伝承Ⅴ

一方、蒼人と白音とはぐれてから約10分後。

人混みから抜け出せた夜明と緋菜は少し落ち着いたところで休憩していた。


「蒼人たちにメール送ったんだよね??何か返事返ってきたの?」

「いや何も返事は返ってきてないな。二人で買い物しているんじゃないか?」

「そっか....」


彼女は軽くため息をついた。その理由は彼には気づいていた。


「俺が相手ではご不満でしょうか?お嬢様?」


俺は執事のポーズをして彼女を茶化した。


「やめてよ夜明ー!からかわないで!」


彼女は笑っていた。

その笑顔を俺はずっと見てきた。

いつもの笑顔。

俺やクラスの友人たちに見せる笑顔。

しかし、昔見たことがあった。

中学3年のとき俺が委員会があって、二人を待たせていたときだった。

緋菜が蒼人に見せる笑顔は、今まで見たことのない笑顔をしていた。

そのとき二人に声をかけようとしていた俺はとっさに隠れてしまった。

二人はただ会話をしていただけなのに、俺は頭ではなく本能的に隠れたのだ。

ただただ悔しかった。

俺と二人きりのときでもあんな笑顔したことがない。

見たことない緋菜の一面があることを知った。

だからこそ俺はあの時を忘れることができない、しっかり目に焼き付いている。


「おーい夜明!!聞こえている??」


突然掛けられた声にびっくりした。


「あ、ああ。聞こえてるよ。ちょっと考え事してただけ」


「夜明が考え事?珍しいね!」


まあなと俺は返事をした。そして思い出したように話を続ける。


「そういう緋菜もさっきまで考え事してたよな?」


「う、うん。」


この返しは話上手な緋菜も詰まっていた。何を考えていたのかは分からないが、思いつきで行動しているような緋菜にしては考え事は珍しい。

まあ人のことはあまり言えないが。いつも考え事をしているのは蒼人ばかりなので、こちら側の対応は二人とも不慣れである。

そんなことでも考えていると携帯が鳴った。

確認してみると、蒼人からのメールだった。


〈返信遅れて悪い。こっちは買い物終わったけどそっちは大丈夫か??とりあえず俺たちは、最初に入った店の向かいの店で休憩してるからこれたら来てくれ。〉


内容を確認した俺はすぐに返信を返す。


〈ごめんいまは・・・〉


俺は打ちかけた言葉を消して打ち直す。


〈わかった。すぐに向かう〉


「なんてメール来たの?」


「最初にいったお店の反対側にあるお店で休憩してるってさ」


「じゃあ私たちも向かおっか」


「そう・・・だね。」


本当は嫌だった。もっと二人で過ごしたかった。

でもそんなわがままは通じない。

俺たちは蒼人たちのもとへ歩き出した。


「時間結構経っちゃったね」


俺は腕時計を見てみると休憩し始めてからすでに10分経っていた。


「そうだな。お互いに考え事してただけどな」


「そうだね!」


緋菜は笑っていた。本当に彼女はよく笑う。その笑顔を見た人たちも一緒に笑うことができる優しい表情。

だからこそ思う彼女の泣いた顔なんて見たくないと。


「さあ早くいこうよ!!」


俺は彼女に手を引かれていた。


「おう!!」


俺はそのままつられて歩いて行った。




3分後 俺と緋菜はお店の前に着いた。

店の前で窓越しに蒼人と白音がいるか探していた。

彼らは窓から一番遠い席に座っていた。かといってこちらからも見える位置にいるので、気づくように手を振ったが二人は気づかず、会話に夢中のようだった。


「二人とも気づいてないなこれ」


俺は緋菜に話しかけたが彼女は軽く下を見て二人を見ないようにしていた。すると突然呟いた。


「二人とも本当にお似合い.....」


その言葉は皮肉交じりだった。しかし彼女自身に言い聞かせるようにも感じた。


「そうだな。」


「ん?何のこと??ごめん聞いてなかった!」

やはり先ほどの言葉は無意識に発した言葉だったようだ。

彼女に本能で敵わない。いや叶わないと悟ったのかもしれない。

だが本当の気持ちは彼女しか知らないのだ。どの方向に向かうのであれ、決めるのは俺ではない。


「届くよ。きっとね」


緋菜は首を横にかしげていた。



俺は待つことに決めた・・・すべて終わるまで。






俺と白音はイヤリングを買った後、何処で休憩しながら夜明と緋菜を待とうか考えていた。

その悩んだ結果として俺たち二人は和風カフェで休息を取っていた。


「二人とも遅いなー」


〈もうそろそろ来るんじゃないかしら?メールはちゃん送ったのでしょ??〉


「うん返信も返ってきたし」


そんな話をしていると噂の二人は店内に入ってきた。

彼らは店内に入るなりすぐにこちらの方に向かってきた。

俺は少し驚きその理由が知りたく話しかけた。


「二人ともよくすぐに俺たちがここにいることに気づいたな」


すると緋菜は不満そうな顔をしてその問いに対する答えを出した。


「だってさぁ、さっきから二人に手を振ってたけど気づかないから来たんだよ??」


「それはすまん!!」


俺はすぐに謝った。


まあいいけど。などとちょっぴり緋菜はご機嫌ななめの様子だった。

それを見て夜明はやれやれとした表情をしていた。


二人も席に座り、オーダーを取り俺たちは雑談をし始めた。

最初は4人で雑談していたがいつのまにかガールズトークが盛り上がってきて男二人はなかなか口が出せなくなってきた。


「なんでこのお店にしたの?もっと洋風のよさそうな店もあったけど?

しーらは和風が好きなの?」


〈まあ和風は好きよ。でも理由はそれだけじゃくて、終桜祭で和風喫茶をやるから参考にしようと思ってね。ところで緋菜のクラスは何をやるのかしら??〉


「たこ焼だよ!!いろんな具をいれたり、ロシアンルーレットのやつも作ったりしてね!!」


〈それは楽しそうね。必ずいくわ〉


「待ってるね♪」


かれこれガールズトークは1時間続いた。


その後何店舗か回って俺たちは石坂ショッピングモールを後にした。

空の色も暗くなってきたのですぐに駅に向かった。




「次は~ほしおか。星が丘」

車掌のアナウンスが車内に響き渡る。

その駅は今朝一度降りた駅であった。


「俺、アリスに忘れ物したから取りに行ってくるわ」


「そうか」

「じゃあねー!!」

〈蒼人またね〉


俺は三人と別れの挨拶を交わして車内を後にした。


忘れ物をした。というのは嘘である。

遥さんには聞きたい事があった。

俺と二人だけで。


俺は急いで、喫茶店へ向かった。




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