第3話 二周年記念一大チャンピオンシップ三連弾 その6

 『最強チーム決定戦』の第一回予選開催期間である一週間の間は、予選ミッションが受注できるようになる。ミッションの内容はすでに発表されていたように、次々に出現する敵の大群を時間制限まで倒しまくるというものだ。倒した総数がチームのスコアとして記録される。

 予選ミッションは期間中なら何度でも受注できて、何度でもハイスコア更新ができるので、本気で本戦出場を狙っているチームは何度も挑戦して敵の出現する位置や順番を覚え、効率的な立ちまわりの研究と実践を繰り返していた。

 俺と琴子お嬢ももちろん、本戦出場を目標にして予選に臨んだ。ちなみに俺は携行する火器を狙撃銃から、もっと汎用的な取り回しのできる軽機関銃へと持ち替えていた。

 機関銃系列の火器は、狙撃銃と同じく遠距離戦特化の重たい銃だが、狙撃銃が単発高威力で高精度なのに対して、機関銃はとにかく弾を撒き散らすことに特化されている。命中精度は低いけれど、その分を圧倒的な装填数で補うという、狙撃銃とは真逆の設定がなされている。

 大雑把に言うなら、機関銃は雑魚の大群を薙ぎ払うのに特化しているのだ。沸いてきた敵に合わせて狙撃銃と使い分けができれば良いのだけど、どちらも重量級の火器であるため、同時に携帯するのは不可能だった。なので泣く泣く、今回は軽機関銃一本で予選に臨んだのだった。


 結論から言うと、俺の武装変更はスコアに何の影響も与えなかった。

 予選ミッションを開始するに当たっての、お嬢から俺に対しての命令はひとつ――邪魔するな、だった。

 それはどう意訳しても、一歩も動くな、手を出すな、と言っているのだった。

 琴子お嬢と俺のチームは二人だけにも関わらず、定員の揃った六人チームを押し退けて、一位の成績で第一予選を終えた。今回の規定では、二回の予選の合計スコアで本戦選出チームを決めるから、まだ確定したわけではない。でも、第二予選でマイナス得点でもしなければ選出確定だろうと思われるほど圧倒的な得点での一位だった。

 一週間の第一回予選が終わると、一回予選の最終成績と同時に第二回予選の詳細が発表された。今週は一回目の結果発表と、二回目の詳細発表だけだ。第二回予選の開始は来週からになる。

 参加プレイヤーは今週のうちに、第二回予選に向けての準備をするわけなのだが……ここで一悶着があった。

 第一回予選の成績発表は、上位チームについてはミッション中の動画も公開されていた。動画が自動で保存および発表されることは、イベント特設サイトで最初から明記されていたから問題ない。それに、チャット非表示での動画だったから、うっかり個人情報が漏れてしまうという問題も起きなかった。

 物議を醸したのは、圧倒的スコアで一位を取ったチームの動画、つまり俺たちの戦闘を撮った動画だった。


「何これ。反撃? あれって、こんなダメージ出せたか?」

「計算上は出せるっぽいが、ダメージ増幅系のパーツや能力でガチガチに固めても、反撃能力レベルが最低でも八は必要になるとか」

「能力レベル八とか、それって何千万、いや何億カレンスするんだよwww」

「課金の保護材を何百個も使わないと、絶対に強化途中で壊れるよなぁ。リアルに何十万円かかったんだろ?」

「しかも、このエフェクトって課金の回復剤も強化剤も使いまくりだし……」

「おれ、回復剤って使用モーションが入るから連打できないと思っていたんだけど、課金の回復剤だとモーションないんだな……これ、公式チートってレベルだよな……」

「仲間六人での連携www越えられない壁www課金チートwww」

「チーム戦の意義が根底から覆されたな」

「仲間が一歩も動いていないのがまた、じわじわくる……w」

「っつーか、これってありなのか? いや、ルール的に何も違反していないのは分かるんだけど、こいつが予選トップ通過しても全然応援する気にならねーんだけど」

「だよなぁ」

「これがアリだっていうなら、このイベントは結局、公式による重課金促進キャンペーンってことだよな。勝ちたきゃ課金せぇって」

「課金で強くなることを否定はしないよ。こっちにとってネトゲはゲームだけど、運営にとっては商売で、儲けが必要なんだし。でも、これはないよ……」

「課金で強くなれるってのは肯定だけど、強くなるのに課金が絶対ってのは嫌だなあ」

「究極的に課金が大正義だよ。分かってるよ。でもそういう生々しい現実はオブラートに包んでてくれよ。萎えまくりだよ……」


 【FMA】に公式掲示板はないけれど、別サイトの関連掲示板やツイッターなどは以上のような感じで大荒れだった。運営に苦情メールを出した宣言する者も大勢いた。

 そうした苦情を受けて――と明言されはしなかったが、第二回予選が始まる前に規定の変更が発表された。

 第二回予選の内容は、元々はアイテム集め競争だった。第一回のように特別任務が追加されるのではなく、既存の全フィールドに出現する全種類の敵に追加された専用ドロップアイテムを集めた数がスコアになる――というものだった。

 この詳細が発表されてすぐに、参考画像として表示されていた専用アイテムの詳細データに『トレード可』と表記されていることが一部プレイヤーから指摘された。


「トレード可ってことは、敵を倒さなくてもお金で買い集められるってことだよな」

「お金の力でスコアを買う、か……また荒れる予感だな」

「だな」

「まず、日本円で課金アイテムを買います。市場で売り捌いてカレンスに換えます。そのカレンスで専用アイテムを買い漁り、最後はそれをスコアに換えます。これで一位です」

「でも、みんなどうせイベント価格でぼったくるんですよね?」

「そりゃネトゲに何百万も注ぎ込む貴族さまがいると確定してるからなwww」

「もうまともに頑張る気も失せたし、今回は金稼ぎに集中するわ」

「だな」

「そういう意味では良イベントだなw」

「専用アイテムのトレードで一番儲けた奴が真の一位なwww」


 ……運営が第二回予選をこのような形にしたのは、一回予選に参加していなかったプレイヤーにも興味を持ってもらいたかったからだろう。トレード可なのも、例えばチーム外の友人に手伝ってもらったりして交流を深める役に立ててほしい――といった意味が込められていたのだと思う。

 ところが、琴子お嬢の圧倒的課金力を披露する動画が公開されてしまったことで、トレード可能にしたことが悪い方向に受け取られるようになってしまった。

 このままだと、第二回予選はまともにスコアを獲得しようとしないで、集めた専用アイテムを高額で売り捌こうとする者ばかりになってしまう。そしてきっと、第一回予選一位だったリラは価格なんか気にせずに専用アイテムを買い集めて、第二回予選も一位を取ってしまうだろう――。

 運営がそこまで琴子お嬢に悪意のある判断をしたのかどうかは定かでないが、兎にも角にも第二回予選の開催方式は大幅に変更された。

 参加チームは第一回予選と同じく、任務受注の形で専用フィールドに入室する。同フィールド内に強力な敵や障害物が定期沸きするので、それらの攻撃をかいくぐりながら、同じく定期的にランダム配置される専用アイテムを回収していく。時間内に回収できた専用アイテムの数がそのままスコアになる――というものに変更されたのだった。

 専用アイテムはミッション終了すると消滅するので、トレードは不可能になった。それに、今度は敵の撃破がスコアに直結しない。参考画像を見ると、出てくる敵は強力だが足の遅いものばかりのようだから、倒すよりも逃げつつアイテム回収したほうが効率的だろう。

 自分からこちらに向かってきてくれる敵が相手なら、一人で大量撃破して高スコア獲得することもできる。でも、アイテムはこちらから拾いにいかないといけない。複数個のアイテムを一度に拾う手段はない。ひとつひとつ拾っていくしかないのだ。

 つまり、スコア獲得の決め手は個人の強さではなく、人手の数――チームの人数になる。俺たちみたいな少数チームを狙い打ちする規定変更だった。


 そして第二回予選が開催される。

 期間は前回と同じく一週間で、その間は何度でもハイスコアを更新できる仕様だ。

 俺たちは今回ももちろん、本気で一位を取るために頑張った。お嬢も今度はさすがに、何もしないで立っていろ、とは言わなかった。……というか、本当に何も言わなかったので、俺が勝手に動きまわってアイテム回収に奔走しただけだ。

 なお、今回は敵を倒すことに意味がないため、武器は何も持たずに臨んだ。結局、武装を一切持たずに移動性のみを考えるのが最高効率だったようで、最終的にはほとんどのプレイヤーが武器を捨てて、鬼ごっこのように逃げまわりながら、ひたすらゴミ拾い……もといスコア変換用の専用アイテムを拾い集めたのだった。

 第二回予選の最終スコアと上位陣のプレイ動画が公開されたが、動画の内容はどのチームも似たり寄ったりだった。六機の人型戦闘機が戦闘ひとつせず、フィールドを六分割して分担したそれぞれの持ち場を延々ぐるぐる走りまわってアイテム拾いを続ける――というものだった。


 はっきり言って、まったく面白みのない動画ばかりだった。二周年を記念するイベントに相応しいものとは、お世辞にも思えなかった。

 特設サイトで発表されたのは上位十チームだが、俺とお嬢のチームはそこに入っていなかった。だけどそれでも、第二回予選の結果と同時に発表された予選の総合スコアによる本戦選出チーム十組のなかに、リラとハルマサの二人チームは入っていた。第一回予選の圧倒的スコアに助けられての十位通過だった。

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