女帝 The Empress
女帝-01
「ねぇフランチェスカ、やっぱり今度こそ無理じゃない?」
窓の外に広がる寒々しい針葉樹林を見ながら、温かい暖炉の前でトナカイの肉を頬張ると、僕は何度目かの質問を彼女にぶつけた。
「そうよね……。私もちょっと無理があると思うけど……」
フランチェスカはいつもの古めかしい魔術師用のローブを着て、はちみつ色のフワフワした髪を左手で耳にかけながら、大きな魚の塩焼きから、器用に骨を取り除いている。
ちょっとしかめられた太めの眉もやっぱり可愛い。
王国北部の中核商業都市「ハイエスブルク」になんとか到着し、トライアンフ商会の支部から旅の資金を引き出せた僕は、余裕を持ってフランチェスカを眺めることが出来た。
「まぁイオナの時みたいに『未来の女帝』かも知れないから、気長に探すしか無いね」
そう、今度の〈予見〉に現れたのは何と女帝だった。女帝と言ったらあれだ、女性の皇帝だ。
でも、そもそもこの国は王国というだけあって王様が治めている。だから皇帝と言う位は存在しない。現国王には立派な世継ぎが数人、さらには男子の孫も居て、女性が王位につく事態すら想像できなかった。
王国の外、未開の世界の話ならまだ納得も行くけど、フランチェスカの予見によると、女帝には偶然にもここ「ハイエスブルク」で出逢うことになると言う話だった。
トライアンフ家の情報網によると、王家の威光は盤石で、少なくとも10年やそこいらでは王権を覆すような勢力は見当たらないと言うし、実際手がかりも全く無く、僕らは八方ふさがりの状況に陥っている。
「私の予見の力が弱いから……何度やっても追加の情報も出てこないし、今はこの街に逗まるしか無いのかしら……」
骨を綺麗に取り終わった魚を一口大に分解しながら、フランチェスカは上目づかいにこっちを見る。
僕はニッコリ笑って最後のトナカイ肉を飲み込むと、ナフキンで口を拭いて立ち上がった。今夜の宿や食事の心配をしなくても良くなったんだし、元々急ぐ旅じゃない。もう宿でじっとなんてしていられない気分だった。
「早く食べちゃいなよ、フランチェスカ。宿に居たって女帝が訪ねてきてくれるとも思えないし、せっかく初めての街に来たんだ、一緒に出かけよう」
「え? あ、うん。ちょっとまって」
慌てて魚を食べるフランチェスカをさんざん急かし、最後には彼女の取り分けた魚を勝手に3切れ食べた末に、僕らは街へ繰り出した。
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