Develop 16

 麗紅はリハビリ室で近江に見守られながら、左手脚のリハビリをしていた。

 最新技術を取り入れたこともあり、体との馴染みも早く、それに加えて麗紅の毎日の努力もあって左手脚はほとんど違和感なく自由に動かすことができるようになった。

「凄いじゃないですか。もう義肢とのシンクロ率が高い。日頃の努力の賜物ですね」

 近江が手を叩いて褒める。

「これなら、今日でリハビリも終わっていいかもしれませんね」

「本当ですか?」

 近江は笑って頷いた。麗紅の顔が明るくなる。

「ありがとうございます」

 リハビリ終了時間を告げるアラームが鳴る。

「また、不具合があったら、いつでも私のところに来てくださいね」

 近江が部屋のドアを開ける。

「お疲れ様でした」

 麗紅は近江に会釈して部屋を出た。

 麗紅は部屋を出た瞬間、走っていた。どこへかは明確にはない。ただ、彼に会いたいと思うだけだった。

 彼が何処にいるのかは分からない。麗紅は自由になった脚で彼を探した。三階フロアを回り、二階フロアを回り、五階フロアを回り、自分の入れるフロアを全て回っていった。

 だが、何処を回っても彼に会うことはできなかった。麗紅は荒い息遣いの中で溜息を漏らし、さっきまでの軽快な走りとは打って変わって、とぼとぼと重い足取りで自分の部屋へ戻った。

 思えば、麗紅は彼についてロボットであるといった単純なことは知っていても、Re-17という存在が研究所にとってどんな存在なのかはあまり知らない。知っていることといえば、自身と同じく博美が絡んでいることくらいだ。

 Re-17とは一体何か。

 ロボットというものへの好奇心ではなく、Re-17という一人のとして生きる彼をもっと知りたかった。

 ───もっと知りたい。

 ───もっと話したい。

 ───ずっと一緒にいたい。

「………」

 麗紅は自分の考えることを反芻しながら、暗い天井を見つめた。

「私にとってレイセは」

 ───何なのだろう。

 しっかりとは分からなかったが、少なからず、最初に出会った時の感情とは違うのは分かった。

 初めて会った時のRe-17の言葉、庭へと急ぐ彼が手を握ったあの感触、約束をしたあの額の感触、日は浅かれ、一つ一つが密な思い出が不意にフラッシュバックする。

 麗紅は恥ずかしくなると同時に、くすり、と笑った。Re-17のことばかりを考えるようになった自分を可笑しく思う。自分は誰かのことをこれまでに考える人間であっただろうか。

 そうなったのも、Re-17の持っている力、魅力なのかもしれない。

 ベッドの上でクスクスと笑う麗紅はもう既にRe-17というに夢中であることを疑いようがなくなるほどに自覚するのは、これからもう少し経ってからになる。


To be continued...

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