伝承Ⅲ
俺たちは喫茶店を出た後、電車で3駅乗って大きなショッピングモールにやってきた。
〈ここが石坂ショッピングモール・・・広いわね〉
「確かに広いけど服屋とスイーツ店が多いから女子には人気なんだよな」
「そうそう白音ちゃんも見たいところがあれば言ってくれ元々今日は緋菜の買い物に付き合う予定だったからさ」
〈わかったわ。見たいところがあったら言うわね〉
「しーらどこに行く??」
〈この店に行きたいわ。いいかしら緋菜?〉
「もちろん!!」
二人は足早に目的の店に向かった。
二人が向かったのは、カジュアル系の女性服が並ぶ店だった。
今の緋菜の服装、デニムのパンツにスニーカー、上の服はTシャツにパーカーと彼女は比較的カジュアルコーデを好むため納得のいく選択だった。
「二人とも試着するから感想よろしく!!」
そう言うと白音は文字を打つ間もなく試着室へ連れていかれた。
すると夜明から小声で話しかけてきた。
「蒼人。白音ちゃんのことどう思う?」
「えっ。そんなのあれだよあれ。」
「お前が白音ちゃんが気になっていることぐらいわかってる。だがそうじゃなくてあの噂のことだよ」
夜明には見透かされていた。しかしその後の言葉が気になる。
「噂?まだあの噂信じているのか?」
「いや。違う。だが無言については置いといて、無感情についてはどうも気がかりだ」
「そうか?俺にはよくわからん」
「例えばだが、”ありがとう”という言葉の使い方は知っているけどそこには自身の感情が含まれていないっていう感じな気がするんだが?」
「無くなったという表現よりも盗られたという表現の認識でいいか?」
「まぁそんなかんじだ。言葉と感情が一つの線で繋がっているとしてその感情の部分だけ盗られて言葉だけを利用しているが感情という名の相方を失って言葉の意味だけが一人歩きしているように俺は感じた」
「お前の説明くどいな」
「言われてみればかなりくどいわ」
俺たちは二人で笑っていた。こんな日常何年も続けてきたのに何処となく懐かしい気がしていた。
すると試着室で着替えていた二人が出てきた。
「どう?似合ってる??」
〈どうかしら?〉
緋菜は少し長めのスカートに白のブラウスを着て頭にはハットの帽子を身に着けており、これから夏を過ごすにはうってつけの格好だ。
対して白音はジーンズに黒いのトップス、さらに黒いカーディガンを着ていて実際よりもかなり大人っぽく見える。
「うん!二人ともよく似合っているよ!」
「そこらへんのアイドルより断然好みかも」
「二人ともありがと♪だけど夜明それは言いすぎじゃない?少なくとも私にはね」
「そんなわけあるかよ」
夜明はぼそっと誰にも聞こえないように呟いた。
「なんか言った??」
「何も言ってない」
「そう」
緋菜は夜明の対応に少し違和感があったらしくこの後もその事で考えていた。
〈蒼人。本当に似合っているのか??〉
「ああ!さっきのはお世辞じゃない。本当によく似合っている」
〈そうか。分かった〉
その後彼女は店のどこかへ歩いて行った。
全員がそのお店から出るとき白音は紙袋を持って出てきた。
「白音服買ったのか?」
〈ええそうよ。普段あまりお買い物には来ないから来た時には買っておくのよ〉
俺はよく服一式買えるお金を持っていたことにびっくりした。
彼女の家はお金持ちかもしれない。
広場に行くと妙に人が集まっていた。俺たちは何があるのか不思議に思って近づくと、何かイベントが始まるらしく人混み激しくなってきた。
すると、先ほどから考え事をしている緋菜が人混みに流されていった。
それをすかさず、夜明が追った。
俺と白音はなんとか人混みから抜け出せたが、緋菜と夜明はいまだ取り残されている。
いちおう二人にメールを送ると、夜明から返信が返ってきた。
〈すまん、当分抜け出せそうにないから二人でお店でも回っていてくれ。こっちは緋菜と合流したから、抜け出せたらまた連絡する。二人きりの時間をお楽しみに!!〉
最後に一文は余計だったが、とりあえず二人が合流できていてホットした。
〈二人は大丈夫なのかしら??〉
「大丈夫みたいだけど、抜け出すのに時間がかかるみたいだから店回ってていいよだってさ」
〈わかったわ。ならこの店に行きたいわ〉
彼女は店舗地図の右上の店を指した。
「了解!!」
俺はつい嬉しくて、元気に返事を返した。
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