Develop 26

 入鹿はPCモニターに映るデータとRe-17の顔を交互に見る。

 つい最近まで、何処か上の空で、データ数値も全体的に低かったが、今日のRe-17の顔は嬉しそうに口許を緩ませ、データ数値も好調である。

 ここまで、感情がデータを左右することに、入鹿は驚き半分呆れ半分だったが、それよりも、いつもと同じ調子に戻ったRe-17を嬉しく思った。きっと、彼女のおかげだろう。

「会ったんだ。麗紅ちゃんに」

「え?」

 入鹿はRe-17の顔を指差す。

「顔に書いてある。『麗紅ちゃんと会えて嬉しいよお』って」

「嘘っ」

 Re-17は自分の頬を手の甲で拭う。その仕草に入鹿は吹き出さずにはいられなかった。

「本当にそう書いてあるわけないだろ」

「え、冗談なの?」

「ご機嫌なのが、顔見たら分かるって言ってんの」

 Re-17は首を傾げてみせた。入鹿は机に置いてあったホワイトボードを取り、ペンをボードの上で滑らせる。ボードの左上には「『顔に書いてある』とは」と示し、その下に二つの顔を横並びに描いた。左の顔には「嬉しい」と書き込み、右の顔にはRe-17の笑っている顔を描く。書き終わったところで、入鹿はボードをRe-17に向けた。

「いいか。『顔に書いてある』っていうのは本当に顔に文字が書いてあるわけじゃない」

 入鹿は「嬉しい」と書き込んだ左側の顔に大きくバツを入れる。

「言わなくても、『嬉しい』みたいに思っていることとか考えていることが表情に出ていることを『顔に書いてある』って言うんだ。分かったか?」

 Re-17は少しの間黙り込み、ぎこちなく頷いた。入鹿はクスリ、と笑う。

「まあ、失敗もしてみろ。それで、お前は学習するんだから」

 今度は「うん」と声に出してRe-17は返事をした。

 不意に、入鹿は一つのことを思い出した。

「なあ、お前、麗紅ちゃんに『好き』って言ったの?」

「え? 言ってないよ」

 Re-17はさも当たり前だとでも言うように答える。

「えっ、言わないの?」

「え、言わないとダメなの?」

 久しぶりにRe-17のロボットらしいところを見た気がした。

 普通なら好きな子が出来たら、好きな子にも自分を好きになってもらいたいし、更に言えば、付き合いたいと関係の距離を近付けたいと思うものだ。その為に、人は何らかの形でその人に「好き」という想いを伝える。

 そう入鹿はRe-17に教えようと口を開いたが、開いただけで音は出なかった。

 ───こいつにそうさせて、その先、こいつらに何の希望がある?

 Re-17は人間には近いが、ロボットであることには変わりない。そんなロボットが恋をしたのは、人間だ。しかし、その人間、麗紅はロボットへと近付きつつある存在なのだ。複雑過ぎる。二人のその後の展開を予測するのは容易なことではない。本人らが行動するならまだしもこちらから行動を促すのは、少しばかり危険だ。

 入鹿はRe-17に笑い掛け、「俺だったら言っちゃうってだけだよ」と誤魔化した。

「なあ、二人で庭に行かないか」

 促しはしない。ただ、入鹿は訊かずにはいられなかった。Re-17がこれから先、麗紅とどういう関係でありたいのか。それは、これから先の未来を大きく左右することになる。

 ほんの少しでもいいから、Re-17には「幸せ」を感じてほしい。

 ───俺もお人好しになったもんだな。

 庭のドアの錠に入鹿はICカードをかざし、二人で庭へと入っていった。


 To be continued...

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