Develop 10

 雲一つない空の中、清々しい朝を迎えた入鹿だったが、彼は眉間に皺を寄せ、明らかに「私は今、機嫌が悪いです」とアピールしていた。そのアピールの相手は隣に座るRe-17である。

「俺がどれだけお前のことを心配したか! モニターにお前の強制シャットダウンのこと映って、ショッキング過ぎて俺はそのまま死ぬ勢いだったんだぞ」

「ごめんなさい」

「心臓に悪いことしてくれるなよ」

 入鹿はRe-17の髪の毛をぐしゃぐしゃと掻き回した。Re-17の持つタブレットに今日の訓練問題を転送する。

「どうだった? 榎宮麗紅と会って」

 いつもなら、訓練問題を回答している時に入鹿からは訊くことはないのだが、昨日のこともあって訓練問題を解くRe-17に訊く。

「初めての友達だって言ってくれた」

 Re-17は麗紅とのことを思い出し、嬉しそうに笑う。人間と何ら変わらない笑顔だ。入鹿には羨ましく思えるほどの笑顔だった。

「良かったな。羨ましいよ」

「入鹿さん、友達いないの?」

「馬鹿野郎。俺だって友達くらいいるっての」

「じゃあ、じゃあ、初めて友達ができた時、どんな気持ちだった?」

「……嬉しかったんじゃねえかな」

 入鹿は返事を返したものの、正直分からなかった。単純な想像は出来ても、実際どうだったかなんてもう思い出せない。自分が思い出せる範囲では、友達作りは義務としか思ってなかったようで、友達出来てどうって言われても何もない。友達が出来ても、その時の入鹿の感情は「無」だ。

 ───どうだったんだろうな。初めてダチができた時の気持ちは。

 思い出せたらいいのに、簡単に思い出せるわけでもなく。人間の記憶の曖昧さは時に哀しく思えてくる。Re-17は自分の見てきたものがデータ化され、記憶能力によって、呼び起こされる。記憶機能が正常に活動すれば、「忘れる」ということはない。

「───羨ましいよ、本当に」

 辛いことと共に楽しいことも忘れてしまった入鹿は、Re-17の顔を眺めながら、小さな声で呟いた。

「……ありがとう」

 不意にRe-17が呟き、入鹿は目を見開く。

「昨日、入鹿さんが、僕にアドバイスしてくれてなかったら、きっと、僕は麗紅に会えてなかったよ」

 素直に伝えてくれる感謝の言葉が嬉しかった。それと同時に何だか小っ恥ずかしくて、入鹿はRe-17の髪の毛をぐしゃぐしゃと掻き回して誤魔化す。

「感謝の思いはその問題の解答結果に出してほしいな」

 意地悪な言葉もついでに添える。

 Re-17は再び問題に取り掛かる。

「あ、そうそう。須賀野博士が言ってたわ」

 入鹿は問題に向かうRe-17に向かってもう一度口を開いた。Re-17は顔を上げて、入鹿に首を傾げてみせる。

「これからも、麗紅に会っていいってよ」

 入鹿は「まあ、会うなって言われても会うんだろうけど」と付け足しながら、ボサボサの頭をガリガリと掻いた。

 入鹿の言葉にRe-17の顔が明るくなる。そして、黙々と問題を解き始め、またも短時間で解答を済ませた。

「よし、大丈夫だ」

 解答の確認をして、頷く。教育訓練終了のアラームが鳴ると同時にRe-17は部屋を出ていった。

「……ロボットのくせにいい顔するよ、本当に」

 入鹿は訓練結果をノートPCに記録しながら独り言を呟く。自分よりも感情豊かというか表情豊かというか、そんな感じにさえ思えてくる。

 入鹿のメールに一通のメールが届く。メールの内容は【完全サイボーグ化計画】についてのことだった。

「これは───」

 入鹿は、その内容を見て息を呑まずにはいられなかった。


 To be continued...

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