第22話 収納空間から取り出そうとしたら猫パンチが返ってくる件

「ネコニャー、時計を見せて」


 僕がそういうとバリアの内側にウィンドウが開いて時計塔の文字盤が映し出された。これで収納空間にいても外の様子が分かるって確認できたんだ。

 しばらく数をかぞえながら時計を見ているとだいたい60秒で時計の針が動いたので、体感時間と現実の時間との差も無いみたいだ。


「ねぇ、ネコニャー、外の様子が知りたいんだけど見れるかな?」


「どこの外ニャ」


「えーと、この収納空間を持っている人がどんなひとなのか知りたいんだけど……」


「こんど開いたら見れるニャ」


「つまり、今度その人が収納を使ったら見れるようになるってことかな?」


「そうニャ」


「じゃあお願い」


 それから1時間ぐらい経ってネコニャーが「開いたニャ」っていったので外の様子をウィンドウに映してもらったんだ。するとそこに映ったのは作り笑顔の人だったんだ。屋台のおじさんが僕たちを閉じ込めたのかなって思っていたんだけど、変装をしていたみたいで正体は勇者のひとりだったんだ。これで閉じ込められた理由が分かったよ。

 その勇者が何をしているのかと見れば、どうやらどこかの家の庭でパーティーをするみたいで、作り置きしていた料理を収納から出して並べてるみたいなんだ。


「ねぇ、ネコニャー、この収納空間のどこから料理が出ていってるかわかるかな?」


「わかるニャ」


 それで、その場所に移動してもらい様子を見ていた。すると突然空間から手が現れたかと思ったら、どこからか食べ物が転移して来て、そのあと手と共に食べ物が消えるという光景が見られたんだ。

 へー、こうやって収納していたものを取り出してるんだ。今まで不思議に思っていたんだけど、舞台裏が分かって納得できたよ。ただ、思った通りの品物を転移させられるという仕掛けがどうなってるのか分からないんだけどね。

 手が出現する位置はいつも同じみたいなんだ。たぶん収納空間のちょうど中心ぐらいの位置だと思う。


 ⭐ ⭐ ⭐


 俺のチートは「収納空間」、チート神のランキングでは第10位になっているが、俺自身はこのチートを気に入っているし、やりようによっては上位の奴等に一泡ふかせてやることも可能だと思っている。

 おそらくあのランキングの評価基準は破壊力を重視しているのだろう。だから俺のチートのような戦い以外のことにも使える便利な能力を選んだ者は評価が低いのだと思う。

 この能力のどこが便利なのかと云えば、手に触れさえすればかなり重くて大きい物でも収納できるということだ。それと、ある程度融通もきく。例えば地面に手を着けて「収納」と云えば、四角く地面を切り取って収納することもできるし、丸く切り取ることもできる。

 この能力の利用法のひとつに、地面を60センチぐらいの深さで収納して、上下を逆さまにして元の場所に戻すというものがある。これは天地返しと云って同じ土地で同じ作物を作り続けることから起こる連作障害を回避するのに有効な手段だ。少し高い位置から落とせば土が砕けて耕したのと似たような効果も得られるので一石二鳥になる。

 その他の利点として、収納したものは時間が停止するので料理とかは冷めないし、魚とかも新鮮なまま運ぶことができる。

 このように、俺のチートはただ戦うことだけを考えて選んだチートではなく、生活していくために必要になるだろうと思って選んだチートなんだ。

 まぁ、俺に云わせれば破壊しかもたらさないチートなんてゴミだな。確かにどんな存在でも消し去れるチートを持っていたら最強なんだろうけど、それで最終的にはどうなるんだ? 自分が気に入らない存在を殺し尽くしていなくなりました、残ったのは善人ばかりです。という状態になったとき、そいつは何をして生きていくんだろうな……。


 この世界に来て色々なことがあった。俺を召喚した王国の奴らは腐っていやがって、なんやかんやと恩着せがましく云ってきたり、お世話係と称したハニートラップや食事への薬物の混入、挙げ句の果てには地下牢への投獄。

 いくら追及されても自分のチートを云わなかったおかげで、石のブロックでできた壁や土を収納しては戻してを繰り返し、完璧な脱出劇を演じることができた。

 脱出した後も、お約束のように盗賊に襲われていた馬車に乗っていた令嬢を助けて感謝されたり、冒険者ギルドに登録しに行ったときは絡まれて、胸ぐらを掴まれたので、そのまま服を収納して裸にして撃退したりと色々なことがあった。

 そして仲間もできた。と云っても奴隷を購入したのだが。俺が召喚された国には奴隷制度があって、貧しい村の子供や孤児、とにかく生きていく能力のない弱者は最終的には奴隷になるかのたれ死ぬ。それより悲惨なのは亜人と呼ばれる人間以外のものたちだ。人間じゃないのでこの国では人間扱いされていない。

 そんな亜人の娘を3人俺は買った。その3人は犬耳、猫耳、兎耳と種族が違うので血縁関係はないはずなんだが、まるで姉妹のように3人寄り添って震えていたんだ。年齢はみんな10才なのだが、亜人は成長が早く身長も150センチぐらいでもう成人しているとのことだった。ようするに子供が産めるらしい。

 3人の中で一番しっかりしているのが犬耳少女のディーだ。彼女は俺の手伝いもよくしてくれるし、すごく気のきく少女だ。俺が仕事で留守にしているときも、しっかりと2人の面倒を見ながら掃除や洗濯など家の事をみんなで手分けしてやってくれる。

 種族的特質なのか一番やんちゃなのが猫耳少女のミーだ。ミーはとにかくお転婆で好奇心旺盛だ。食べることも大好きで、3人の中では一番の食いしん坊さんだ。でも、彼女がバクバク食べるのを見るのが俺は好きだ。そしてお腹一杯食べた後はすぐに眠くなって幸せそうに寝てしまう。そんな姿を見ると俺は明日も頑張ろうと思えるんだ。

 最後に一番おとなしいのが兎耳少女のウサ子だ。ウサ子はいつも何かに怯えているような少女だった。力も弱いし運動能力も低い。ふたりのお姉さんの陰に隠れて震えている少女だったんだ。でも最近は少しは俺に馴れてくれたのか、俺が話しかけるとコクコク頷いたり、たまにだけど笑顔を見せてくれるようになったんだ。その笑顔の可愛い事といったら、何かに例えるなんて出来ないほど、本当に最高の笑顔なんだ。俺はこの笑顔の為にならどんな苦痛にも耐えられると思っているんだ。

 だから、俺はこいつらを養う為にも一生懸命働いた。一応本職は冒険者だが能力を使った農作業の手伝いや荷物運び、穴堀とかの土木工事も得意だ。

 こうして貯めた金で庭付きの一戸建ての家も借りてやっと生活が落ち着いたと思ったら、チート神様の召集と、チート保持者による殺し合いの始まり。まったく心が安らぐ暇もない。

 幸運だったのはランキング最下位のチート保持者の居場所を俺が知っていたことだ。偶然か必然かは分からないが、俺の右隣に座っていた猫耳幼女を抱えた少年は、俺のいる国の冒険者ギルドでは結構噂になっている。

 曰く、猫耳幼女を抱えた猫のマスクを被った少年、通称ネコネコがギルド嬢を殺して逃げたと。

 その情報をもとに現在いるであろう場所にあたりをつけて転移をしたらドンピシャリで翌日には収納完了というわけだ。もちろん殺す気なんてない。もし俺が勇者全員を収納して生き残ったら、最後には解放してやろうと思っている。

 途中で3人も勇者が現れたのは誤算だったが、ステータスウィンドウを収納したら俺のアイコンが消えたのか見つかることなくやり過ごせた。

 一応、1ヶ月以内にチート保持者と対戦するというノルマも果たせたことだし、これで金玉を取られることなく安心してしばらくの間は過ごせるだろう。

 ということで、慎ましくはあるがこうしてパーティーを開いてお祝いをしているわけだ。


「美味しかったですー」

「美味しかったニャ」

「コクコク」


 3人とも満足してくれたみたいだ。内気で口数の少ないウサ子もコクコクして同意してくれたし、これが俺にとっての幸せなのかなー、なんて思ってしまう。

 よーし、最後にとっておきの苺ショートを出してやろうと俺は収納空間に手を入れて、それを思い浮かべた。


ペシッ


 えっ? 何かに叩かれたような感覚が……。もう一度。


ペシッ、ペシッ


 何だ? 俺は素早く手を抜いた。すると俺の手を追いかけてくるかのように――猫の手が空間の裂け目から出て来て、俺の手を探してるかのように動いてるんだ。

 ちょっ、何で収納空間から猫の手が出てくるんだ? しかも動いている。収納空間の中は時間が止まってるはずなのに……。

 俺は猫の手が引っ込んだ隙に収納空間の入口になっている空間の裂け目をのぞき込んだんだ――すると向こうからもこちらをのぞき見る一対の瞳があったのだった…………。ひぃえーーーーーー。


「お前が深淵を覗くとき、深淵もまたお前を覗いているのだ」 by ニーチェ


「ダメだよネコニャー、ペシペシしたら。僕たちがここにいることがバレちゃうよ」


 まっまさか、あの猫耳幼女勇者がこの中で動いているだと――――。


「あっ、見つかっちゃった――。御免なさい。ケーキは食べちゃいました。また美味しいものがあったらよろしくお願いします」


「で、で、で、出ていけーーーー」


「えー、お兄さんが入れたんでしょ。僕、ここが気に入ったからしばらくここに引きこもるって決めたんです。僕の引きこもり体質をなめないでください」


出ろーーーー


ペシッ


出ろーーーー


ペシッ


 あー、いくら出そうとしても出て来やがらない。そして無理やり出す方法も思いつかない。これってもしかして――――住み着かれた?

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ゴミクズ勇者と猫化けちゃん romuni @romuni

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