伝承Ⅷ(改)

「そこ三人ともうるさい!図書館では静かなにしなさい!」


彼女は俺たち3人に小声で注意をした。


名取京華なとりきょうか、言わずと知れた俺たちのクラスの委員長である。


思いもよらない人物に緋菜は驚いていた。

しかしなぜ緋菜が驚いているのかわからなかった。

委員長と面識あっただろうか??


「なんでここにいるの?伝承について何か知っているの??」


「緋菜落ち着いて。私は読みたい本を読みに来ただけ。」


彼女はうんと頷いた。すると夜明が委員長に話しかけた。


「ところで委員長と緋菜って知り合いだったの?」


「うん。高1年生の時にね」


なるほど全然知らなかったと、理解した。

そのあとも話を聞くと、二人でクラスを仕切っていたことや、水曜日休みにするとその後もみんながよく働いてくれるなどと労働者の気持ちを利用する恐ろしい考えも知ることができた。


「で、忘れかけていたけど伝承について知りたかったんだっけ?」


「そうそう!忘れかけてた!」


「じゃあ家に来てくれる?」






俺たちは町の図書館から歩いて10分程度の神社に来ていた。

この八草やぐさ神社は、守川市でも最北端にある神社で森とほぼ一体に存在している。そして何と言っても、この神社あたりから見る花火もなかなかいいと評判である。

そんな神社の一人娘である委員長こと京華は、俺たちを境内けいだいまで招いた。


「上がってってー!」


俺たちは彼女の好意に甘えて家の中にお邪魔させてもらった。


『おじゃまします』


すると京華の母親が出て来て、俺たちは軽く挨拶し、客間に案内された。


彼女は母親ともに出ていった。


「緋菜は委員長の家が神社って知ってたの?」


「知ってたけどここの神社とは思わなかったなぁ。ちょっと驚いた」


緋菜もよっぽど伝承について知っているいるという発言の方が驚いたようだ。


すると京華の母親がお茶を出しに再び客間に顔を出した。


「今日はわざわざお越しくださってありがとうございます。ぜひゆっくりしていってくださいな」


若干、なまっているその声は他人の家にいるという緊張感を落ち着かせた。


「お気遣いありがとうございます」


俺はすぐさま立ち上がり感謝の言葉を発し、軽く頭を下げた。


すると他の2人もくつろいだ状態からすぐさま立ち上がり頭をさげ、もう一人はというと俺が頭を下げたタイミングと同じタイミングで下げていたらしい。


「おばさん、娘のお友達が礼儀正しいお友達で嬉しいわ♪」


その見た目でおばさんというには逆に無理があると思った。

和服姿の女性はお茶を机に置くなり嬉しそうに客間を後にし、入れ替わるように京華が客間に足を踏み入れた。


彼女は茶菓子と一冊の本を持ってきた。


「はい。これ食べてね!」


俺たちはありがたく頂いた。


「ところでお母さんが上機嫌だったけどあんたたち何か言ったの?」


すると俺が話す前に夜明が口を出した。


「蒼人が口説いた」


流石に冗談で済ますために弁解した。


「いや、なんも口説いて無いんだけど」


「まあ、奏多かなたあんたに口説かれたわけじゃないならいいわ。如月きさらぎくんの方が格好いいし、性格もぜんぜんいいし。というかそもそも口説かないし」


なんか褒められたような気はするが、最後のは男性として度胸がないという意味なのか。まあ考えてもその真意しんいはわからないだろう。


「とりあえず、これね。」


そういって彼女は俺に一冊の本を渡した。


「伝承(上)!?」


一人の無口な少女とこの本を持ってきた少女以外の三人は驚き、二冊もあることを予測していなかった。


「何年振りかなー懐かしいなぁ」


流石に持ち主も、最近は読んでいなかったらしい。

この見た目は題名以外に何も書いてない殺風景さっぷうけいな本だが中身は絵本だと来る途中に教えてもらった。なぜ伝承にかかわるものは絵本なのか。


〈とりあえず読んでみましょ〉


落ち着いた様子を見せた少女は湯飲みに口をつけ、お茶を飲んだ。










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