伝承Ⅶ

2016年4月15日


土曜日に喫茶店アリスに集まってはや5日。

俺たちは終桜祭しゅうおうさいの準備に明け暮れていた。

あの後皆には遥さんと話した内容の一部をメールで送っていた。


〈忘れ物をしたついでに遥さんと話したら、情報をくれた。あの時間の静止はどうも伝承が絡んでいるらしい。しかし俺は伝承について詳しくは知らない。だからみんな暇な日を教えてくれ。そこで一回話し合おう。〉


すると存外早く、緋菜からメールが返ってきた。


〈水曜日なら授業後居残りないからいいけど〉


偶然にも俺たちのクラスも水曜日は居残りがなかった。

そのことを追加で2人に送ると、二人とも承諾した。


そして水曜日の授業後に昇降口で集まることにした。




「蒼人,白音ちゃん!いこうぜ!」


「おう」

言葉なき少女はこくりと頷いた。


そして俺たちは教室から出ようとしたとき、背後からそれぞれ三人の名前を呼ぶ声がした。


俺たちはほぼ同時に振り替えると、そこには3枚のプリントを手に持っていた委員長が立っていた。


「3人ともこのプリント持って行ってね。この間くじ引きで決めた役割分担ね」


この終桜祭での役割分担というものはとても重要なもので、なにが重要かといわれると担当の日程である。

終桜祭は期間が1週間という長いため、なるべく担当の日数を減らしたいという理由もあるが大抵は最終日に花火があがるので、それを意中の相手や彼氏もしくは彼女と見に行こうとするという理由が一番多いのであろう。なにしろ去年はそれでクラス内でよく戦争が勃発ぼっぱつしていた。

そして祭り中も終わってからもクラスの雰囲気が悪くなるのだ。

例年このようなことが起きているので、すでに教師たちの間では、毎年の恒例行事とみなしているレベルである。

しかし今回の俺たちのクラスは違う。あらかじめくじ引きで割り振ることで未然に防ぐことに成功したのだ。

この案を企画、立案したのは他でもない俺たちの目の前にいる彼女なのだ。

委員長は去年もクラスでこの方法を取ったそうだ。

彼女曰く、シンプルであるが効果は覿面てきめん。最終日に休みを取れなかった人も自分には運がなかったと思うしかないのだ。と言っていた。


委員長からはいと手渡されたプリントを俺は3人分受け取るなり、2人にプリントを渡したあと早速、俺たちは手渡されたプリントを見た。



俺と白音は25日土曜日と27日月曜日、29日水曜日でいずれも午前の店番担当であった。


一方夜明は真っ青な顔をしていた。

俺は夜明の担当表を見てみると、26日日曜日、28日火曜日、30日木曜日であった。


「えーっと、終桜祭の初日が24日で終わるのが30日だったよな?蒼人??」


彼は悲しそうな表情でこちらを見てきたが俺はそんな彼の肩を優しくポンポンと叩いた。


「まあ、そう気に病むな、担当は午前中だ。花火には十分間に合う」


するとさっきまで落ち込んでいた青年はいつのまにか元気になっていた。


「そっか!ならよかった」


夜明はさっきとは別人のような笑顔をみせた。


「3人とも当日はよろしくね」


俺は委員長にありがとうと一言声を掛け、俺たちは教室を後にした。





昇降口で5分ぐらい待っていると、緋菜が遅れてやって来た。

彼女はこちらにくるなり膝に手を置き抱え込んだ姿勢から上目づかいで顔をあげた。

流石にこれはあざといが多分彼女は無意識にやっているのだろう。

この行動がどれだけの男を勘違いさせたのか俺は数知れない。


「ごめん!遅くなっちゃった」


彼女は息が上がっていた。

おそらく俺たちを待たせていると思い、急いできたのであろう。

彼女は少し休憩させてというと、俺たちは彼女の息が整うまで少し待つことにした。

最近運動をしていないとはいえ運動神経がいい緋菜でも多少、息が上がるほど旧校舎が遠いのは皮肉に思った。


30秒くらいすると息が整ったのか、彼女は喋りだした。


「OK!もう大丈夫。じゃあどこに行く??ファミレスとか??」


確かにファミレスなら長時間話すことができ、かつドリンクバーさえ頼めば長時間話すのに必要な深刻な飲料問題もたやす解決することができるため俺はその提案に賛成だった。


右側にいる夜明を見ると緋菜の提案に頷き、いいんじゃないか。などと賛成の声をあげていたが、俺を介して反対側にいる白音は鞄から携帯を取り出し、文字を打ち始めた。


〈ファミレスもいいけど、図書館の方が伝承についての何か資料があるかもしれないからそっちのほうがいいんじゃないかしら?〉


確かに伝承について詳しく調べるなら町の図書館にでも探しに行ったほうがいいかもしれない。

他の二人もなるほどといった表情をみせ、その提案に賛成した。





12列目の通路に弥生学園やよいがくえんの制服を着た2人の美少女が本を探していた。

一人は丁寧に本の中身を確認し、欲しいものでなければ戻しては新しく取り出す作業みたいな行為をくりかえしていたが、もう一人は美少女らしからぬ形相ぎょうそう血眼ちまなこになって本棚を漁っていた。


その本棚荒らしが小声でもう一方のみかん詰め工場のアルバイトみたいな作業をしている少女に話しかけた。


「しーら、何か載っていそうな本あった?」


彼女は首を横に振った。


「じゃあ一回蒼人たちのところに戻ろっか!」


彼女はこくりと頷いた。





「蒼人ー。何か見つかった?」


「いいや。そっちは何か見つかったか?」


「さっきの絵本以外何も見つかってない」


俺は机の上に置いておいた絵本を手に取りパラパラとページをめくった。


「この絵本から得られる情報はおおよそ私たちの知っている情報とおなじだからね」


〈というよりも、ページの殆どが破られたあとみたいになっているわ〉


「確かによくこんなボロボロになった本おいておけるよな」


「まあ、誰も借りないから職員たちも気づかないじゃないのか?」


「まあ、それもあると思うけどさ蒼人。」


「ん?どうした?」


「伝承についての足掛かりが無くなったわけだが」


若干の諦めムードの中、予想もしていなかった声が4人を驚かせた?



「なに?伝承について知りたいの??」


俺たちはその聞きなれた声の方へ顔を向けた。

そういえば今日の帰りもあった気がする。


俺と夜明は声を揃えて言った


『委員長!!』


するともう一人は違う呼び方をしていた。


『京華!!』


その思いもよらない人物はうちのクラスの委員長こと名取京華なとりきょうかだった。










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