Develop 3

 Re-17の目には博美がいつも以上に忙しそうに映った。

「入鹿さん、先生は何か新しいものを作ってるの?」

 訓練用問題を解きながら、隣でデータをノートPCに入力する入鹿に問う。入鹿は生返事を返す。

「それって、あの子が関係する?」

 入鹿の手がぴたりと止まる。Re-17は入鹿にぴったりと近づき、顔を覗き込む。

「あの子って人間? それとも僕と同じ人工知能型のロボット? 歳はいくつ? 今、先生は何を開発中なの? 僕も見てみた・・・」

「駄目だ」

 Re-17の言葉を遮り、入鹿は断わる。ノートPCのモニターから目を離し、Re-17の目を見る。

「お前には何も教えられない」

「なんで」

「博士に誰にも言うなって言われてる」

「先生が?」

「そう」

「僕にも言えない?」

「誰にも言うなって言われてるからな」

 Re-17は溜息を吐く。その姿を見て、入鹿は自分の後頭部をがりがり掻く。

「そうだなあ・・・・・・その問題をいつもより早く解いたら、ちょっとだけ教えてやるよ」

「本当に?」

「マジ。ちなみに、今までの平均回答時間は32.76分だ」

 Re-17は訓練用問題に向き合い、黙々と解き始める。そんな彼を健気な奴だ、と思いながら入鹿は眺めた。平均回答時間を縮められるわけがないと、たかくくっていたが、入鹿の予想は大きく外れた。タイマーの数字が、23.89分を表したときだった。

「入鹿さん」

 Re-17が入鹿を呼ぶ。入鹿はいつものように集中力が切れたのだと思って、ノートPCのモニターを見たまま生返事をしただけだった。途端、モニターが見えなくなった。Re-17のタブレットだ。

「解いた」

 Re-17は真っ直ぐに入鹿の目を見て言った。タブレットに映る問題は全て解答されていた。「嘘だろ・・・」とつい声を漏らした。

「Re-17。お前、これ」

「入鹿さんが、いつもより早く解けたら、あの子のことを教えてくれるって。それに、これ、これまでの復習問題だよね」

 これは、感情を持つロボットだからこそなのか、人工知能を持つロボットだからこそなのか、はたまた、その両方を兼ね備えたロボットだからこそなのか。

「嘘だろ」

 入鹿は思わず、口許に手を当てた。全て解答は正解していた。Re-17に目をやる。

「───やっぱり、お前は普通じゃないんだよなあ」

 Re-17の教育訓練を担当している自分が誇らしく思えた。Re-17が顔を近づける。

「入鹿さん」

 あの子について教えて、と言わんばかりの目は、ロボットの目に見えないほど輝いて見えた。

 入鹿は、周りに誰もいないことを確認してから、Re-17と向き合った。

「あまり詳しくは言えないぞ」

「言えることだけでいい。ただ、知りたいんだ」

「自分の中だけで、この事は留めておけるな?」

「約束する」

 入鹿は、がりがりと頭を掻き、ゆっくりと口を開いた。

「あの子の名前は“榎宮麗紅”。お前の設定年齢と同じ、17歳の人間の少女だ。先日、この研究所に来たばかりの開発チームの協力者だ」

「被検体?」

 入鹿は抜の悪そうな顔をしながら、「そんなところだ」と頷いた。

「この研究所の何処にいるの?」

「研究所から提供された部屋だろうな、詳しくは俺も教えて貰っていない」

「先生は、その、麗紅と協力して何を開発しようとしているの?」

「それは、言えない」

 返事は早かった。「そう」とRe-17は視線を逸らした。

「俺が言えることはこれだけだ。あとは自分で動け。あぁ、でも、俺が言ったとか言うなよ?」

 入鹿はクビになる、とジェスチャーを送った。

「ただし、あまり首を突っ込みすぎるなよ。どうなるか分からない」

 人間がクビとなるなら、Re-17の場合は、機能の停止、最悪、処分である。人間である死を意味する。しかし、ロボットであるRe-17をことは人間を殺すこととは違う。簡単に殺されてしまうのだ。

 入鹿は、Re-17にいてほしい。

「ありがとう。入鹿さん」

 教育訓練終了を告げるアラームが鳴る。

「いい出会いがあるといいな」

 入鹿は、ノートPCを閉じ、席を立った。それに続いてRe-17も席を立つ。

「ありがとう」

 部屋を出た後、二人は互いに反対方向へと廊下を歩き出した。


 To be continued…

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