Develop 9
博美は麗紅の部屋のインターホンを押した。直ぐに麗紅が出てくる。麗紅から漂う甘い匂いが鼻腔を刺激した。
「何か甘いものを?」
麗紅は少し恥ずかしそうにしながら頷き、「叔母からもらったものを」と小声で返した。
「そう」
麗紅に少し笑ってみせる。そして直ぐに博士と呼ばれる者の顔になる。腕時計に目をやると、時計の針はもう皆が寝始めるような時間を指していた。
「こんな時間から悪いんだけど、左手脚の義肢の確認をしたいから、検査室へ」
部屋から出て、二人で検査室へ向かう。検査室はこのフロアのもう一つ上の6階にある。エレベーターに乗り込んで、二人並んで上に着くのを待った。
「ごめんなさいね」
「え?」
「最初、Re-17のこと研究員だなんて騙して」
麗紅は数時間前のことを思い出し、「ああ」と声を漏らした。
「彼、麗紅ちゃんが友達って言ってくれたって凄く喜んでたの」
「……そうですか」
6階に着き、エレベーターから降りて検査室へ向かう。
「麗紅ちゃんには感謝してるわ。どうしてもここだと友達なんて作りにくいでしょう? それに、Re-17だと尚更。感謝してるわ」
Re-17が嬉しそうに話したことを思いながら、麗紅に微笑んだ。検査室のドアを開けて中に入ると一人の男性研究員が椅子に座って博美と麗紅を待っていた。
「待たせたわね。
近江と呼ばれた男性研究員は首を振り、二人を向かいの椅子に座るように促した。
「
近江は開発チームの一人で医療にも詳しい優秀な男性研究員である。義肢や人工臓器といった人体に関わるものの開発・研究を行っている。
近江は麗紅の顔を見て、一瞬目を見開く。
「爆発事故と聞きましたが、顔にはほぼ傷はないんですね。……左腕のおかげということでしょうか」
麗紅の左腕をチラリ、と見る。近江の言う通りだった。爆発の瞬間、顔を腕で覆ったことで顔にはあまり損傷はないが、代わりに左腕が犠牲になった。
「じゃあ、早速ですが、麗紅さんの義肢の確認をしたいので、着替えてもらっていいですかね」
麗紅は淡い青に染められた薄地のワンピースに着替え、検査をお願いする。近江は割れ物を扱うかのように慎重に義肢に触れ、麗紅との接続部分を丁寧に観察していく。
「なるほど、どちらも装飾目的の義肢ですか。慣れるまではさぞ不便だったでしょう」
麗紅は素直に頷いた。
装飾目的の義肢は肘や膝といった関節部分以外はほぼ動かすことは出来ない。左の手脚だったこともあって、麗紅は装飾目的でも大丈夫だと思っていたが、想像以上に不便だと感じていた。
───もう一度、自由に動かすことができるなら。
麗紅はそうなることを願った。
「それで、解決方法は?」
義肢の確認をし終えた近江に博美が問う。
「サイボーグ義肢なら、自由に義肢を動かすことができます」
「サイボーグ義肢?」
麗紅が首を傾げる。
サイボーグ義肢とは、義肢と骨、筋肉、神経を直接繋ぎ、脳からの指令で自由にコントロールすることができる義肢のことだ。
「サイボーグ義肢は、義肢と人体を直接繋ぐものですから、大手術になると思います。麗紅さんの場合、二箇所ありますから尚更です。体力も必要でしょう」
近江は説明をしながら目で受けるか否かを問う。麗紅は躊躇うことなく頷いた。これが、【完全サイボーグ化計画】被検体としての第一歩となった。
To be continued……
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