第8話 美少女は罪だ

俺の秘密がばれて2日が過ぎた。2人の態度は変わらなかった。

「おはよ!って、ノエルまだ寝てたの?今日は月に2回のお休み最終日なんだよ?ねぇ、買い物行こう!」

そういってケイルは俺の毛布を剥いだ。

「んだよ。休みだしゆっくり寝させろよ」

「駄目だよ!ほら、早く行こ!」

「しょうがねーな」

俺は渋々起き上がり服を着ようとした。もちろん、男物だ。すると、ケイルは血相を変えて着るのを阻止した。そして、レイルさんに貰った洋服を着た。ケイルが選んだのは水色のワンピースだった。

「こんなの着てもしも、学院の人に見つかったらどうすんだよ!!」

「大丈夫!ノエルの双子の妹ですって言えば、ばれないばれない。それに、いつも結んでる髪を下ろしてアレンジすればどうって事ないって!」

そう言ったケイルは俺の髪にブラシをかけてアレンジをしてきた。暴れると怖いので大人しくする事にした。

「はい、出来た」

俺は部屋にあった鏡を見てみた。すると、鏡に映っていた俺はビックリした。

「これは俺か!?」

ビックリし過ぎて声が裏返ってしまった。

「あと、言葉にも気を付けて喋ってね。自分の事は俺じゃなくて私っていうんだよ」

「分かってるよ」

そして、ケイルは俺の腕を引っ張って下に連れて行った。

「ねぇ、皆。この子誰だと思う?」

そういって俺を階段の前に立たせた。すると、皆顔を赤くして「誰?」と言った。ケイルは自慢げに「ノエルの妹さんだよ!」というと孤児院の皆はビックリした顔をしていた。俺は取り敢えず自己紹介をした。

「初めまして、私はノエル兄さんの双子の妹のアヘルです。いつも兄がお世話になっています」

俺は丁寧に挨拶をした。

すると、孤児院の皆は納得していた。

「ノエルの家系って美形家族なんだろうね」と、いいながら見惚れていた。俺って罪な女だぜ。まあ、冗談はこれまでにして。奥からレイルさんが出てきた。レイルさんはこれを見れば分かってくれると思っていた。が、それは間違いだったのである。

「どなた?この可愛らしいお嬢さん。ノエルに似ているけれど」

「ノエルの妹さんだって」

「あら、そうなの?」

レイルさんは気付いた素振りを見せなかった。俺がノエルだっていうのは面倒なので黙っておく事にした。

「初めまして、レイルさんですよね?よくノエル兄さんに聞いています。私はアヘル・ファーレンガルトです。よろしくお願いします」

俺は深々とお辞儀をした。レイルさんは慌てて挨拶をした。

「あら、こちらこそ初めまして。私はレイル・グレンディア。ここの世話係をやってるの」

この挨拶の仕方だと俺がノエルだってばれてないな。

「ところで、ノエルはどうしたの?」

「ノエルなら買い物に行ったよ。私達も買い物に行って来るね」

「ええ、行ってらっしゃい」

俺とケイルは孤児院を出た。


「まったく、なんで俺がこんな格好しなきゃいけないんだよ!」

「いいじゃん。女の子だよ?それに、結構似合ってるし」

最後の方が全然聞こえなかったから、聞き返すと「何も言ってないよ?」とはぐらかされた。

しばらく歩いていて気付いたが、街行く人皆こっちを見てないか?相当人気なんだなケイルは。外面だけ良さそうだけど。

「アヘルちゃん、なんか失礼な事考えてない?」

「別に何も考えてませんよ?」

俺はケイルと同じ様にしてはぐらかした。

「そういえば、皆さんケイルの事見てますね」

「ああ、あれはアヘルちゃんを見てるんだよ。アヘルちゃん可愛いしね。これでも、には見えないよねー」

ケイルは意地悪そうに言った。

「うるさいですよ?次、そんな事を言ったらしばき倒しますからね?」

俺は暗い笑みを浮かべケイルに言った。ケイルは「じ、冗談だよー!」と慌てて言った。


しばらく歩いていると見覚えのある背中が見えた。あれは、同じ孤児院のリンとレンだった。

「あれ?ケイルじゃない!どうしてこんなとこに?」

ケイルは嫌そうな顔をしながら返事をした。

「この子と一緒に買い物をしてたんです。それで?リンさんは何かご用ですか?」

ケイルは棒読みで質問をした。

「いや、私達はギルドの依頼を受けてきたんだ。その帰り。あ、そこの女の子は誰?って、ノエル!?」

「いや、違う。ノエルの雰囲気じゃない。ケイル、この子は誰?」

いや、俺はノエルなんですけど。

「この子はノエルの双子の妹さん。アヘルちゃん」

俺はいきなりふられたので、取り敢えず自己紹介をした。

「初めまして、私はアヘル・ファーレンガルトです。いつも兄がお世話になっています」

「ええ、可愛らしい知り合いが出来て嬉しいわ」

そういうとリンは俺の顎を掴み顔を上げた。俺はそういう趣味はないので、リンの手をすり抜けた。

「あの、そこの方はどなたですか?」

俺は話を逸らした。

「あ、こいつは」

「僕はレン・バルキュリアです!」

「は、はい。よろしくお願いします」

おいおい、ちょうとビックリしたぞ?勢いよく挨拶いてきたな。こいつってこんなに声出るんだ。と思っているのは俺だけじゃなくケイルも一緒だった。そして、俺達とリン達は別れた。

「す、凄いね。あの引っ込み思案のレンが初対面の人に対してあんな大きな声が出るなんて」

「確かにな。それは兎も角、今からどこに行くんだ?」

その質問をした時、ケイルはニヤッとしながら「内緒だよ」と言った。その時俺の背筋に悪寒が走ったのは皆さんもご存知だろう。

そして、案の定着いたのは服屋だった。ケイルと迷いなく進んだ先は下着を売っている場所だった。俺は必死で抵抗したが、力及ばず。その後皆さんの予想しての通り着せ替え人形と化したのである。

俺の着せ替え人形が終わって下着を買い、ついでに服も買った。


服屋を後にして次に行くのは飯屋だった。席について、食べる物を選んでいると後ろから聞き覚えのある声がした。

「あれ、ケイルじゃん。どうしてここにいるの?」

「我と一緒に飯が食いたいか。そうか、いいだろう」

それは俺達と同じクラスのオルトルとサウジンドだった。

「うん、買い物をしててね。それで、お腹空いたからここにいるんだ」

貴族君の話はガン無視をしていた。それにしても、この組み合わせは珍しいな。

「あれ?そこの女の子はノエル!?」

「違うよ。この子はアヘルちゃん。ノエルの妹さんだよ」

紹介された俺は立ってスカートを掴んで挨拶をした。

「アヘル・ファーレンガルトです。今後とも兄を宜しくお願いします」

まあ、俺が言っているのだがな。自分で自分をよろしくって変な感じだ。選挙活動?

俺が自己紹介をすると2人は顔を真っ赤にしていた。そして、オルトルが手を出して挨拶をして来た。

「俺は、オルトル・カインズだ。こちらこそよろしく」

俺は手を握った。貴族君は「うむ」と言っただけだった。

案外ばれないもんだな。まあ、女装は勘弁だが。

俺達は食事を終えて飯屋を後にした。

「ケイル」

「何?」

「武器屋に寄りたいんだけどいい?」

「うん、いいよ」

ケイルは少しオドオドして答えた。多分、俺が難なく女の子の使う言葉を使っているからだろう。俺は武器屋に入って剣を見た。俺は総合科に入ろうと思っていたから剣も必要になる。というか、Sクラスの人はほとんどが総合科に入る。まれに1つの科に所属する変わり者がいるらしい。極々稀に俺みたいなオールSSSランクの出る者がでるらしいが先生達が言うには1000年ぶりらしい。

俺は日本刀みたいな剣を見つけた。俺は即これにしようと思った。あとは、短剣が必要だったからその2つを買った。

「すいません、この2つを下さい」

そう言って俺は会計のおじちゃんに渡した。

「これはプレゼントか?」

うーん、どちらかというとそうかな。自分へのご褒美的な?だから、取り敢えず俺は「はい」と答えた。

「嬢ちゃんはベッピンさんだから半額にしてやる」

おじちゃんは微笑みながらまけてくれた。俺はおじちゃんに感謝の気持ちを込めてお礼を言った。

「ところで嬢ちゃんはレイル・グレンディアって知ってるか?」

「あ、はい。私の兄の孤児院で働いてますが。あなたは?」

「俺はダニエル・グーデンブルグだ!」

「へぇ、そうなんですか」

聞いたことない名前だな。それにしても、なんでそんなに自慢げ?

「いや、へぇじゃないだろ?なにかもっと他の事があるだろう?」

「いえ、ありませんけど?」

「そうか。もしかして俺の事知らないのか?」

「はい。全然全くこれっぽっちも」

「そうか、なら教えてあげよう。俺は・・・」

「すいません。お話を聞きたいのは山々なんですけど連れを待たせてるので失礼します」

俺はさっさと店を出て行った。


「何買ったの?」

ケイルは不思議そうな目で聞いてきた。

「魔千刀だって」

「魔千刀?珍しい名前だね」

俺には馴染みのある名前だ。それに前世ではこういうのよく使ってたし。それにおじちゃんがまけてくれたしな。

「ケイル、着替える所はない?」

「だったら、あそこの路地かな?あそこなら人があんまり来ないから。ここにいるから着替えて来なよ」

「ありがとう」

あ、こいつ目の前の食べ物に夢中なんだな。

俺は取り敢えず細い路地で制服を着た。そして、細い路地から出てケイルの所に行こうとした時にナンパらしき物を見つけた。面倒そうだったんだが、相手の女の子が困っていたので助けることにした。

「止めてください!」

「いいじゃん!ちょっとだけ俺らと遊ぼうぜ?」

「その辺にしておけば?女の子困ってるみたいだし」

俺はナンパ男達に声をかけた。

「なんだ!?お前、喧嘩売ってんのか?」

なんで声かけただけで喧嘩を売ったことになるんだよ。

「いや、別に。ただうちの学院の生徒っぽかったから」

「うっせんだよ!」

「ま、待て!その制服と髪ってもしかしてお前、ノエル・ファーレンガルトか!?」

わお!俺の名前がここまで広がっていたとは。正直ビックリ!!

「中等部が高等部のグウェンバイヤを倒したっていうあの!?」

俺はこれ以上絡まれたくないから、正直に答えた。

「俺はノエル・ファーレンガルト。お前らが知っている奴だ。で?真実を知った所でまだやるのか?」

「はっ!所詮は噂話だ!!」

そういった男はかかってきた。俺は殴ろうかと思ったけど痛そうだから止めた。まあ、俺は殺気を最大限まで出すと人間はどうなるか知っていた。俺が作った殺気レベルは5段階ある。レベル1、手が震える。レベル2、全身が震える。レベル3、体が動かなくなる。レベル4、声が出なく、息もできない。そして、レベル5、気絶する。俺はレベル4を出した。すると男達は震えてその間に倒れた。これはあくまで俺の基準であって必ずそうなる訳じゃない。人によってはレベル3で気絶する時もあるし、今みたいにレベル4で気絶する時もある。まったく、つまらな過ぎる。

「あ、あの!」

後ろから声がした。そういえばこの子いたんだ。すっかり忘れてた。

「もう大丈夫」

「ありがとうございました」

彼女はペコリと頭を下げた。

「いいや、そんな事はない。じゃ、気を付けて帰れよ」

そういって俺はその場からかっこよくいなくなった。


「ノエル!どこ行ってたの!?」

「悪い」

俺とケイルは帰ることにした。ケイルはさっきの飯屋がよっぽど美味しかったのかその話ばかりして来た。


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