Develop 12
「今週末、手術なんだ」
麗紅が自分の左腕を撫でながら言った。言いながら、自分自身もこんなに手術が早いとは思っていなかった。
「何の手術?」
「左手脚。義肢を変えるの。骨とか筋肉とか神経とかと義肢を繋げて、自由に動けるようにするんだって」
「誰がやってくれるの?」
「近江孝宏っていう人」
「近江さんなんだ」
「知ってるの?」
Re-17は「ちょっとね」と答えた。Re-17は博美がチーフを務める須賀野班のプロジェクトで作られたものである。その班の四肢の製作を担ったのが近江だった。目が覚めてから博美に聞かされ、製作後、近江は完成したRe-17を見て、たいそう喜んだ。そう、Re-17のデータに記録されている。今、Re-17が他のロボットよりも自由に体を動かすことが出来るのは、近江のおかげである。
「あの人だったら、大丈夫だよ」
その言葉を聞くと、幾分か麗紅は不安を取り除けると思った。麗紅の胸の中の嫌な靄が消えることはない。自分の義肢に抱いていた靄とはまた違う靄だ。
脳裏に【完全サイボーグ化計画】の詳細が過ぎる。
まずは、麗紅の義肢の変更。適合性を見て次の段階へとプロジェクトは進んでいく。四肢、内臓、そして、脳。サイボーグ化可能だと思われる部位は全て機械へと変えられていく。
最終的に麗紅自身、どうなるかは分からない。
「ねえ、レイセ」
「ん?」
二人だけの呼び名を口にされたRe-17が嬉しそうに麗紅の方を向く。麗紅はRe-17の顔は見ず、不思議な安心感を与える木の幹や木の葉を瞳に映しながら、舌で唇を湿らせ、深呼吸をしてからもう一度口を開いた。
「これから、私の実験が進んで、私がどうなっても、レイセは私をここに連れて行ってくれる?」
Re-17は一瞬、きょとん、とした顔をしたが、直ぐに頷いた。
「さっきも言ったでしょ。ここで、いろんな思い出を作ろうって。いろんな本を読んだり、走り回ったり、おしゃべりしたり」
Re-17はベンチから立ち上がり、麗紅の周りを走ってみせた。麗紅はRe-17に作り笑いを見せる。
「約束して」
Re-17に向かって右手の小指を立てる。Re-17はその小指を見て首を傾げた。「約束…」と何度か呟いてから閃いたような顔を見せ、麗紅の両頬を優しく両手で包み込み、自分の額と麗紅の額をくっつけた。
「───!」
「はい、約束」
麗紅の顔が一気に紅潮する。ロボットだと分かっていても、ここばかりは人間そっくりなRe-17には、人間の少年と同じような反応をしてしまう。
数秒が長く感じられた後、Re-17はようやく麗紅から額を離し、「先生が教えてくれた」と無邪気に笑った。
───なんて事を教えてるの。
麗紅は恥ずかしさに耐えながら、博美に感謝しているのか恨んでいるのか分からない複雑な感情になった。とりあえず、心の中で「ありがとう」と博美に言っておく。
いつの間にか、新たにできた嫌な靄は、恥ずかしさと嬉しさで覆い隠された。
「ありがと」
未だ赤らんだままの顔で麗紅はRe-17に笑い掛けた。木漏れ日が眩しくて細められた視界で、Re-17が笑い返したのが見えた。
To be continued...
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