Develop 8
Re-17は博美の書斎で、博美と向かい合って座っていた。誰もしゃべらない静かな空間。博美の顔色を
不意に博美と目が合い、「あ」と声を漏らす。博美はクスリ、と笑い、微かに口角を上げた。
「どうしたの、そんなに私の顔を見て。何かついてる?」
Re-17は首を横に振った。「なら、良かった」と博美はまた笑ってみせる。
「……先生、僕のこと、怒ってる?」
恐る恐る博美に訊く。
「ええ、怒ってるわよ」
想像していた通りの出来れば違っていてほしかった答えだ。
「我が子のように作り、育てている貴方が無理して倒れるって聞いて、私が平常でいられると思う?」
「ご、ごめんなさい」
博美がまたクスリ、と笑う。
「いいの。私はそれ以上に嬉しかったのよ」
Re-17には、その言葉が理解出来ず、博美に首を
「貴方が無理をしてまで、何かに興味を持ったこと。それがとても嬉しかったの」
珍しく、博美が満面の笑みを浮かべてみせた。Re-17は怒られないという安堵よりも、本当に嬉しそうに笑う博美に対する驚きの方が大きかった。
「どうだった?」
「何が?」
「榎宮麗紅よ。あの子に会いに行ったんでしょ?」
Re-17は素直に頷いた。
「楽しかったよ。最初、ロボットだって言った時はびっくりしてたけど」
博美は「そうでしょうね」と言って笑った。
「それから、ね、麗紅が僕のこと、初めての友達って言ってくれたんだ」
Re-17は麗紅に友達と言われたことを思い出して、表情を緩めた。博美は一瞬目を見開いてから、また口許を緩めた。
「そう。それは良かったわね」
「それから、麗紅がね───」
レイセと名前を付けてくれた、と話そうとしたが、やめた。これは、言わないでおきたい、と何故か思った。
「麗紅ちゃんがどうしたの?」
「・・・・・・何でもない」
Re-17は笑って誤魔化した。
突然、博美のポケットの中でタブレット端末が震えた。ポケットからそれを取り出し、画面に映る内容を確認する。端末をポケットの中に戻し、ヘアゴムで髪を結び直す。
「そろそろ仕事に戻らなきゃ」
「頑張ってくださいね」
「ありがとう」
博美は手を振り、部屋を出ていく。
一人部屋に取り残されたRe-17は、麗紅との会話を思い出しては一人で笑っていた。
───レイセ。
麗紅が付けてくれたRe-17の名前。何度も記憶のデータを繰り返した。製造番号じゃない、自分の名前。何だか、人間になったような気分になる。お前は生きていると言われているような気になる。
「レイセ、レイセ」
今度は口に出して言ってみる。不思議な響きだ。
不意に、博美に名前のことを言わなかったことが頭を過ぎる。
名前のことは秘密でも何でもなかった。でも、何故か麗紅と自分の二人だけの特別な名前にしたかった。
───ん?
「どうして、僕は、特別な名前にしたかったの?」
Re-17は自分が生み出した望みの理由が分からなかった。
To be continued……
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