伝承ⅩⅡ

〈美味しかったならよかったわ〉


彼女の言葉を聞き、その言葉を聞けて満足する。

しかし俺はふと思い返す。


よ、よく考えたら間接き、キスしちまったー!!!


俺は焦って何も考えられなくなった。もしかしたら表情かおに出てるかもしれない・・・。

初めて女の子とキスしちゃったよ。え、どうしよこんなに動揺してる時点でヘタレみたいに思われるのかも。

彼女も動揺しているのか気になり、ちらっと顔を見てみると顔色一つ変えてはいなかった。

彼女はこういうの馴れているのか・・・??

ずっと彼女のことを考えていた。


その後の俺はずっと目が上の空だったらしい。(夜明談)





時間は18時を超え、街の北側のせいか南側よりも同じ時間帯といえども乗客は少ないがそれでも人は多かった。


「次は裏山うらやま、裏山。お出口は左側です」

聞き慣れた何となく心地いい車掌の声が車内に響き渡る


〈じゃあ、私はここで〉


「また、明日な白音ー!」


「明日ね白音ちゃん!」


彼女は手を振って、大勢の人に紛れながらも電車から降りた。乗っていた乗客のほとんどが電車から消えた。


俺たちは15分間立ちっぱなしだっため、すぐに空いている席へと座った。


ガタンゴトン、ガタンゴトン。先ほどは聞こえなかった電車の走るレールの段差の音が聞こえてきた。


白音はloveの好きとありがとうに反応して、かつ心が失われたような目をしていた。それほどまでに何があったのか。夜明の言うとおり大切な人を無くしたのか?確かにそれなら好きへの拒否反応もうなずけるが、ならありがとうもなぜ拒否反応が起こるのか。大切な人をなくしたときに、ありがとうに関わることが起こったのか・・・・??



しばらくの間考えた俺は先ほど夜明と切り上げた話を持ち出した。


「夜明、白音には好きとかありがとうとかは言わないほうがいいよな??」


ガタンゴトン、ガタンゴトン・・・いつも以上によく聞こえる。いつもはなかなか聞こえない音が。


ガタンゴトン、ガタンg・・・


「なあ、夜明。聞いてるか??」


彼は無言を貫いていた。彼の視線は携帯に向けられている。


無視かよ。と俺は皮肉に呟く。


再び俺は考え始めた。それにしても今日の電車は揺れが少ないなー。人がたくさん入ると電車もよく揺れるものなのだろうか?今では揺れは全くない。


俺はしばらくすると再び彼に話しかけた。

「おーい?そろそろ喋ってもらってもいいかな??」


彼は再び無言を貫く。

さっきと全く同じ状態だった。


さっきと。さっきと??


いや、ちょっと待て。さっき俺は何て言った・・・???

“揺れがない”だと?そんなわけ無いはずだ。だって俺たちが降りる駅の直前には大きく曲がるカーブがあるからだ。

体感時間といえどもとっくに着いていいころのはずなのに。



いつもは気にしていない、もしくは気にならなかった光景。


故に気づくのに遅れた。


俺は震え混じりにそっと呟いた。その言葉は本当に独り事だった。


「まさか時間が止まっているのか!?」


俺は慌てて電車の外を見る。


電車は動いていない、空を見れば鳥は滞空していて、地上を見れば車はずっと信号待ちをしていた。


俺は他にも変わったところが、ないか見ていた。すると、自分たちの通う学校。弥生学園が見えた。


学校が見えた??裏山駅から学校のある天童てんどう駅までは1駅であり、おおよそ区間の時間は2~3分である。


ならどれだけ時間は静止してたのだろうか。体感でも10分いや・・20分か・・??


俺は焦りのせいか頭が回らなくなっていた。


「くっそぉぉぉぉーー!!!」


髪をぐちゃぐちゃかきむしるだか、落ち着きは取り戻せない。


額からは汗が次第に流れだす。


遂に俺は祈ることしか出来なかった。


早く戻れ・・・早く戻ってくれ・・・


ここには白音も遥さんもいない。

一人という孤独が精神的に俺を追い詰める。


早く戻ってくれ・・・


頭の中で考えれることを考えれるだけひねり出した。するとパッと一つ思い出すことができた。

だが俺は4人でお出かけの後、密かに会いに行って遥さんと話したことを思い出してしまった。正直最悪のタイミングで。


「時間の永久停止・・・・・」


まさか、しばらく来なかったとはいえいきなり来るのか・・??


停止時間が分からない故の思考の鈍さがさらに焦りへと誘う。


俺は手当たり次第にバックを漁り始めた、何か役に立つものはないか。するとある物を手で掴んだが、手汗のせいかはたまた焦りのせいか落としてしまった。


ドンっと鈍い音がする、俺はその物体を見た。


「携帯かーーー。携帯!?」


ようやくここで少しばかり頭が回り始めた。俺はすぐさま落とした携帯電話を広い上げる。


これで白音か遥さんに連絡すれば、何か打開策が生まれるかもしれない!!


俺は僅かに生まれた希望に縋る思いで馴れた手つきで画面を見ることなく、無我夢中で白音に電話をした。


掛かっても話すことなど出来ないのに。

でも結果は違った。


「あれ・・・電話がつながらないな??」


すかさず俺は携帯の画面を見る。

するとそこにはホーム画面のままであった。


操作ミスかな??俺は再び電話帳を開こうとした。だか反応しなかった。


先ほどより多少なりとも落ち着いた俺はすぐにわかった。

今回は所持していた物の時間も止まっていたのだ。

前回までは、白音の携帯が正常に使えたのに。


そしてまた奇跡的に俺は瞬時にある一つの仮説に行き着いくことができた。


もしかしたらーーー時間の静止も進化していっているのか。


もしこの仮説が本当なら永久停止してるという可能性を完全に否定できなくなる。



俺は頭を抱えた。完全に為すすべが無いのだ。まだ外に居れば街を探し回って白音と合流することが出来たかもしれないが今は電車の中だ。しかも走行中の。

扉を開ける方法がない以上ここで待機するしかないのだ。

俺は祈り続けた、永久停止していないことを。


俺は席を立ち扉の前に行き、外を見渡した。必死に君がいないか探した。

君の長く黒い髪を。

君の黒く澄んだ瞳を。

君の姿を。


だか見つけられなかった。

俺は目を閉じる。

ふと涙が流れた。

自分の弱さを知る。俺は君がいないと生きていけないみたいだ。可笑しいよねまだ出会って1か月もしないのに。

なぜだろう君が友達だから?

ーいやちがう。

君は静止下でも動ける仲間だから?

ーいやちがう。

なら君が好きだから?

ー・・・・

君とずっと一緒にいたいと思うから?

ーきっとそう思ってるから。


そうよ。ずっとずっと思っているからよ。


どこか聞いたことある声だった。懐かしい?いや最近も聞いたことある声なのか?

するとその声の主の姿が脳裏に浮かんできた。


長い黒く髪に、ワンピースを着た少女。

その声の主は、6年前の出会った少女だったーーー。





「次は天童、天童。お出口は左側です。」


車内に再び心地よい声が響き渡った。



伝承編(終)




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