Develop 13
麗紅は手術台の上にいた。医療ドラマで見る手術室と何ら変わらない風景。手術台の上で光る照明がただただ眩しかった。
今まで付けていた左手脚の義肢は部屋の隅の台に置かれ、手術台の近くの台には、新しい義手が入っているであろう鉄製の箱が置かれていた。
「じゃあ、麻酔していくからねー」
近江が麗紅に声を掛け、機械のスイッチを押す。
───早く会いたいな。
瞼が重くなる。重さに逆らうことなく、そのままゆっくりと瞼を閉じていった。
「───麗紅」
親しみのあるその声に麗紅は声の方へ顔を向けた。母だった。
「まだ勉強してるの?」
「うん、ここの問題がどうしても分からなくって」
「お母さんがもっと頭が良かったら、貴女に教えてあげられたのにね」
母は眉尻を下げて麗紅に笑ってみせた。麗紅は笑って首を横に振る。甘い匂いが麗紅の鼻腔をくすぐる。ココアとマシュマロだ。
「たまには糖分摂取しなきゃ」
母は麗紅の机にココアとマシュマロを置き、マシュマロを三つ、ココアの入ったマグカップの中へ落とした。ココアとは違う甘い匂いがココアの匂いと混ざりあう。麗紅は礼を言うと、母はココアと「頑張れ」という言葉を残して麗紅の部屋を出て行った。
麗紅は熱で溶けたマシュマロ入りのココアを一口飲む。じわりと食道から胃に伝う感触が安心感を与え、ココアの甘さが麗紅の舌を満足感でいっぱいにさせる。
物心ついた時から甘いものが大好きだった。和菓子も洋菓子も駄菓子もお菓子と言われるものなら何でも喜んで口にした。小学校の頃は、テストで100点を取ったら内緒で父が五百円玉をくれた。その五百円玉を握り締めて駄菓子屋によく行っていた。いつの間にか近所の駄菓子屋の常連になっていたほどに、駄菓子屋には行っていた。
駄菓子屋で必ず買うのは、ジェリービーンズ。噛めば、歯に絡みつき舌に残る甘さ。その感覚が大好きだった。小学校から高校にかけて、好きなものは何かと言われれば、ジェリービーンズと答えるほどだった。
伸びをしてから麗紅はもう一度数学の問題に挑んだ。明日の授業で当てられることは確実に分かっている。答えられなければ、教科担任の機嫌の悪そうな顔を見なければならない。それは、嫌だ。阻止しなければならない。負けじと問題に食いつくが、解説のない解答ページを恨む。解は分かっても過程が分からなければ意味がない。
麗紅は
ほんの少しの閃き、発見が出来ずに
ほんの少しが出来なくて、そのほんの少しが出来ないことで将来は大きく変わっていく。
数学の授業で、教科担任の機嫌の悪そうな顔を見ながら、麗紅はそんなことを思った。
───私は。
何かが頭を過ぎったが、その何かが分からぬまま、麗紅は麻酔から目覚めた。
To be continued...
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