女帝-02

 まず僕らは新しい防寒着を買い求めた。

 最北の街「トリンチェスク」で買ったマントのような安い毛皮は、流石に街中で羽織るのは憚られるし、何より可愛くない。フランチェスカに似合う服を買ってあげようと、僕は気合を入れて服を選んだ。

 中央の市場では見ないような毛皮やキルトをふんだんに使った暖かそうな上着、手袋、帽子、ブーツ。もこもこに着ぶくれした僕を見てフランチェスカは笑う。

 彼女にも温かい服を買おうと思ったんだけど、断固として違うデザインのローブは着ないと断られた。


「どうして? それだけじゃ絶対寒いよ」

 絶対にフランチェスカに似合うと確信したコートを手に、僕は少しムキになって聞いた。

 彼女は困ったように、そして少し照れたように笑って答える。


「これは師匠の流れをくむ魔術師の証だから。……それに私の〈予見〉に現れるアレフの隣には、いつも魔術師が居るの。とても信頼しあっているように見えるわ。そして……その魔術師はいつでもこれと同じローブを着ているのよ」

 ……それって僕と一緒に居られるための願掛けってこと?

 そんなことを言われたことがない僕は、街の寒さに凍りついたように固まってしまった。

 やがて凍って固まった体は顔から吹き出した火でしゅっと溶け、僕は真っ赤に火照った顔でコートを店の棚に戻す。


「ば……ばっかだなぁ」

 手袋、ブーツ、ボンネットをフランチェスカに手渡す。


「ほん……ほんと、ばっかだなぁ」

 しゅんとなるフランチェスカの肩にレースのリボンとファーの付いた丈の長いケープをふわっとかける。


「おばさん、これ全部ください」

自分の着込んだ服と、フランチェスカのケープ、そして彼女が抱えたものを指さして、毛布に埋まるようにして店番をしている店員に声をかける。


「……これならローブを変えなくても暖かいよ」

 ぱっと顔を輝かせ、嬉しそうに頷くフランチェスカから目をそらし、僕は店員のおばさんの方へ向きなおった。

 財布からお金を出しながら、なんとなく思い出して「そう言えば、この辺で『女帝』って知りませんか?」と聞いてみる。おばさんは興味なさげに「知りませんねぇ。はい、全部で金貨7枚と銀貨2枚になります」と言った。


「ですよね」

 僕らは気にせず、その後も市場のあちこちを廻り、時々思い出したように「女帝」についての情報集めもした。その答えは全て「知りませんねぇ」だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る