魔術師-04

「ねぇアレフ、本当にこれでいいの?」

「動かないで」

 椅子に座って膝の上で手を組んだフランチェスカが、居心地悪そうに身動ぎするのを僕は声だけで制した。

 はちみつ色の髪の色を作るのは難しい、僕はパレットの上で幾つもの色を少しずつ混ぜ合わせた。


「完璧じゃないか。古めかしいローブを着て、小柄で、強い力を持った、僕の道を示してくれる魔術師。最初から君しか居なかったんだよ。フランチェスカ」


「でも、私なんかが……」


「それに、僕は君を描きたい。今は君しか書きたくない。これが正解なんだよ」

 まだ何か言おうとする彼女の言葉を遮って、僕は断言する。

今は議論していたくなかった。

 今は、僕の大好きな、僕を導いてくれる、可愛らしい魔術師を描くこと以外、何も考えたくなかったんだ。


 真剣な僕の表情を見て、フランチェスカも観念してくれたらしかった。

 僕は無心に筆を奔らせる。


 ふんわりしたはちみつ色の髪を。

 小さくてちょっと上を向いた鼻を。

 触れそこねたつややかな唇を。


 何より、よく泣くけれど強い力を秘めた大きな鳶色の瞳を。


 彼女の全てをカードに描いていった。


 途中に一度の食事休憩をとっただけで、数時間。

 僕は絵筆の魔法に身を委ねた。


「できた」


 カードに1番を書き込み、タイトルに「魔術師」とつけてフランチェスカを見ると、彼女は椅子の上でうたた寝をしていた。

 筆を置いて彼女の元へと向かい、そっと抱きかかえるとベッドへと運ぶ。

 ゆっくりとベッドに寝かせると、彼女は僕の首に手を回した。


「私、アレフに相応しい魔術師になるわ」

 僕は黙って微笑むと、彼女の頬にキスをした。


 急に窓の外で大きな鳥の羽音が響き、僕らは慌てて離れる。

 羽音が飛び去るまで耳を澄まして待って、お互いに顔を見合わると、堪え切れずに2人で声を出して笑った。



―――――――――――――

1.魔術師(The Magician)

―――――――――――――

■正位置の意味

 物事の始まり・起源、可能性、エネルギー、才能、チャンス、感覚、創造

■逆位置の意味

 混迷、無気力、スランプ、裏切り、空回り、バイオリズム低下、消極性

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