつ付けられないんだよ。お前達の仕事はなぁ、大人しく俺様に殺されることなんだからよーーー」


 そういって赤髪の青年は右腕に纏わせたサイキックバリアを10メートル程に伸ばして怪獣とロボットの頭を横凪ぎにして切断した。


「うおっ、俺のメガオークの頭が――」


 スライム勇者はここにきてようやくこの男には勝てないと実感した。チート神のおこなったランク付けがそれなりに正しかったんだと納得できてしまったのだ。

 スライムには物理攻撃が効きにくいというのは一般的に云われることなのだが、斬撃や魔法には弱いということもよく知られている。その弱点を補うためにメタルスライムを使って鋼鉄の鎧を纏わせたのだが、先程の攻撃でまったく歯が立たないと分かってしまった。これはもう逃げる以外の手はないと思ったスライム勇者は、非常用脱出装置を作動させた。


「エアー充填、脱出用カプセル形成、背部脱出路解放、自爆3秒前、2、1……」


ぶしゃーーーーーーーーーー


 それは巨大ロボットなら必ず付いている自爆装置を起動した音だった。この自爆装置はスライムロボの胸部に空気を取り込み極限まで圧縮し、それを一気に解放するもので、意外と環境にやさしい自爆装置なのだ。まぁ、その代わり周りじゅうにスライムの残骸が飛び散って片付けが大変なのだが。ついでに爆発力を利用してロケットの形をしたスライムでできた脱出カプセルを背面から飛ばして、敵がスライムの残骸で目を眩ませている間に逃げることもできるのであった。


 スライム勇者がそんなことをしている間、魔力錬金勇者も似たようなことをしていた。つまり勝てそうにないから自爆して逃げ出そうとしていたのである。

 こちらの勇者はスライム勇者よりは打つ手が早く、背中に背負える飛行用ロケットを錬金し、怪獣を魔力爆発させると同時に飛んで逃げたのだ。

 2体の巨大生物の爆発はほぼ同時で、一瞬怪獣の方が早かった。赤髪の青年こと超能力勇者は、怪獣が爆発する気配を感じ、サイキックバリアをそちら側に厚くした。そして爆発に耐えたと思ったら今度は後ろからのスライム爆発で、薄かったバリアを貫通してスライムのぐちゃぐちゃになった残骸が、髪の毛や身体にベッタリと張り付いてしまったのだ。


「はーーー、何しやがる、このゴミ虫どもがーーー」


 怒ったところで、既にその姿はなくウィンドウを開いて見ると人型アイコンが2つ自分の場所から遠ざかって行くのが確認できた。テレポートで追いかけることもできたが、髪の毛に絡まるベトベトを一刻も早く取り除きたかったので、今回は諦めることにしたのだ。


「ペッ、今度あったら絶対殺すからな。覚えてやがれ」


 そう悪態をついて、赤髪の青年は消え去った。


 ⭐ ⭐ ⭐


「わー、ネコニャーすごい爆発だったね。それにあの赤い髪の人、絶対エスパーだよ」


 僕はそういってアイコンに「赤髪エスパー」と名前を付けたんだ。そういえば、一番最初に転移してきた「作り笑顔」のアイコンがいつの間にかなくなっている。死んだってことはないと思うから、どこかにあるはずなんだけど……。でもいくら地図を眺めてもアイコンが全部で11個しかないところを見るとやっぱり死んじゃったのかな?

 そんなことを考えながら僕は元の宿屋に戻ったんだ。


 翌日、僕はお昼ごろ目を覚ました。街は昨日の騒動の後片付けも終わったみたいで平穏を取り戻していた。

 僕は宿を出て広場に向かった。すごく賑やかで何軒か屋台が出ていた。その中に長さが30センチぐらいのフランクフルトがあったんだ。値段は199Gとリーズナブルだったので買うことにしたんだ。

 フランクフルトには木の棒が挿してあって、ケチャップみたいなのもハケで塗ってくれるみたい。僕は100G硬貨を2枚渡して商品を受け取り、そしてお釣りの1G硬貨を受け取ろうと手を伸ばしたとき髭をはやした屋台のおじさんが、僕の手の上に硬貨を置いて云ったんだ。


「収納」って。


 こうして僕とネコニャーは収納されちゃったんだ。


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