Develop 18
Re-17は麗紅の部屋のインターホンを押した。
───何を伝えればいい。
───挨拶は?
───顔見せて、その後は何すればいい。
数秒の長い時間の中で、Re-17はグルグルと思考回路をフル回転させる。
こんなこと、今までなかった。記憶を辿るのに時間が掛かることがあっても、状況の解決における時間のロスなど経験したこともないRe-17はエラーでもしたのかと少し戸惑う。
ガチャリ、という鍵を開ける音と共に、麗紅の顔がドアから覗いた。
「──────」
───もうどうでもいいや。
麗紅の短くて柔らかい髪が頬に触れ、自分からは聞こえない鼓動の音が大きく聞こえる。温かな体温が心地好い。
「レ、レイセ……」
麗紅の声は震えていた。何に震えているのか、Re-17には分からなかった。今何をしなければいけないのか、信号は何も彼には伝えてこず、彼は
「───会いたかった」
頬をくすぐる髪を撫で、その柔らかな感触を楽しむ。少しだけ、鼓動が速くなり、体温が高くなるのを感じ取った。
「と…とりあえず、中に入ろう。ね?」
「うん」
Re-17の嗅覚機能が記憶を蘇らせる。初めて会ったあの日が愛おしく感じる。
「久しぶりだね。この部屋も」
麗紅の声にRe-17は黙って頷く。麗紅の左腕に目をやると、新しい義手が服の袖から覗いた。初めて見た時の義手独特の違和感はなく、ほぼ本物のような出来であった。
「リハビリ終わったんだって、先生から聞いたよ。お疲れ様」
「ありがとう」
麗紅が無邪気な笑みをRe-17に向ける。
「でも、何でリハビリの間、会わないなんて……」
Re-17自身、入鹿には訊いていたが、やはり、本人の口から理由を聞きたかった。
麗紅は少し目を泳がせた。顔を次第に紅潮し、言いにくそうに口をもごもごと動かす。Re-17は麗紅が言うまで黙って待った。
「……見てもらいたかったから」
「……何を?」
「だから、左腕とか脚とか、リハビリで上手く動かせるようになったのを見て欲しかったから」
「リハビリ中だって上手く動かせるのは見れるよ?」
悪意はない。決してRe-17に悪意はない。彼にとっては純粋な疑問なのだ。それは麗紅も重々承知していた。だが、やはり、何というのか、口に出すことの恥ずかしさはあった。
数秒黙った後、麗紅がゆっくりと口を開く。
「びっくりしてもらいたかったのっ。手脚が自由に動くようになったのを『凄いね』って言って欲しかったのっ」
麗紅は茹で
「ここまで言わせないでよ、馬鹿」
弱々しく悪態を添える。そんな麗紅に対して、Re-17は初めて人を可愛らしいと感じ胸をときめかせていた。
Re-17は、まだ麗紅の顔を覆っている左手を手に取り、顔から引き剥がした。紅い顔の中で大きな目がRe-17をしっかり捉える。
「見せて。自由に動くところ」
Re-17が麗紅の左手を優しく握る。麗紅はゆっくりとその手を握り返す。弱く握ったり強く握ったり、麗紅の左手は何ら周りと変わらない手の動きをしていた。
「凄いや。本物みたい」
Re-17が笑うと麗紅もつられて笑った。
二人で足を並べて足ジャンケンをする。指先まで器用に動かして足先を丸め込んだり開いたり、子供のように周りを気にせず笑った。笑い疲れて、ソファの背もたれに背中を預ける。
「2ヶ月後、また手術なんでしょ」
麗紅は頷き、「今度は右手脚」と答えた。
「ある程度簡単に手術出来る部位は2ヶ月置きに手術していくんだって。最後はレイセと同じくらいになっちゃうかも」
「そっか」
何だか、寂しい気持ちになった。Re-17が不意に麗紅を抱き締める。麗紅の心臓の音が伝わってくる。
「この音も、いつかは聞こえなくなっちゃうのかな」
「……うん」
「怖い?」
「少しだけ」
麗紅の不安を少しでも取り除きたい。そうRe-17は思った。
麗紅がRe-17の背中に手を回す。いきなりの事にRe-17は少し驚く。
「───凄く落ち着く」
小さく
「麗紅が落ち着くなら、いつまでだってこうしてあげる」
何故、麗紅に対してそう思うのか。そして、自分から湧き上がるこの知らない感情は何なのか。どう言葉にしていいのか、Re-17には分からなかった。
「麗紅に会えてよかった」
それが、今、Re-17自身が答えられる唯一の言葉だった。
「私もだよ」
麗紅が発したたった四文字が、Re-17の中の何かを揺れ動かす。初めて経験する感情に、Re-17は戸惑うことしか出来なかった。
To be continued......
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