Develop 1
───何で、こんなに出来ないんだ。
日々、研究員に問題を解かされるが、未だに自分の学習能力は低いままであった。Re-17にとって、研究員の溜息が重圧となる。
「何でこのぐらいの問題が解けないんだ? 記憶能力と学習機能が上手く連携できていない」
男性研究員が苛立ちを込めた口調でぼやき、ボサボサの頭を更にボサボサにするように、ガリガリと掻き毟る。
「感情プログラムの処理で他の処理が以前までのロボットと比較すると遅いんです。プログラム上の問題は何もないわよ」
博美が苛立つ男性研究員を睨み、冷たく言い放った。
「そもそも、彼は感情プログラム搭載に成功した唯一のロボットよ? 全てがいつも通りとは限らないわ。それを発見し研究、改善していくのが、あなたの勤めでしょう」
男性研究員は、正論を叩きつけられ、眉間に皺を寄せて黙って目線を下げる。
「同じことを望むなら、開発チームから異動しなさい」
「なっ」
「未知なものと向き合えない奴は嫌いよ」
博美は男性研究員に言い捨てると踵を返し、訓練室を出ていった。
ゆっくりと首を男性研究員の方へ回すと、男性研究員は
不意に男性研究員と目が合う。
「お前のせいだからな」
溜息混じりで気だる気な声でRe-17を指差す。
男性研究員は椅子に座り、体を器用に動かし、グルグルと椅子を回転させる。
「今までは、このやり方でやっていけたんだけどなあ」
PCのモニターに映る文字の羅列に目をやる。再びRe-17の方を見て口を開けた。
「やっぱりお前は今までのロボットとは違うんだよな」
男性研究員の伏し目がちの目がなんだか笑っているように見えた。楽しんでいるような感じの。
「Re-17。お前、まだここにいるか」
「一応。まだ訓練時間は終わってないから」
「嗚呼…そうだよな」
時計は8:47を指している。男性研究員は大きな欠伸をし、じわりと浮かんだ涙を拭った。
「眠いの?」
「眠いよ。そりゃあ、人間だからな、俺は」
「いいなあ」
Re-17にも、“眠い”という感情はある。バッテリーの残量が残り少ない時の信号として、博美がプログラミングしたのだ。しかし、Re-17にとっての“眠い”と人間にとっての“眠い”の感情の原因は異なる。同じ感情でも全て人間と同じとはいかないのだ。
だから、Re-17にとって、人間の行動一つ一つが羨ましかった。感情プログラムがあるから、他のロボットとは違い、その羨望をしっかりと感じてしまう。
男性研究員は天井を見上げて「良かあねえぞ」と笑った。
「こんなでっかい欠伸、須賀野博士に見つかったら首を切られる」
男性研究員は右手で首を切る振りをしておどけてみせた。
暫しの沈黙。男性研究員の顔から血の気が引いていく。
───有り得る!
不意に勢いよくドアが開き、「うひゃあ」と彼が間抜けな声を出す。
「
博美が慌てたような顔で、男性研究員、入鹿を呼ぶ。
「あの子に何かありました?」
一瞬、博美が眉間に皺を寄せる。チラリとRe-17を見て直ぐに目を逸らした。
「いいから、早くしなさい」
Re-17が入鹿の顔を見ると、その顔は博美に怯えている顔ではなかった。何か違うものに顔を強ばらせている、と彼のプログラムが信号を送った。
「ねえ、入鹿さん、あの子って何」
博美に取り残された入鹿に問う。
「ああ。お前には関係ねえよ」
博美と同じようなことを言う。きっと、これは、開発チームにとっての秘密事項なのだろう。
───あの子。
普通、ロボットに「あの子」なんて言わない。Re-17自身、自分を指した言い方はあったとしても、他のロボットが「あの子」と呼ばれているなんてのは、聞いたことがない。
Re-17と同じような型のロボットか。或いは、人間か。
「でも、あの子ってことは、大人じゃない」
入鹿は随分と若い。20代前半で開発チームの最年少だ。その入鹿があの子と言うのだ。社会人でない可能性が高い。だとしたら、少年、少女。
ただ一つ、疑問がある。単純な疑問だ。
何故、子供が開発チームの会議内容に挙がるのか。
───博士、被検体が到着しました。
この前の男性研究員の言葉が脳裏に浮かぶ。
これが果たして、あの子と関係があるのかは分からない。でも、Re-17はその二つを何故か切り離して考えることができなかった。
To be continued…
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