第14話 全てのアイテムボックス所持者が泣いた
じゃあ移動を再開しよう。3時間で10キロぐらい歩いたと思うから後40キロぐらいかな。
今からはネコニャーカーステルスモードで移動するから1時間以内にたどり着けるかな。時刻にしたら午後4時ぐらいに到着するはずなんだ。
「ネコニャー、バリアを車モードにしてステルスで外から見えないようにして」
「よし、初めはゆっくり動いて、そうそう段々速くね。よし、このぐらいのスピードでいいよ」
こんな感じで誰にも見つからないように移動して明るい内に次の街に着いたんだけど、ここで僕は初めての絶望を味わったんだ。
街をぐるって囲んでいる高さ10メートル位の壁に大きな門があって、そこに50人位の行列ができていたんだ。一番最後に僕も並んで覗いてみたら、どうやら荷物検査をしてるみたいなんだ。そして看板みたいなのがあってそこに大きな文字で次の言葉が書いてあったんだ。
「アイテムボックス、亜空間収納、拡張空間、4次元ポケットなどの見た目以上に収納できるアイテムや能力を持っている方は申し出てください。もし後で発覚した場合は、密輸罪、内乱罪、国家転覆罪などにとわれる場合があります」
嘘だーー、そんなことがあるはずがない。異世界小説ってたくさんあるし、アイテムボックスとか持っている主人公はいっぱい居るけど、検問で調べられるなんて聞いたことないよ。何をどれだけ収納していようと調べられないのがお約束じゃなかったの?
ヤバイよ、どうしよう。知らないふりして通ろうかな。でもバレたとき逮捕されちゃうし……。いっそのことこの街はあきらめて他の街に行こうかな。でも今から引き返すと怪しまれるし……。どうすればいいんだよ。
僕はとりあえずトイレに行くふりをして木の陰に隠れた。そこでネコニャーに相談したんだ。
「ネコニャー、無限収納ってあるでしょ。ネコニャーが色々収納したり、取り出したりするやつ。あれを持ってたら街に入れないんだけど、どうしたらいいかな?」
「持って入らなければいいニャ」
「え、でもカバンとかじゃないんだから置いとけないでしょ」
「預ければいいニャ」
「預けられるの? でも預ける相手もいないよ」
「この木に預けとくニャ」
「えっ、木が預かってくれるの? それでどうやって預けるの?」
「もう預けたニャ」
「そ、そうなんだ。預けたってことは返してもらうまで無限収納は使えないってことだよね」
「使えないニャ」
「そうか……、じゃあ、街の中であまり買い物はできないね。食糧の補充をしたかったんだけどね」
こうして無限収納を木に預けて、何事もなかったかのように荷物検査の列に並んだんだ。
しばらく宿に泊まれるぐらいのお金はポケットと背負い袋に入っているし着替えもあるから数日この街に滞在して、また南に移動を続けることにしたんだ。
そうして並んでると5組ぐらい前のパーティーの番になったんだ。そのパーティーは男1人女2人だったんだけど、なんかちょっとそわそわしてたんだ。
3人パーティーなのに手荷物が少なくて検査はすぐに終わったんだけど、検査官も少し不審に思ったのか、「あちらに書いてありますが、アイテムボックスなどの異次元収納を持っていませんか?」と念を押されていた。
そして、男の人は、「持ってない」とぶっきらぼうに答えて前に進んだんだ。
ビービービー
5歩も歩かない内にそんな音がして、次の瞬間3人の冒険者風の男女は、どこからか出てきた兵士に取り囲まれていたんだ。
「空間の歪みが検出されたぞ、貴様なにか空間を歪めるようなアイテムか能力を持っているな」
「いや、ちょっと待て、待ってくれ。何のことか心当たりがないぞ、その装置が故障しているんじゃないのか?」
男の人はかなり焦っているようで、声を上擦らせながら答えたんだ。
「とぼけても無駄だ、こちらには特殊収納検査アイテムがあるんだ」
そういって兵士のひとりが30センチ位の黒い棒を冒険者にかざすと、「塩を11キロ検出しました。剣を9本検出しました。槍を5本検出しました……」と次々に読み上げていった。
男の人は顔面蒼白になって周りをキョロキョロ見回して、すごく動揺しているみたいだった。
「おっ、俺は知らない、そんなものは持ってないぞ、俺はB級冒険者のズバンだ、この街に来たのは初めてだが、貴族の依頼もよく受けるし、知り合いも多いんだぞ」
兵士さんたちはB級とか貴族とか聞いても怯んだ様子はなかったよ。
「あのー、私たち2人はこの男とはさっき会ったばかりで関係ないんですけど、もう行っていいですか?」
女のひとことに、男は一瞬裏切られたような怒りの表情を見せたが、だんだん涙目になって行き、最後には捨てられた仔犬のような顔をして、「その通りだ、さっき知り合ったばかりだ」と云ったんだ。
そして男の人だけどこかに連れて行かれちゃったんだ。怖いよこの荷物検査。すごい探知アイテム持ってるし、僕もあの人みたいに捕まっちゃったらどうしよう。
そんなことを考えながらビクビクしてたんだけど、結果的には何事もなく通れたよ。マスクを外して顔を見せるよう云われたけど、その通りにしたら怒られなかったし。はぁ、本当に寿命が縮んだよ。
街に入るとたくさんの店が並んでいた。とりあえず今晩泊まる宿を探さないといけないんだけど、ここで忘れてはいけないことがあるんだ。それは、今現在無限収納が使えないってことなんだ。それが宿とどう関係あるんだと思われるかもしれないけど、大有りなんだ。だってトイレが使えないんだから。正確には使えないんじゃなくて流せないっていうのが正しいんだけどね。
ということで、いつもより少しグレードを上げて個室のトイレがついた部屋を借りることにしたんだ。いつもなら情報収集のために酒場のある宿屋にしてたんだけど、情報を集めるのは他の方法が見つかったから今回からは静かな部屋に泊まっていいんだ。
そうして見つけたのが2人で1万5千Gの部屋だった。食事は今から外出するから抜いての料金なんだ。どこに行くかって? 実は洋服屋さんなんだ。へへ、初めてのオーダーメイド。こんな僕が服を作ってもらうなんて似合わないと思うでしょ。でも違うんだ、服じゃなくてマスクの注文だから。いや、さすがに自分で作ったマスクじゃヘンテコすぎて逆に目立っちゃうってわかったんだよ。それでプロの人にちゃんと作ってもらうことにしたんだ。
ということで、宿の人にマスクを作ってくれそうな店を訊いて紹介してもらったんだ。
教えてもらった店はこじんまりとしていて、おばあさんがひとりで店番をしていた。僕は自分が被っているマスクを見せて、これをもっとカッコよくしてくださいとお願いしたんだ。後、後ろで結んでいる紐なんだけど、自分で作ったやつは端に布で作った紐を縫い付けて蝶結びにしてたんだけど、本物のマスクみたいに靴紐みたいなのを×××で通して脱げにくくしてくださいとお願いしたんだ。補強のためその部分は布に皮を縫い付けてくださいとも云っておいたよ。後、予備も必要だと思って2枚注文した。
おばあさんは僕の頭の寸法を細かく測ってメモしてた。
こうして無事に注文ができ、3日後に出来上がるって云ってたから、それまではこの街を探索することにしたんだ。
そして3日後、無事にマスクを受け取ってその場で装着した。さすがプロの仕事だねサイズはピッタリで目と鼻の位置も問題なかったよ。代金は5万Gとちょっと高めだったけど大満足のできだった。
そのまま新しいマスクを着けて街に出た。自分で作ったマスクは背負い袋に大切に保管しておいた。
時刻はまだ10時だからパンを持てるだけ買い込んで暖かい南の街に向かって出発だ。
買い物を済ませて勢い込んで南門から出たんだけど、何か忘れているような気がして立ち止まったんだ。何だったかな、すごく重要なことだと思うんだけど……。
とりあえず、荷物をネコニャーに収納してもらって考えるか……。
「あーーー、無限収納を木に預けたままだった」
ヤバイよ、ヤバイよ、一度外に出たらまた荷物検査を受けないといけないし、外周を回るとすごく遠回りになるし……、でも仕方がないか遠回りでも無限収納は置いていけないしね。
そう思ってネコニャーに云ったんだ。
「ネコニャー、無限収納を木に預けて忘れてたよ。取りに行かなくっちゃ」
「大丈夫ニャ、すぐに持ってくるニャ」
えっ、どういう意味なのかな? すぐに行けば間に合うってことかな?
そう思いながら外壁伝いに歩いていると目の前にネコニャーが現れたんだ。右耳に黒い模様があって、服も獣の皮を着ているように見えるけど、あれって地毛なんだよ。そして靴は履いてなくて肉球が足の裏にあるみたい。完全に魔物モードのネコニャーだよ。
ああ、さっきネコニャーが云っていたのはこのことだったんだ。つまりお使いのネコニャーが無限収納を回収してきてくれるってことだったんだ。
ネコニャーがゴソゴソと腕の中で動いたので、受け取りに行くんだと思って地面に下ろしたんだ。でも、僕はまだネコニャーを見誤っていたと、このあと思い知らされたよ。
2人のネコニャーが互いに近付いてハイタッチをしたんだ。それが受け渡した合図だと僕は思ったんだけど、魔物の方のネコニャーが僕に近付いて来て何か用があるのかと見ていたら、僕の腕の中に飛び込んできてスッポリと収まったんだ。
えっ? て誰でも思うでしょ、僕もそう思ったよ。そしてアワアワしてるとネコニャーが云ったんだ、「交代ニャ」って。
「ちょっ、ちょっと待ってよ、僕を守ってくれるのはあっちのネコニャーじゃなかったの?」
「同じニャ、みんな雨のひと雫だからニャ」
雨のひと雫ってどういう意味なんだろうって考えていると、僕から離れて行ったネコニャーが変身しだして、髪の毛が黒、体毛も黒になってたんだ。そして軽く地面を蹴ったかと思うと、一瞬にして天高く舞い上がり、一度宙返りしたかと思ったら壁を蹴るように空気を蹴ってパシュって飛んで行ったんだ。
あーあ、行っちゃったよ。なんかすごく楽しそうに空を飛んでたな。でも真っ黒って闇落ちしたってことなのかな?
腕の中には野性味溢れるネコニャーがいる。なんか違和感が半端ないんだけど……。
「あの……ネコニャー、服を着てないと目立っちゃうんだけど」
僕がそういうと、ネコニャーは変身していつものネコニャーの姿になったんだ。耳の模様もなくなって完璧に元のネコニャーだよ。
違和感もないし、これならいつも通りにやっていけるよ。
それにしても、さっきの雨のひと雫ってどういう意味だったんだろ。
雨、降ってくる雨のひと粒ひと粒は独立しているけど、元をただせば雲だったんだよね。なにかの変化で水の粒子が集まって落ちてくるのが雨粒。つまり、雨粒のひとつ1つがネコニャーで、元は雲みたいな固まりだったってことなのかな?
雨粒はやがて地面に叩きつけられ水溜まりになったり、川に合流して海に流れ着く。そして太陽の力で蒸発してまた雲になるんだ。つまり、この水の循環というシステムそのものがネコニャーで、形が違っていてたとしても全部ネコニャーってことなのかな。
雨粒になった時が誕生で、地面にたどり着いたときが死だとしたら、人間の一生って雨粒として落ちている間の儚いひとときなんだね。
人生って長いもんだと思ったけど、考えてみれば幼稚園から小学校、そして中学はちょっとしか行ってないし、後は部屋で1年間引きこもっていた。そして、こちらの世界に来て3ヶ月ぐらいだったかな。思い返すとほんの一瞬だったような気がするよ。
水の循環と魂の循環が似ているのなら、僕は今どこに居るんだろう? 一度死んだから今は地面の上を流れているのかな? ネコニャーとひとつになって……。
いつか何かの力で蒸発して天に昇ることもあるってことなのかな?
そんなことを考えながら僕は暖かい陽射しの中を進んで行ったんだ。
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