第3話 模擬戦のウェン

 孤児院に来て1ヶ月が過ぎた。孤児院の皆はとても親切だった。ここの規則を教えてくれたり、一緒に稽古をしてくれたり。俺の今の体は今まで鍛錬をきちんとしてきたのか、思いの外動いた。一応、俺は今まで剣道部に入ってたから剣を振るのは容易い事だった。

「ねぇ、お茶にしない?」

「ああ」

 話しかけて来たのは、一番最初に挨拶をして来たレクトだった。

「ノエルって、強い剣士様なの?」

「え?」

「だって、あのレンに勝ったんでしょ?」

 そう、俺はこの前レンと稽古をしていた。そして、勝負で勝ってしまった。でも、あれは稽古だ。レンは本気を出していない。俺は大体レンの技量は分かっているつもりだ。それに、俺も本気は出してないしな。

「あれは、まぐれだ。それか、レンが手加減したんだろう」

「そう?」

 疑いの目で言ってきた。

「そうだ」

 これ以上絡まれるのは面倒なので、強制的に言いくるめた。


 この世界では1月に入学式ならぬ、入院式がある。入院って病院に入院するみたいだな。そして、2年に1度の昇格試験で合格すると1つ上の学年になる。だが、編入の際でも試験がある。試験と言っても、高等部の人とタイマンでやりあって審判がどこのクラスに行くかを決めているらしい。クラスは全部で6クラス、S〜Fまである。Sクラスから順に能力値が小さい順に並び、Fクラスは最低生として扱われているらしい。俺は取り敢えず、試験の準備をした。まずは、筆記試験の勉強と魔法を全般を覚えた。最初は水魔法の応用。氷魔法を覚えた。まあ、この世界は精霊と契約しないと魔法が使えないらしく俺はこの前フェンリルと契約をしたから今の得意魔法は氷だ。

 俺は部屋で魔術の本を読んでいた。すると、ノックして入ってきたのはレイルさんだった。

「ノエルちゃん、これ私のお下がりだけどお洋服。それだけじゃ、不便でしょう?」

 そう言って見せて来たのは案の定スカートだった。まあ、俺が男で育った場合では可愛い洋服だなと思うが今の俺には嫌な予感しかしなかった。

「そうですか。そこに置いておいて下さい」

 レイルさんは微笑んだ。俺の背中には悪寒が凄かった。

「何を言ってるの?私がこれを持ってきたんだから着るのよ」

 やっぱりね。悪寒的中した。俺は窓を開けて逃げようとした。が、レイルさんはそれを許して貰えず思いっきり腕を掴まれた。

「逃がさないわよ」

 レイルさんの目は猛獣が獲物を見つけたような目をしていた。俺は魔物よりレイルさんの方が怖かった。

「ぎゃー!!」


「よし、出来た」

 レイルさんが着せたのは白色のワンピースだった。

「こんなの俺なんかに似合いませんよ!」

「そんな事ない。可愛いわ!」

 そして、ノックをせずにドアが開き前にいたのはケイルだった。ケイルを見たとき俺は背中に悪寒を感じ、やっぱり悪寒的中だった。ケイルは野獣のごとく飛びかかってきた。

「可愛い!お人形みたいだよ!なのにとても似合ってるよ!!」

 こいつ、俺が男でこんな格好してる時点でおかしいとは思わないのか?

「くっつくな!!離れろー!!」

 このやり取りが夜まで続いた。


 そして、試験当日になった。同じ学年は、ケイルともう1人の女の子ヘスティアだった。だが、ケイル、ヘスティア、リン、レンは中等部からこの学院にいるから試験は免除らしい。

 俺は筆記試験を終えた。次は身体試験だった。流石に、俺でも試験は緊張する。緊張で手が震えていた。すると、ケイルは俺の手を持って「大丈夫だよ」と声をかけてくれた。俺はそれだけで緊張がほぐれた気がした。

「・・・じゃあ、行ってくる」

「うん!行ってらっしゃい!!」

 俺は更衣室に行き、戦闘服?らしい物に着替えた。そして、「よし!」と気合いを入れて試験に出た。


「それでは、これからクラス分けの模擬戦を始める。東ゲート、ノエル・ファーレンガルト。西ゲート、グウェンバイヤ・アスカルテ。ルールは決して殺さず、正々堂々と戦う事。それだけだ」

 審判係の先生はルールの確認をして用意をさせた。この模擬戦では剣術と魔術を行う。最初に剣術をし、次に魔術という感じで進んでいく。俺は孤児院を出る前にプレゼントされた杖を壁に立て掛けた。俺の相手は男っぽい女の子だった。というか、女なのに男っぽい名前だな。紛らわしいんだよ!!

「よーい、始め!」

開始のゴングがなり、俺は相手の胸に向かって走ろうとしたが相手がどうやって来るのか見たかったので静かに待っていた。

すると、「うおー」という声が聞こえた。そして、グウェンバイヤさんはダッシュで駆け寄ってきた。でも、その剣は遅く見えた。これだったら、レンの方が速い気がする。よく見えているので全て避けていった。そして、俺は考えていた。グウェンバイヤって長いから短縮した名前はないかな?グウェンとかバイヤ?でも、ありきたりだし。グバイ?でも、なんかパッとしないし。しかも、ドバイみたいな名前だしりそんな事を考えているうちに、グウェンちゃん(仮)はとても疲れていた。

「なんだ?もう終わりか?」

「お前、ちゃんと、勝負しろ!」

グウェンは息切れしながら言っていた。

「こんなのでへばっているくせにそんな事が言えるのか?」

「っ!!」

どうやら、図星を突かれたようだった。すると、思い浮かぶあだ名が出てきた。

「ウェンでいいかな?」

ウェンの頭には?があった。

「なんの話だ」

「お前のあだ名だ」

「は?」

「お前の名前は長いし面倒だ。だから、呼びやすいようにウェンにした。いやー、これはずっと考えててな。やっと決まったんだ」

「貴様、試合にそんな事を考えていたのか!?」

ウェンは超怒っている。まあ、それもそれで有りかな?あ、面白い事思いついた。

「だったら、賭けをしないか?」

おれが提案をすると、またウェンの頭に?が立った。

「勝った方が負けた方に何でも言う事を聞く」

ウェンは最初にポカンとした顔だったが、10秒ぐらいすると、 頭を抱え始めた。

「あっはっはっは!!」

俺はいきなり笑い出すウェンをポカンと見ていた。

「いや、久しぶりにこんなに笑った。いいだろう」

「そ、そうか。じゃあ、俺も本気を出すか」

「いいぞ、かかって来い!」

「行くぞ」

俺は、ちょっと楽しい感じがした。でも、やっぱり俺の速度には反応出来ず彼女は「まいった」といった。でも、まだ魔術の模擬戦がある。

「終了!剣術の勝者、ノエル・ファーレンガルト!!」

会場はとても盛り上がった。そして、10分後に模擬戦が開始された。

ウェンは元気だった。多分、治癒魔法で回復したんだろう。まあ、俺も全回復なのだが。

「おい、ノエルと言ったか?」

「ああ、そうだけど?」

「お前の名前しっかり覚えた。お前に敬意を見せてやる」

審判の合図と同時に極大魔法を使うんだろう。

なら、俺も考えがある。ただ、作ってはみたけどやってみた事はないからやれるかどうかは不安だがやるしかないだろう。

審判の合図と同時に鐘が鳴った。

「大地に眠る炎の精霊よ。その力を示せ!”昇華三昧アクションファイアー”!!」

その魔法は俺に向かって飛んできた。

「うわー!!」

「ふん!私をなめているからこうなるんだ!」

「・・・なんてな。我と契約を結ぶ水の精霊よ。汝に命ず、その力を表したまえ!!”雪弾アイスボール”!!」

俺は俺の体に回った炎を打ち消した。

「な、なに!?」

「火を消すなら水だな。俺は氷を使うんだ。だから、火なんて怖くないんだよ!」

お?そこの方、何故俺が氷使いなのに水が出て来るのか疑問に思ってますか?それは、炎の熱さで氷が一瞬で水に変わって消火したのだ!

「契約を結びし精霊王の化身よ。今一度その姿を現したまえ!!」

俺はこの前貰ったフェンリルを召喚した。俺は詠唱をしなくても召喚は出来るけど詠唱をした方がかっこいいから、やっているだけなんだけど。

「もう僕を呼び出し?」

フェンリルは喋った。

「ああ。って、お前喋れたのか?」

「うん」

すると、ウェンが大きな声が出した。

「お前!」

「ん?」

「それは、精霊王の使い魔じゃないのか!?」

「あ?ああ、俺の愛犬だ」

「模擬戦で使い魔をだすなんてルール違反だ!」

「こいつは俺の魔力で動いている。もちろん、俺が倒れたり、魔力が少なくなれば消える。召喚獣だからな」

「そ、それは・・・」

「審判、これはルール違反か?」

「いや、これは魔力で動いている。ルール違反ではない」

「じゃあ、気を取り直してやろうか。俺の愛犬よ。あれやるから。よろしく」

「了解」

ウェンはとても警戒した顔で後ろに飛んだ。

「さてと、行くぞ?”雪集砲発アイス・デポーター”」

説明しよう!”雪集砲発アイス・デポーター”とは、空中の水を氷の矢にして飛ばす簡単そうで難しい魔法だ。

「そんな魔法に私が当た訳・・・!?」

「そういうと思ってたから、”泥沼マッドスワンプ”を使わせて貰った」

「そんな魔術なんて無いはずだ!まさか!」

「そのまさかかもね。おっと、準備完了したぞ。じゃあ、発射」

その合図と共に俺の魔術を当てて勝負がついた。

「そこまで!勝者、ノエル・ファーレンガルト!」

また、会場は盛り上がった。そして、俺は会場を出た。すると、とても嬉しそうなケイルがいた。

「お帰り、ノエル!!」

ケイルは俺に飛びかかって来た。

「ああ、ただいま」

俺とケイルは笑った。すると、後ろからさっきの審判が駆け寄っていた。

「ノエル・ファーレンガルト君。ちょっとこっちに来て下さい」

俺は何か有ったのかと思い、彼の元に行った。


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