Develop 4

 Re-17は自分の部屋に戻ってクローゼットを漁った。奥に眠っている白衣を掴み取って、羽織る。

 別れ際の入鹿のアドバイスにしっかり従う。

 まず、研究室を回る時に怪しまれないように、研究員と同じように白衣を着る。印象を変えるために眼鏡を掛ける。髪を掻き回し、形を変える。

 全室入室許可カードと予備バッテリーを白衣のポケットに入れて、部屋を出る。

 指示以外の行動をとることは初めてだった。それが原因かそれとも、いつもと違う格好をしているからか、博美に対しての後ろめたさがあるからか、自然と胸が高鳴る。

 博美の机は綺麗に整理されていて、新たな開発に関するような書類は見つからなかった。Re-17にできるのは聞き込みだけだ。

 研究所の案内図を見る。Re-17のいるのは三階、開発チーム関係者の多いフロアである。このフロアにあるのは、開発室、訓練室、開発関係者の書斎、仮眠室、会議室。被検体に関するような部屋はない。

 更に、上のフロアを見る。研究員の部屋がズラリと並ぶ。

 更に、上のフロアを見る。

「あった」

 協力者の部屋が並んでいる。

 エレベーターで一気に五階まで上がる。

 五階は生活フロアということもあって、開発フロアとは違う雰囲気があった。談話室で話に花咲かせている姿が見られる。

「すみません」

 自動販売機の前にいた女性に声を掛ける。女性は小さく返事をした。

「開発チームの者なのですが、ここに新しく来た被・・・協力者はいませんか」

「ああ、いますよ。今日新しく入ってきました」

 女性は笑顔で答えた。

「その人、今、何処にいるか分かりませんか」

 女性は困り眉で申し訳なさそうに首をかしげ、首を横に振った。

「すみません。あ、でも、まだ若くて、えっと、髪が黒くて貴方より少し短いかしら。綺麗な顔をしていてね、とても似合ってたのが印象的なお嬢さんだったわ」

 女性は榎宮と思われる人の顔を思い出して笑みを浮かべた。Re-17は女性に礼を言い、再びフロアを回り始めた。

「ねえ、峯さん。あの人は?」

 談話室から出てきた高野が峯に声を掛ける。

「開発チームの方みたい」

「あんな若い男の人いたかしら」

「きっと新人よ」

 その後の談話室は謎の新人研究員の話題で盛り上がった。


 Re-17は黒髪の短髪の少女を探す。それぞれの談話室を覗くが、いない。簡単には見つからない。談話室にいないなら、部屋を一つ一つ回って探す。名札をそれぞれ見て回る。

 堂宮、酒瀬川、平石、野元、菅原───。

 視界に突如〈Danger〉の文字が現れる。バッテリーの残量が少ない。ポケットから予備バッテリーを出し、イヤホン型のプラグを耳に差す。覚醒式充電に切り替え、そのまま探し続ける。

 充電のために今眠るわけにはいかない。

 覚醒式充電は、眠らず、起動したまま充電をする。しかし、その分バッテリーの減りは早く起動時間も短くなる。バッテリーがなくなれば、強制シャットダウンで体内の蓄電部位が作動し、Re-17は強制的に電気が貯まるまで眠らなければならない。

 時間は掛けられない。バッテリーの残量を確認する度に焦りが増していく。

 フロアの奥の部屋。遂に「榎宮」と名札に書かれた部屋を見つけた。

 自然と笑みが零れた。

 しかし、インターホンを鳴らしても彼女が出てくることはなかった。

「くそっ」

 ───せっかくここまで来たのに。

 バッテリーの残量を見る。あと少しでバッテリーが切れる。帰らなければならない。

 そんな何でもかんでも事は簡単には進まない。

 仕方なく、踵を返そうとする。

「あの」

 Re-17の目の前に一人の少女が立っていた。黒髪の短髪の綺麗な顔立ちをした少女。Re-17は

「・・・・・・榎宮、麗紅さん、ですか」

「そうですけど、あの、私に何か」

 彼女だった。

 Re-17が望んでいた榎宮麗紅だった。

「良かった。会えた」

 視界に出続けていた〈Danger〉の文字が消えると同時に、Re-17の視界が真っ暗になった。

〈強制シャットダウンを開始します〉

 頭の中で木霊こだまする警報音の中で、「大丈夫ですか」という麗紅の声が微かに聞こえた。


 To be continued…

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