Develop 5
博美は入鹿と共に五階のフロアに向かっていた。端末のモニターには、Re-17の現在地が記されている。榎宮麗紅の部屋だった。
入鹿の背中には嫌な汗が大量に流れていた。Re-17に対し、博美がどう出るのか、入鹿には分からない。
「あの、須賀野博士、あいつって博士が作ったんですよね」
堪らず、入鹿は博美に話し掛ける。博美は前を見たまま「そうよ」と返事をした。
「あいつのこと、好きですか」
「当たり前のこと訊かないで」
Re-17の対応を探りたくて、こんな質問をしていたが、思いっ切り怒られた。やはり、入鹿にとって、博美は恐ろしい。
「あの、Re-17はこの後どうしますか」
どう訊いたって怒られるのなら、と入鹿は直球で挑んだ。博美は足を止め、振り向いた。
「それなりの対応をするわ」
───その具体例が欲しいんだ!
不安を拭い切れないまま、麗紅の部屋の前に着いた。インターホンを押すと、直ぐに麗紅が顔を出した。博美と入鹿の顔を見るなり、希望の光でも見つけたかのような顔をする。
「助けて下さい」
麗紅の第一声はそれだった。二人に部屋に入るよう促す。部屋に入ると、Re-17がベットの上で横になっていた。
「この人、私に用事があったみたいなんですけど、急に倒れちゃって。誰かに連絡しようと思ったんですけど、誰に言えばいいのか分からなくて」
それでとりあえず、自分の部屋で休ませようと考えたのだ。
「何度も呼び掛けたんですけど、返事もなくて」
博美は麗紅に笑い掛け、優しく麗紅の肩に触れる。
「迷惑をかけてごめんなさいね。彼、ずっと徹夜続きで」
「えっ」
博美の唐突な嘘に思わず間抜けな声が漏れる。博美は黙ってろと言わんばかりに麗紅に気付かれないように入鹿の足を踏む。
「申し訳ないんだけど、もう少しだけ、彼をここにおいて置いてもいいかしら。きっと、もう直ぐ起きるから」
「えっ」
今度は麗紅が間抜けな声を出す。
「それに、彼、貴女に用があるみたいだから」
麗紅の反応を気にせず、博美は最後まで言い切った。麗紅は少し悩んでから、小さく頷いた。博美と入鹿は礼を言って、Re-17を置いたまま部屋を出ていった。
「す、須賀野博士、どういうおつもりですか」
「何が」
「Re-17ですよ!」
麗紅に嘘まで吐いてRe-17を麗紅の部屋に留まらせる意図が分からない。想定外の結末に入鹿は声を荒らげる。
「何故、あんなこと」
「実験よ」
博美が入鹿の言葉を遮る。入鹿は首を傾げた。博美は入鹿にこのまま自分の書斎に来るよう告げる。二人は書斎に入ると、博美は誰も入って来ないように鍵を閉めた。それを見て、入鹿はギョッとする。
「須賀野博士?」
「誰にも邪魔されたくないのよ」
博美は言いながら、アップにしていた髪を下ろし、白衣を脱ぎ、シャツのボタンを一つ二つ外す。入鹿の頭に良からぬことが
「あの、俺、そんなつもりじゃないんですけど」
「何、変なこと考えてんのよ」
博美が入鹿を睨む。どうやら、入鹿の恥ずかしい勘違いのようだ。博美は入鹿の向かい側のソファに腰を下ろし、口を開く。
「Re-17のこと、これから話すのはまだ誰にも言ってないことなの」
「そんなの、俺なんかに話していいんですか」
「Re-17が完成してからは、入鹿が一番長くあの子と一緒にいるし、それに、貴方、彼のこと好きでしょ」
入鹿は素直に頷く。
「これでも、貴方のことは信用してるのよ」
「須賀野博士・・・・・・」
初めて褒められたような気がする。
しかし、そこに感動している暇はない。
「それで、誰にも言ってないことって?」
「私が挑んだ感情プログラムは喜怒哀楽といった、比較的単純な感情だけじゃないの」
「・・・・・・と言いますと」
「対人感情よ。友達に対する感情であったり、異性に対する恋愛感情であったり、そんなもの」
「そんなことが、あいつに?」
「分からないわ。まだ研究段階だから」
博美のRe-17の製造目的は、ただ基礎的感情のプログラミングだけではない、そこから応用的感情を、Re-17自身が作り出せるようにするのが、本来の目的だ。しかし、今の技術でそこまで出来る確率はかなり低い。
「でも、私達は彼のその兆しを見た」
入鹿はRe-17との榎宮麗紅についての会話を思い出す。
「榎宮麗紅に対する興味ですか」
博美はしっかりと首を縦に振った。博美がRe-17に興味を持つよう誘い込んだわけでもなく、入鹿がRe-17に自ら進んで麗紅について話したわけでもない。ただの探究心とは異なる、Re-17自身が生み出した人に対する感情だ。
「だから、須賀野博士はあいつをあの子の部屋に置いたままにしたんですね」
「そうよ。もし、これで何かしらの結果が得られれば、大きな進歩になるわ」
博美と入鹿は麗紅とRe-17を、これからも見守ることを決めた。
To be continued...
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