Develop 15
Re-17は一人、お気に入りの庭にいた。ベンチの上で寝そべって本を読む。
麗紅が手術を受けてから一週間、Re-17は麗紅に会えずにいた。麗紅の部屋を訪ねても麗紅がいないのだ。博美に訊くと、麗紅は手術後のリハビリ中で、「今はRe-17と会いたくない」と彼女が言っていた、と答えられた。
無論、麗紅に「会いたくない」と言われたRe-17はなんとも言えない気持ちになった。
───会いたくないって。
読んでいた本にも集中出来なくなってくる。
何故、自分に会いたくないと麗紅が言うのか、Re-17はその答えを定めることができなかった。
「嫌われちゃったのかな」
誰もいない空間で無意識に不安が漏れた。
「どうした、浮かない顔して」
Re-17が声のする方を見ると、入鹿がRe-17の方へ向かっているのが見えた。
「入鹿さん」
Re-17はベンチから起き上がり、入鹿の座るスペースを作る。作られたスペースに入鹿は腰を落とした。欠伸と共に伸びをする。
「入鹿さん、何でここに」
「久しぶりにな。何か来たくなってよ。やっぱここは落ち着くな」
真上にある木を見上げて、入鹿は深呼吸をする。
二人の長い沈黙。
その沈黙はどちらにも心地好い沈黙に感じられた。
「なあ、俺とお前が初めて会った時のこと覚えてるか」
入鹿が沈黙を破る。Re-17は「記録に残ってる」と頷いた。
大学卒業した就職先が、この研究所だった入鹿は、研究員最年少ということもあり、他の研究員と馴染めなかった。そんな中、与えられた部屋の整理をしていて見つけた鍵と一通の手紙が入鹿を庭へと誘った。この庭が限られた人にしか知られていないことは、【アンドロイド】プロジェクトのメインスタッフに選出されてから知った。何故限られた人にしか知られていないのか、その限られた人の中に何故入鹿が入っているのかは、入鹿自身未だに分かっていない。
完成されたRe-17を見たのは、この庭でだった。元々体内にICチップを組み込まれているRe-17が一人で庭に入ってきた。
「初めて会った時、僕のこと新入りかって言ったよね」
Re-17が笑う。
「仕方ねえだろ。お前は人間に近いロボットとして作られてんだから。俺が間違ってなかったら、失敗って言われてたかもしんねーぞ」
素で間違ったあの頃の自分を思い出して入鹿は耳を赤くしながら言い訳をする。
「でもな、あの時、めっちゃ嬉しくてよ。若い奴が来たって」
「『俺のことは
「うわ、そんなこと言った? 俺」
「嬉しそうな顔して言ってた」
「やめろ、恥ずかしい。この話は終わりだ」
入鹿は頭をガリガリと掻き、ボサボサの髪の毛で赤くなった顔を隠した。
「それで。お前、何か悩んでんのか」
「え?」
「いや、ここ入ったらお前がらしくない顔してたから」
Re-17は「ちょっと」と返す。
「……榎宮麗紅のことか」
Re-17に入鹿が耳打ちをする。Re-17は目を見開き、入鹿の顔を見た。入鹿が得意気な顔をする。
「毎日、お前といれば分かるんだよ」
Re-17がどれ程までに人間の感覚に近いかがよく分かる。
「で、麗紅ちゃんがどうした」
「……会いたくないって言われた」
「はあ? 何で」
Re-17は首を横に振った。入鹿は目を細めてRe-17を見る。
「……お前、何か麗紅ちゃんにやったか?」
「やってないよ」
入鹿は目を細めたまま「本当か?」とにやにやと口の端を吊り上げた。Re-17は入鹿を睨む。
「本当だよ。最後にあった日はまたここに来ようって約束しただけで」
「約束?」
「そう。先生が教えてくれたんだ。こう額どうしをくっつけて」
Re-17が入鹿を使って実演する。額をくっつけているため、二人の距離は
「それだよ」
入鹿は頭を抱えた。Re-17の感覚は人間の感覚に近いことは近いが、言葉に上手く表せないなんとも言えない感覚はRe-17にはまだない。
───これはやばいよ。
誰もが美男だと受け止める顔にRe-17は作られている。男である入鹿でさえ、この距離に動揺するのだとしたら、麗紅はそれ以上に動揺したはずだ。
「そんなに駄目なの? これ」
「駄目だよ」
「……僕、嫌われちゃったかな」
「いや、それは分かんないけど」
露骨に落ち込んでみせるRe-17をフォローの言葉を入鹿は探す。これだけ、綺麗な顔立ちをしているRe-17なら、麗紅も動揺はしても嫌ということはないだろう。
「ほら、何か別の理由だ」
「別の理由って?」
「思いつかないけど! 何か別の理由だ、きっと」
「それならいいんだけど」
Re-17が少し笑顔を見せる。その顔を見て、入鹿は安堵する。
「僕、部屋に戻るね」
「え?」
「バッテリーの残量がもう少ないや」
Re-17は立ち上がり、ドアの方へ向かう。不意に立ち止まって、入鹿の方を振り返る。
「またね、健人」
Re-17は入鹿に手を振って無邪気に笑い、庭を出ていった。
入鹿はいきなり名前を呼ばれて、ただ呆然と庭のドアを見ていた。
───ああいう所が、俺は好きなんだろうな。
入鹿は口許を緩め、ベンチに横になり少しの間、目を
To be continued...
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