伝承Ⅵ
俺は店内に入ると、そこには手を振って俺を出迎える一人の女性が立っていた。
「やあ、来るのが遅かったな蒼人。買い物は楽しかったか?」
「なんで買い物行ったこと知ってるんですか.......」
「まあ店の前で結構大きな声で喋ってたからな」
ふうと俺はため息をついた。
「というか、俺が戻ってくること知ってたんですか。」
「あくまで推測だよ。推測」
本当ですかねなどと適当に相槌をうって俺は本題に移るため話を切り出した。
「で、本題に入るんですが。あのじk・・・・」
すると彼女は俺の発言を見越したように割り込んできた。
「時間の静止について何かわかったなら話してください!!ってところか??」
本当にこの人と話すと自分のペースを崩される。
いや、そもそもこの人は相手にペースを乗せさせずに自分のペースに持っていく。そういう種類の人間だった。
俺は、再びため息をつき返事を返した。
「はい。遥さんの言ったとおりです。でもなんで分かるんですかね?」
遥さんはとても楽しそうに笑っていた。
「まあ君のことは君以上に知っているのかもしれないな」
「それは観測者としてですか?」
「まぁそうなのかもな」
今度は二人で笑っていた。そして遥さんは口調を変えて再び話始めた。
「それで先ほどの答えだが、大体は把握した。が答えというもの自体は私も理解できていない。そもそも答えというものが定まっていないし」
「個人的には原因か正体もしくはこの時間の停止が最終的にもたらす結果ですかね」
「結果だけはおおよそ予想できる。」
「それは・・・・?」
「蒼人。お前も大体は予想できているんじゃないのか?」
「時間の永久的な停止ですかね.....?」
「私もそこにたどり着いた」
俺は頭ではなんとなく予想はできていた。二回目の時間の停止の時から。
「ならそんなことになる前に一刻も早く・・・」
「私にはどうこうできる問題じゃないんだ。私が介入したところで何も変わらない。だから君たちで解決するしかないんだ」
「それは観測者としてですか?」
俺は再び同じ質問を問いかけた。
しかし先ほどと違い言葉に皮肉さを込めた。
「まあそれもある」
彼女は曖昧な表現をした。そのまま言葉を続ける。
「君に嘘はついていない。だけどこちらにはこちらの立場がある」
「遥さんには何かと助けられているので疑っているわけではないんですが、できればもっと協力してもらいたかっただけです」
「すまないな。今回ばかりは。だがヒントを教えよう」
俺は息をのみ彼女の言葉を聞いた。
「伝承だよ。またあいつが関わってきてる」
俺たちのよく知る伝承が本来ならば、願いを叶えるはずの言い伝えだが、その伝承が俺たちに牙を向いたのだと言う。
実際、過去に一度俺に牙を向いたこともあった。
なのでその言葉はすんなりと受け入れることができた。
「また伝承ですか・・・一体伝承とはなんですか?前回の時も結局よくわからなかったですし」
「それを含めて自分たちで解決してくれ」
「分かりました。それともう一つ質問いいですか?」
「ああ。もちろん構わない」
「白音って感情がないとか学校で噂されてるんですが、そんなことありませんよね??」
相手の先を読むことが得意な遥さんでも流石にこの質問は予想してなっかたらしく一瞬の戸惑いを見せたが、その後は笑っていた。
「君からそんな質問を聞くとは思っていなかったよ。そうだな答えはイエス。彼女は感情を失ったわけではないよ。それよりも君が人の暗い部分へ関わろうとするとは思わなかった。あああれか、さては白音ちゃんに一目ぼれでもしたか??」
「まあそれは置いといて」
俺はすかさず話題を変える。だが彼女は見越したように、言葉を割り込んできた。
「感情を失った理由とかを聞くならダメだよ。そんな個人情報私が教えるわけない。それが知りたいなら白音ちゃん本人に聞くべきだ」
「本当に怖いです遥さん。あなたは何者ですかね」
「ただの町の喫茶店の店主さ」
「わかりました。また何か聞きたいことがあったら連絡します」
「ああ来い。質問やヒントならいつでも答えてやる」
俺は会釈をして店を後にした。
店内に流れる落ち着いたBGMをただ一人で聞くこの店の店主は独り言を呟き始めた。
「蒼人。君が思っているより事態は深刻だ。このまま時間の停止が続いて時の永久的な停止になったとき君に恨まれるかもしれない。なぜ教えなかったのかと。でも私には役割がある。君たちを結末を見届けるための観測者としての役割が」
彼女は自分で淹れた
一口飲み終えるとテーブルにカップを置いた。
本当は気づいていたのかもしれない。けれど確信などなかったし、それを裏付けするような理由もなかったから。だけど既に条件は出揃っている。
なら導き出される
しかし、その問題には数学や物理とは明らかに違う点があった。
「人の感情というものまで計算に入れるのは難しいな」
彼女は微笑み、再びテーブルの上にあるカップを手に取り口を付けた。
「今日のコーヒーはちょっとばかり苦いな」
そう呟き彼女は店の仕事に戻った。
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