愚者-03

 二人旅へ向けての買い物と美味しい食事を終え、宿の部屋に入った僕らは旅の相談をすることにした。


「で? 具体的に僕は何をすればいいの?」

 全く忘れていた根本的な質問を、僕はこの時やっと聞くことが出来た。


「あ……」

 フランチェスカもそこを説明していないことに気付いたらしい。バッグをゴソゴソかき回すと、中から手品で使う大きなトランプのような、真っ白なカードの束を取り出した。


「この22枚のカードにアレフの見つけた道を描いて欲しいの。一つ一つがアレフの体と世界を取り持つ道になるわ。全てのカードが揃った時、魔法の力が身につくはずよ」

 白いカードを受け取り、僕は途方に暮れる。

 道ってなんだ? 何をかけばいいんだ?


「とりあえず、何を描けばいいのか全くわからない」


「そうね、まずはアレフ自身を描いたらいいんじゃないかしら……? 全ては自分を知ることから始まるものよ」


 自分自身……。そんなものを描くことになるとは思わなかったけど、何だか今はそれを描くのが正しいことのように思えた。


 僕は一枚のカードを手に持つと、組み立て式の小さなイーゼルにそっと載せた。 絵の具を広げフランチェスカにおやすみを告げると、ふり返りもせずに筆を取り、真っ白な紙に最初の色を載せた。

 久しぶりに本気で絵を描きたい気持ちになっていた。


 右へ左へ。

 上へ下へ。


 手が別の力に操られるように色を広げて行く。


 やっぱりこの瞬間だけは、僕の手に魔法の力が宿ったように感じる。

 僕は何も考えずに、筆を奔らせ続けた。


 真夜中過ぎに絵を描き上げると、フランチェスカの小さな寝息が聞こえる。僕は描き上げたカードの下に番号と名前を書き入れることにした。


 1番……と書こうとして、僕は筆を止める。


 まだ旅は始まっていないじゃないか。まだ僕らは1番目の道にすら至っていない。

 迷った末に0番を書き込み、タイトルを「愚者」とつけ筆を置く。


「改めてよろしく。僕」


 久しぶりに満足した気持ちでベッドに入り、ランタンの火を消した。


「改めてよろしく。フランチェスカ」


 僕は、すぐに深い眠りに落ち、早朝にフランチェスカの驚きの歓声で起こされるまで、ぐっすりと眠り続けた。



――――――――――

0.愚者(The Fool)

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■正位置の意味

 自由、型にはまらない、無邪気、純粋、天真爛漫、可能性、発想力、天才

■逆位置の意味

 軽率、わがまま、落ちこぼれ

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