Develop 19

「おい」

 入鹿がRe-17の頭をペンでつつく。Re-17が間抜けな声を漏らしながら、入鹿を方を向くと、入鹿は眉間にしわを寄せて頬杖を付いていた。その顔を見て、Re-17は我に帰る。

「あ」

「あ、じゃねえよ。さっきから全然集中出来てねえじゃねえか。この問題に何分掛けるつもりだ」

「ご、ごめん」

「ったくよー。いつものスピードはどこ行った」

「………」

 麗紅のことを思い出し、考えていたなんて……言えない。入鹿に怒られるだけだ。Re-17は自分の頬を数回叩き、刺激を与える。


 榎宮麗紅のことだろう、なんて、今は言えない。言ったら、今回の訓練時間は全て榎宮麗紅に取られそうな気がした。再度集中し始めたRe-17を入鹿は黙って見つめた。

 記憶能力及び学習能力は初期のRe-17が嘘のようで、何ら問題なく、むしろ上達している。解答は全て正解していた。「よし」という入鹿の声と同時に訓練室のアラームが鳴った。Re-17が席を立ち、部屋から出るのを入鹿はRe-17の腕を掴んで止めた。

「お前、ちょっと付き合え」

「え」

「どうせ、これから麗紅ちゃんの所に行くわけじゃないんだろ」

「何で」

「いつもと様子が違った。何だ、またやらかしたのか」

 Re-17が眉間に皺を寄せ、「そんなことない」と答える。感情との動作の連動が一致してきた。客観視して分析する入鹿に「ただ…」とRe-17は言いにくそうに続けた。

「変なんだ」

「何が」

「今まではいつも通りに過ごせたのに、麗紅と会ったら、何というかおかしくて」

 入鹿は口許が緩むのを堪えながら「具体的には」と返す。

「麗紅に会う前とか、どんな顔して会おうとか、何言おうとか、麗紅に言われる言葉一つ一つに敏感に反応して。……今までこんな気持ちなったことがないから分からないよ」

 未経験の域にRe-17の顔が不安を漂わせる。

 入鹿はRe-17にその正体を言わない。言わない代わりに確認をする。

「お前、麗紅ちゃんのことは好きか」

「好きだよ」

「俺のことは好きか」

「好きだよ」

「じゃあ、聞くけど、榎宮麗紅と俺のは同じか?」

 Re-17は言葉を詰まらせた。

 ───違う。

 だが、どう違うのか、Re-17は今までの記憶を頼りに言葉を探した。今まで読んだ本の中で確か、同じような感覚を表しているものがあったはずだ。辿り着いた本の言葉を借りて、Re-17は口を開いた。

「健人のことは好きだけど、それは友達というか人として好き。でも、麗紅はそれとはまた違ってて……」

 口に出そうとした瞬間、麗紅への想いが身体中を駆け巡るようだった。

「ずっと一緒にいたい。離れたくない。僕は」

 Re-17は目を見開いた。目隠しを外された、そんな感覚と共に何か風船のようなものがRe-17の中で破裂した。

「僕は、麗紅がだ」

 入鹿はやっと思いっ切り口許を緩ませることが出来た。Re-17を見たままノートPCのキーボードの上の手を踊らせた。


《自己創成プログラミング成功》


 To be continued...

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