女教皇-02

 明かりのついた小さな宿兼酒場に飛び込むと、暖かい空気と美味しそうなご飯の匂い、そして沢山の人の喧騒に、僕らはほっと肩の力を抜いた。


「あぁ! お客さん! もう、雪は落としてから入ってくださいよ!」

 厨房前で僕らくらいの年齢の女の子と話をしていた宿のおばさんは、僕らの姿を見ると大きなモップを持って走り寄って来て、足元に積もった雪を大急ぎで片付け始めた。


「すみません、雪に慣れていなくて。ところで宿を1部屋お願いしたいんですが……」

 おばさんは、厨房の方に向かって「あぁイオナ、魚はそこに置いて行っておくれ。ウチの人に言ってご飯も持って行きな」と叫ぶと、こちらに向き直り「すみませんねぇ、今日はもう部屋が空いてないんですよ。この吹雪でねぇ」と食堂内を手のひらで指し示した。

 確かに、この人数が宿泊しているとしたら、ベッドの数より数倍の宿泊客が居ることだろう。


「それじゃあ他の宿を紹介してくれませんか?」

「……それがねぇ、この村には宿はここ1軒きりなんですよ」

「えっ?! 何とかなりませんか? 吹雪を避けられるだけでも良いんです。おねがいしますよ」

「そう言われてもねぇ、馬車でいらっしゃるお客様には事前に予約を頂いていますしね。それ以外のお客様にも厩まで貸してしまって、本当に泊まる場所が無いんですよ……。あ、はいはい! おかわりですね! ……では、すみませんね。またのお越しを」

 おばさんはテーブルの客と二言三言言葉をかわすと、忙しそうに厨房へ消えていった。


 馬車のお客様には事前に予約を頂いてるだって……?

 呆然とする僕に、少しは責任を感じているらしいフランチェスカがそっと近づいてきた。


「アレフ……泊まるとこ……ないの……?」

「無いみたいだ」

「……野宿?」

「死ぬね」

「どうしよう……」

「……」


 外に出る踏ん切りもつかないまま宿の入口に立ち尽くし、温かい宿の中の美味しそうな匂いを嗅いでいた僕達に、突然横合いから声がかかった。


「あの、もしよろしければウチに来ませんか?」

 先ほど宿のおばさんと話をしていた、僕らと同じくらいの年齢の女の子だった。名前は確かイオナと言ってたはずだ。


「それは願ってもない話だけど、良いの?」

「なんのお構いもできませんが、吹雪を防ぐ屋根壁と、暖炉は有ります。見ればお連れの方は随分お疲れのようですし、粗末な家ではありますが、お二人さえ宜しければ、ぜひどうぞ」

 僕はちょっと迷ったけど、フランチェスカが「おねがいします!」と即答してしまったので、僕も「じゃあ、お願いしようかな」と答えるしか無かった。

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