第8話 猫耳の愛で方って人それぞれです
1週間に一度ダンジョンに行く生活を1ヶ月ぐらい繰り返したんだけど、さすがに飽きてきちゃったので第2階層に進むことにしたんだ。
いつものようにダンジョンの入口から入って、ネコニャーの案内に従って歩いた。
「ねぇ、ネコニャー、どこまで道がわかってるの?」
「全部ニャ、全部わかってるニャ、丸わかりニャ」
「……そ、そうなんだ」
本当に全部わかるのかな? もしわかるんだったら、なんでわかるんだろう……。
僕はそんなことを考えていたんだ。するとネコニャーの耳が僕のアゴに当たって先っぽがクニャって曲がった。猫の耳ってペラペラしてて、こんな感触って他にないような気がする。次の瞬間、アゴから耳が離れたんだけど、すぐにピンと耳が立って復活した。
猫の耳って神経が通ってないから、去勢した野良猫の耳をカットして目印にしてるって聞いたことあるけど本当なのかな?
僕はバレないようにソッとアゴをネコニャーの耳に押し当てた。すると先っぽが1センチぐらい曲がった。
まだ気付かれていないようだ。更にアゴを押し当てると2センチぐらい曲がった。
そろそろバレるかな? そして更にアゴを落とすと、ピクピクって耳が動いて僕のアゴから逃げて行ったんだ。
ヤバイ、バレたかなって内心ビクビクしながら、僕は素知らぬふりで、あくまでも偶然あたりましたって装ったんだ。
幸いネコニャーにはバレなかったみたいで、また今度挑戦しようと心に誓った。
3時間ぐらいかけて歩き、やっと下へ降りる階段が見えてきたとき、今までに見なかったネズミが現れた。
前方に3匹出現したと思ったら、すぐに後ろを向いて逃げ出したんだ。次の瞬間、ネズミのお尻からバシュバシュバシュと何かが発射されたかと思ったら、バリアに当たって弾き飛ばされた。たぶん針ネズミの針なんだろう。宿屋で盗み聞きした情報によると1階から2階に降りる階段近くに出ることがあるらしいから。
針ネズミは逃げて行ったので、そのまま階段を降りて2階に行った。この階層に出るのは体長50センチぐらいの犬みたいな魔物で、噛み付いてくるらしい。しかし、それほど強くないのでアキレス腱さえ守っていれば大丈夫みたいだ。
「じゃあ、ネコニャー、僕もう疲れたから車モードでお願いします」
そういって僕はソファーに座るように腰をおろした。すると柔らかいものに身体が包まれて足の裏が床から離れた。
「では、ゆっくり進んで、ゆっくりだよ、バシュッてやったらダメだからね」
そういうと、周りの景色がゆっくりと流れ始め、そして時速30キロぐらいになったときこれ以上スピードを上げないようにしてもらった。
しばらく走っていると魔犬が2匹現れてこちらに向かってきた。そしてバリアに当たって、次の瞬間には壁に激突して魔石を残して消滅していた。魔石の色は緑色なので風魔石だ。
そして次の瞬間、魔石もフッと消えたんだ。ダンジョンに吸収された訳じゃないよ。ネコニャーが無限収納に入れたんだ。皮袋をかまえて待っているのもけっこう疲れるので、ネコニャーに相談したら、「できるニャ」って云って収納してくれたんだ。もう僕のやることって何もないってぐらい便利だよ。
こうして冒険者に出あわないように道を選びながら、2階層を走り回って魔石を集めまくったんだ。
2時間ぐらいしたとき、頭が2つある犬が出現したんだ。体も大きくて1メートルぐらい。それで風でできた円盤みたいなのを口から出して攻撃してくるんだ。もちろんそんな攻撃はネコニャーの不思議バリアではじかれたんだけど。
最後は特攻してきたんだけど前足をバリアに絡め取られて、床にバシンバシンと叩きつけられて魔石になったよ。
見ると下に行く階段があったから第3階層に降りたんだ。
3階層の魔物はコウモリだった。しかも体が燃えてるんだ。ファイヤーコウモリだね。その燃えてるコウモリが突っ込んでくるんだよ。
ちょっと油っぽいものを分泌しているのか、床に落ちたコウモリがしばらく床を燃やしてたよ。きっと服に着いたら火だるまになっちゃうんだね。
まぁ、ネコニャーのバリアには関係ないんだけどね。全部バリアにぶつかって魔石になったよ。石は赤色で火魔石だね。
ネズミが土で、犬が風、コウモリが火だから、次は水かな。
そういえば、魔石の使い方ってこの前冒険者が話していたな。
土の魔石は、そのまま畑に撒くと肥料になるらしい。土壌改良材にもなってこれさえ撒けば他には要らないというから農家の人が欲しがるのも仕方ないよ。
風の魔石は、それ単体では何もできないんだけど、誘導石っていうのを近づけると風が噴き出すみたいなんだ。この誘導石っていうのは火や水などの土以外の魔石にも使えて、近づけると火が出たり水が出たりするんだ。それで風の魔石は風が噴き出す力を利用して動力に使っているみたい。
火の魔石は一般家庭ではコンロとか調理に使っているんだ。それ以外には鍛冶にも大量に使っているみたい。きっとドワーフとかが使ってるんだと思う。
水の魔石はもちろん水が出るんだけど、飲み水には適さないみたいなんだ。飲めなくはないんだけど、味がしないようで不味く感じるみたいなんだ。でも手を洗ったり洗濯したりするのには問題ないみたいなんだ。
そんなことを考えていると、第4階層に降りる階段が見えてきたんだ。今回は小ボス的なちょっと強い魔物は出てこなかった。そういうときもあるよね。
階段を降りると、今までと同じ石壁の迷路だった。さてこの階層はどんな魔物が出てくるんだろうね。
「じゃあ、ネコニャー、同じように人間に見付からないように適当に走って」
「ニャッ」
しばらく走っているとバリアに何か液体のようなものがかかっては跳ね返されるという現象が発生するようになった。どこから水が飛んで来るのだろうと見ていたら、カメレオンみたいな魔物がバリアに落ちてきてグルングルン回転して壁に投げ飛ばされて魔石になっていた。
カメレオンだから、たぶん保護色で壁に同化していたんだと思う。そういえば冒険者の噂で、カメレオンが痺れ薬を飛ばしてきて冒険者を動けなくするっていうのを聞いたことがあったよ。下手をすると飢え死にするまで痺れさせられるんだって。
カメレオンの魔石は水色だから水魔石みたいだ。カメレオンがどこにいるのか僕には見えないけど、走っていると時々チャリンチャリンと魔石が床に落ちる音がして、あぁ、いたんだなってわかるんだ。
2時間ぐらい経ったとき、100メートルぐらいの直線になっている通路に出くわした。その通路をバリアで出来た車、名付けてバリアカーで走っていると、マシンガンで撃たれたかのように水の玉が飛んできた。
まぁ、全部バリアで止まってるからダメージはないんだけどね。他の冒険者はどうやって対処しているんだろう?
近付いて行くと、玉の数が減っていきついには玉が飛んで来なくなった。玉切れなのかな?
通路の向こう側を見るとでっかいカメレオンがいたんだ。僕はデカメレオンと名付けたよ。体長1メートルぐらいあるのかな?
5メートルぐらいまで接近したとき、また急にマシンガン攻撃が始まったんだ。最後の足掻きなのか、それとも油断を誘う罠なのかは知らないけど、ネコニャーのバリアの前では意味がなかったよ。デカメレオンはバリアに触れると綺麗な弧を描くようにバリアの円周を滑って行き、プロレス技のジャーマンスープレックスをくらったように頭から床に叩きつけられて魔石になったよ。
ここでそろそろ午後3時ぐらいになったので帰ることにしたんだ。帰りは最短コースで帰ったから3時間ぐらいでダンジョンから出られたよ。
ダンジョンを出ると珍しく雨が降っていたんだ。けっこう激しく降っていたんだけど、この雨って少し保存してもいいかな?
「ねぇ、ネコニャー、雨を取っておきたいんだけどできるかな?」
「できるニャ」
そういってネコニャーが「フッ」と力を入れると、僕の手の中に直径2センチぐらいの玉が出現したんだ。
「ネコニャー、これ何?」
「ギュッてしたニャ」
「えー、雨をギュッてしたの?」
「したニャ」
またしてもネコニャーの不思議能力が発現したみたいだ。僕は雨を無限収納に入れてもらおうと思ったんだけど、ネコニャーは玉にしちゃったんだ。でもこの玉から水を取り出すのってどうすればいいのかな。水魔石に似ているけど同じように使えるのかな。
そんなことを考えながら、とりあえず100個ぐらいこの玉を作ってくれるようにネコニャーにお願いしたんだ。
そのあとギルドに行く前に魔石を入れる皮袋を5つ買った。そしてネコニャーにお願いして魔石を種類ごとに別けて袋に入れてもらったんだ。
冒険者ギルドの入口をそっと目立たないようにくぐった。でも一瞬みんなの動きが止まったんだ。すぐに動き始めたけど、なんか嫌な感じだな……。
僕は一目散に買取所に向かい空いている受付に入ったんだ。今回は眼鏡をかけた30歳ぐらいのできる執事みたいな人だった。
「いらっしゃい」
眼鏡の執事さんはにっこりと微笑んで僕を見た。僕は軽く頭を下げて席につき、皮の袋を4つ差し出し、「買取りをお願いします」と云ったんだ。
すると眼鏡の人はトレーを4つ出してそれぞれ皮袋に入っていたものを出して計りにかけてくれたんだ。全部で25万Gにもなった。
今までの最高収入に気をよくした僕は、ネコニャー作の謎の水魔石を袋から1つ出してカウンターに置いたんだ。
「あの……これなんですけど普通のヤツとは違うと思うんですが……買取りってできますか?」
「拝見いたします」
そういって眼鏡の人は魔石を手のひらの上で転がしたり光で透かしたりしたあと、何らかの鑑定装置の上に置いた。
「内包量は千リットル程ですか。普通はこの大きさでは500リットルぐらいですから、質はかなり良い物のようです」
「そうですか……でも普通の魔石と同じ使い方ができるかどうかわからないんです。例えば水が出てこないとか……」
僕がそういうと、眼鏡の人は誘導石のついた装置を取り出して、僕の魔石をセットしたんだ。
「少し水を出してよろしいですか?」
その言葉に僕が頷いたのを確認すると、眼鏡の人はレバーをゆっくりと動かした。すると誘導石から水がチョロチョロと流れて置いてあったグラスの中に溜まった。
「大丈夫です、正常に機能しました。問題はありません」
「そうですか。ありがとうございます。普通の魔石と同じなんですね」
「ええ、そうですが……何か特別ないわれのあるものだったのですか?」
そういって眼鏡の人はグラスに口をつけ、ひとくち飲んで固まった。そして無言でもうひとくち。
「おいしい、この水は飲めます! すばらしい、普通この容量の水魔石は100G程の買取り価格ですが、こちらの品物でしたら1万Gで買取ってもいいでしょう」
「えっ、そんなに! じゃあ100個なら100万Gじゃないですか!」
それを聞いた執事の人の眼鏡がキランとなった。あれっ、なんかまずったかな?
「あるのですか? あるのですね100個! さぁ見せてください、さぁさぁ早く早く」
僕は勢いに押されて気が付けば全部差し出していた。眼鏡の人は適当にもう1つ魔石を抜き出して先程の魔石と同じものなのかを確認していた。用心深い人みたいだ。
僕はその様子を見ながら、使えるものなら自分で使おうって思ってたんだけど……、まぁ後でまたネコニャーに作ってもらえばいいか、と思っていた。
こうして僕は100万Gという大金を手に入れたんだ。でも本当にあの魔石もどきにそんな価値があったのかな? ネコニャーがタダで作った物だし、どんな欠陥があるかわからないのに……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます