皇帝-05
「もう気付いているであろうが、余はヨモツスエノカミ・ヒトヨノミコト・モリクニ。天帝国ジラードの第一皇位継承者じゃ。フランチェスカ、アレフ、改めて礼を言う、そなたらは余の命の恩人じゃ」
……
今頃になってやっと人間として認められたのか。
「いえ、殿下をお助けしたのはフランチェスカの魔法ですし、僕……私は逆に命を救って頂いております。お気になさらずに」
流石に皇太子殿下に自己紹介されて、今までどおりの話し方って訳にはいかない。僕は背中の痛みを我慢して座り直した。
「良い。楽に致せ」
軽く手を上げ、僕を制す。
為政者の威厳ってやつか。6~7歳の子どもと対峙しているはずなのに、僕は素直に従っていた。
「そなたらには話して聞かせねばなるまいな。余は皇太子とはいえ見ての通り子供じゃ。天帝陛下はご健勝にあらせられるが、次代の皇位継承者争いは既に起こっておる。第二皇位継承者である叔父のヤスクニに命を狙われ、余は離宮で生活しておった。しかし最近とみに攻撃が激しくなってな、陛下のご意向により、余はヤスクニの力の及ばぬ『王国』へと留学する事になった。内密にな」
立て板に水を流すように、滔々と話すモリクニ。
僕らはただ真剣にその話を聞いていた。
「しかし計画は露見し、この有り様じゃ。爆破に巻き込まれて皇民にも被害が出ておろう。国の船には見張りも付いておろうし、余はここで戦い続けるしかあるまい。そなたらに救ってもらった命、無駄にはせぬつもりじゃ。世話になったな」
話し終えるとモリクニはゆっくりと立ち上がる。
たっぷりとした袖を翻し、伸ばした手でヤスケさんからきれいな刺繍の入った小さな袋を受け取ると、僕らの前まで静かに歩み寄った。
「こんなものですまぬが、……礼の品じゃ。受け取るがよい」
もし「褒美」と言われたら僕は怒鳴りつけてしまうところだった。「礼の品」と言葉を選んだモリクニを僕は助けたいと思った。
それに、僕は、この「未来の皇帝」を絵に描きたい。
僕の表情で考えが分かったのだろう、フランチェスカは僕の体を支えると、座り直させてくれた。
「殿下、恐れながら申し上げます」
礼の品を丁重に断り、僕は話し始める。
「良い。申せ」
「その前に、ヤスケさん。ここでの会話は敵に漏れたりしていませんか?」
ヤスケさんは難しい顔のまま、静かに頷いた。
僕は続きを話す。
「私の実家は小さいながらもトライアンフ商会という商家を営んでおりまして、陛下の御厚情の元、御国との交易にも携わらせて頂いております。殿下が民間の船をご所望とあらば、私の責任のもと、信用できる筋で用意することが出来ると思います。もちろん、殿下の素性は秘密のままです」
「……面白い。アレフ、そなたに任せよう」
モリクニは即答する。
「それで、余はそなたにどう報いれば良い?」
「それでは……」
僕はフランチェスカと顔を見合わせ、ニッコリと微笑んだ。
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