皇帝 The Emperor
皇帝-01
皇帝が現存する国は、2つある。
1つは西の神聖ゲルム帝国、そして東の果ての島国、天帝国ジラードだ。
トライアンフ家の商業網は両国とも交易をしているけど、流石に皇帝に謁見が叶うような力はないし、どちらの国の皇帝かと言うのもフランチェスカの予見には出てきていない。
とりあえず、今居るハイエスブルクの街から近い天帝国ジラードへ向かうことにして、僕らは東の港町へと馬車を向けた。
「貴方達に死なれると、私の未来の儲けが無くなってしまうわ。気をつけていってらっしゃい」
契約書をひらひらとさせながらエカチェリーナさんが見送りに出てきてくれた。
ニコライさんは僕を抱きしめ、「生水は飲むんじゃないぞ。いつでも遊びに来い」と目をうるませている。
少し離れた建物の壁に寄りかかったアレクセイさんは、そっぽを向いたまま涙を流していた。
ミーシャさんが「これ女将さんから」といい匂いのする包みを手渡してくれる。 この数週間で僕が大好きになったこの町の名物、肉饅頭の匂いだ。
「じゃあ、行ってきます」
「エカチェリーナさん、ごきげんよう」
僕らは手を振って仕立ての馬車に乗り込む。
そこで、僕はふとこの街に来た日のことを思い出し、ミーシャさんの所へ駆け戻った。
「ん?」
不思議そうな顔をしているミーシャさんの頭を無言で一発殴りつけた。
「いってぇ! 何すんだアレフ!」
「忘れてた! 最初の日にミーシャさんはフランチェスカにつらら突き付けて怖がらせたでしょ! その罰!」
笑いながら急いで馬車に乗り込み、御者へ「いいよ。出して」と告げる。
もう季節は春だというのに、まだ凍りついて硬い道を、アレクセイさんの「元気でなー!」と言う震える声を背に受けながら、馬車は一路東へと走り始めた。
窓から身を乗り出して手を降っていた僕らは、椅子に座って大きく息を吐いた。
「アレフったら、今度ミーシャさんに会ったらちゃんと謝ってね?」
「うん」
苦笑しながら繋いできたフランチェスカの手を僕も握り返す。
初めての国外だ。色々大変なことも有るだろう。
僕は改めて、彼女を守るために自分がしっかりしないといけない。そう思った。
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