伝承Ⅳ

夜明たちと合流できるまでお店を回ることになった俺と白音は、目的の店舗へ向かって歩き出していた。


「今から行く店は何を取り扱っているの?」

〈アクセサリーとか小物のお店らしいわ〉 


歩き始めて5分後、目的のお店に着いた。

俺たちは着くなりお店に入ると店内は女性客ばかりであった。

先ほどの服屋も店内は女性客ばかりではあったが、となりに夜明がいたので良かったが、流石に男一人だと恥ずかしい。

周りの女性客たちはこちらの方を見て、ざわめきだした。

客たちは、白音を見て可愛いや綺麗などの本音を漏らしている。この店で彼女は注目の的となった。もちろんその影響はこちらにもくるわけで、視線が集まる。俺は、ちらっと聞こえる声に赤面し、下を向いて歩く。

白音はどうなのか気になって顔をあげて見てみると。

しかし、白音はその周囲の目も気にせず店内を歩き回る。

そして、イヤリングが主に置いてある陳列棚ちんれつだなの前で立ち止まった。

どうやら白音が欲しかったのは、イヤリングだったらしく彼女は気に入るものを探し出した。


5分後、白音は買うものを決めたらしく手に取った。


「そのイヤリングにするのか?桜の花びらをモチーフにしたイヤリングなんて珍しいもの選ぶな」


〈私、桜好きなの。いつ見ても綺麗だわ。〉


「そうなのか、俺も桜は好きだな。見ていると気持ちが落ち着く。昔に見ていて気がするんだ」


〈気がする・・・?見たことすら曖昧なの?〉


「あれだ、記憶喪失ってやつ。昔の記憶が少しばかり無いんだ」


〈ごめんなさい。あまり触れられたくない話だったわね〉


「いいよ。ほら、レジに並ぼうぜ人が列ができる前にさ」


〈そうね。じゃあいきましょ〉


レジの方へ向かうとタイミングが良かったので、すぐに会計をしてもらえた。

店員さんが元気な声で会計の言葉を掛ける。

「1800円になります」


白音はバッグの中から財布を取り出すなり、中身からお金を取り出そうとしたが、お金を取り出しているはずの白音が俺の服の袖を掴んだ。

俺は不思議そうに彼女を見ると、彼女は下を見てと言わんばかりの目でアピールをしてきたので、俺は財布の中身を見てみた。

すると、財布に入っていたのは、1000円札が1枚と100円玉が6枚、10円玉が4枚、合計1640円しか入ってなかった。

俺はやれやれと、自分の財布を取り出し会計を済ませた。



店を出るなりすぐに白音は携帯の画面を見せてきた。


〈お金が足りていなかったわ。出してくれてありがとう。今度必ず返すわ〉

「今度からは気をつけろよ。あとお金は返さなくていいよ。俺からのプレゼントでも思ってくれ」


〈そんなの申し訳ないわ〉


「いいんだよ。これでもお前には感謝してるんだ。これからも巻き込んでしまうかもしれないし」


俺は少し低い声で、淡々と喋った。これからどんな迷惑をかけるかも分からないそう思って。


〈わかったわ。素直に受け取るわ。でも時間の停止については、原因がわからない以上あなたも被害者でしょ?だからお互い助け合うべきでしょ?〉


こういう彼女の素っ気ない言葉が俺の気持ちを楽にしてくれる。

実際に時間の静止は怖い。いつも動いているものが止まる感覚は何処となく気持ち悪いし、いつ来るかも分からない停止は微かに俺を恐怖に導いていた。また違う怖さが。

だがそんな中、あのたった一言、何ともない行動が俺にとっては救いだった。


この気持ちはなんだ?

なぜ彼女と一緒にいたいと思うんだ?

初めはただの夜明の茶化ちゃかしとしか思っていなかった。

けれど今なら違うと言い切れるかもしれない。

彼女と一緒にいると楽しい。

今だってそうだ。

これからも俺の横にずっといて欲しいと願うのはなぜだ?

俺は悟った。

彼女を好きなのかもしれないと。

まだ会って間もないかもしれない。

だけれどももう何年も好きな気がする。

俺は今まで何度か告白されたが、異性として好きになった人がいなかった。

そんな俺はすっかり彼女の可憐さ美しさ性格などすべての虜になったのかもしれない。

恋とは、こんなふとした結果で始まるものかもしれない。

俺は、口に手を抑えてぼそっと呟いた。


「そういうとこが好きだ....」


〈何か言ったかしら?というかまた顔が赤いわよ?赤面症せいきめんしょうなのかしら?〉


「そうかもな!」


俺は笑って答えた。彼女との出会いに俺は感謝した。


〈変なの。〉


彼女は表情には出ていないが笑って心のどこかで笑っていればいいな。

そう思っていた。


〈どこかでいったん休みましょう〉


「そうだね。そこで夜明たちと合流しよう」


俺は手元の地図を取り出しどこに行くか話し合った。


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