2016年 前夜祭

前夜祭Ⅰ

俺は数年間流したことのない涙を流していた。


携帯を触っていた彼は俺の質問に答えた。


「そりゃそうじゃね?使わないほうが・・・お、おいどうした蒼人!!」


彼は俺のいつもとは違う様子に気がつきすぐ駆け寄った。


彼は見たこともない涙を目にし事の重大さに改めて気づく。


「すまん・・・」


俺は彼に謝る。


「また、時間の停止か・・・??」


俺は頷く。



「そうか。とりあえず家までは付き添ってやる」


「ありがと。本当に助かる」


俺は彼に感謝した。


「次は音無おとなし、音無。お出口変わりまして右側です。」


俺は彼に体を預け、電車を後にした。






4月21日


「今日は如月くんは休みなの?奏多」

Bクラスの委員長はメニューを書いている俺に問い詰めるように聞く。


「昨日から体調悪くしてるみたいでさ」


「如月くんには地味にいろいろ押しつけちゃってたからね・・」


「大丈夫。きっと明日には来るさ」


俺は彼女に悟られないように言葉を選んだ。

彼女も時間の静止を知る人物だか、なるべく彼女を巻き込まないように4人で話し合い決めた。

といっても俺もかなり巻き込まれてる側だが。


俺はメニュー制作に再び取りかかった。


すると無言の大和撫子のような女の子が俺の前の席に座り、携帯電話を使って話しかけてきた。


〈もしかして蒼人が休んだのは時間の停止のせい・・・??〉


「その通りだよ。あいつ時間が静止している間に何かあったみたいでさ・・・」


〈そう・・・彼と話したいのだけど家の場所しらないかしら?〉


「メールの返信帰ってこないし、いいよ教えるよ」


〈ありがとう。助かるわ〉


なんか白音ちゃんと蒼人ってなんか雰囲気とか似てる気がするな・・・まあ双子とかいう可能性とかはないし、間違い無く他人のはずなんだけど何だろこの感じ。実は同一人物とか?前世からの相棒とか?いや、そんなこと非現実的すぎる。

けど言葉の使い回しとかたまに似ている類似点もある。

それでも2人にはあまりにも類似点が少ない。

例えば、白音ちゃんの家は豪邸らしいけど蒼人は一般的な一軒家。

誕生日だって、白音ちゃんは4月30日だっけ?で、蒼人が2月14日だし。

あとは、性格とかだって反対までは行かないけど2人ともぜんぜん違うし。

中学校が同じだったなんてことはもちろんなくて、むしろ高校2年の時に初めて会ったんじゃないのか?

いや、まて。小学校の時に実は会っていたとかないか??それで白音ちゃんが転校したとかありえるのではないか?蒼人自身は家を引っ越したことはないって言ってたし、でもお互い知ってたら分かるはずなんだけどな・・・。

あ、でも蒼人は一部の記憶が無いんだっけか、肝心なところかもしれねぇのになぁ・・・。

他には類似点は何かないのか・・・??


精一杯頭の中で何か手がかりがないか探し回った。


・・・・ん!?


俺は先ほど自分で言ったことを思い返す。

『非現実的』そんな言葉が似合うような類似点が一つある。


流石に昨日の今日の事ですぐに思いついた。


時間の静止下で動ける能力??みたいなのか。

何であの二人は動けるのか。条件は何か??

だがしかしここまで二人の類似点は能力以外無いのだ。


そういえば、もともと静止って伝承が関係しているはずなんだけどーーーー。


そのことまで考えてだすと頭がパンクする!!


ああもう!!なんで俺はあいつらのこと考えてるんだよ!!そんな余裕本当はないだろ!


他に考えることがあるだろ??


あいつのこと・・・なんだけどさ。




「おーい!奏多!あんた一人でなに葛藤してんのよ。落ち着きなさい、作業している周りの子に迷惑よ」


俺はいかにも委員長ぽい態度で言う・・・って委員長に言われたのか。


俺の知能指数はそれさえ判断できぬ程に低下していたらしい。


「すまん。なんか自分でもわけが分からなくなってた」


「まあ、あんたが一人で葛藤するのは勝手だけど、周りの子に謝りなさい。特に浅葱さんなんか危機を悟ったのか、椅子を三回ぐらいあなたから遠ざけていたのよ!!」


俺は無言で無垢な少女の方を見ると、確かに総移動距離が、一回で椅子を引ける距離×3で行けるような位置にいた。


流石に迷惑をかけたと思い、俺は彼女に詫びを入れた。


「ごめんね、白音ちゃん。」


すると彼女は読んでいた本にしおりを挟み近くにあった携帯と取り換え、文字を打ち始めた。


〈別にいいわ。ちょっと手が当たりそうだったから遠くに避難しただけよ。〉


無意識とはいえ危うく危害を加えるところだったようだ。

彼女には申し訳ないと心の中で再び謝った。

そして、俺は再び彼女に話しかけようとして見てみると、彼女も伝えたいことがあるらしく手招きをしてきた。


「ん?他にも用があるのか??」


〈別に用というわけでもないけど、夜明は夜明であなたなりに考えてくれてたのね〉


・・・ん?


俺は思わず首を傾げた。

まさかそんな言葉を掛けられるとはよもや思ってもみなかった。


〈だって伝承についてかんがえてくれてるのでしょ??有難いわ。でも考えすぎも良くないわよ、まずは目の前のことに集中しましょ〉


俺は彼女の言葉を受け取る以前に頭の中で混乱していた。そして一言。

俺の心の声聞かれてたのか!!

にしても、なんて偶然、運がいいことなんだ1番聞かれて不味くない内容の所だった。


俺は安堵のため息を吐く。


「そうだね。白音ちゃんの言う通りだ。今はあまり考えすぎないようにしとくよ」


〈その方がいいわ〉


そう返すと彼女は席を立ち何処かへ向かった。


「そうだ白音ちゃん」


彼女はこちらの声に気づき立ち止まる。

俺はそこらへんにあった紙に文字を書いた。


「はいこれ。あいつの家の住所ね」


〈ありがとう〉


紙を受けっとった彼女はそう一言いうとまた何処かへ向かって歩き出した。







俺は昨日の一件後、家で休んでいた。

あれから何も考えたくなく、自分の部屋でヘッドフォンを耳にかけ、好きなバンドの音楽を聴いて、意識をそらしていた。

今、あの時の事を考えるだけでも背すじが凍るような寒気を催す。

だが立ち止まるわけにもいかず、永遠の停止は確実に一歩、また一歩と近づいてきている。

このことを3人には話せずにいた俺は話すべきかを自分自身に問う。

だがどちらの選択肢が正しいなんて決められなかった。

俺はヘッドフォンを耳から外し首まで下げ、ベッドに横になる。

天井を見て、ただボーっと。何も感じないように。


すると、その意識を割くように、ピンポーンとチャイムの音が鳴る。

今日は家にいる瑠璃姉ちゃんに玄関の対応を任せることにした。

すると下から大きな声で

「蒼人ー!!彼女ちゃん来てるよ!!!」


俺はわかった行く。と返事しようとしたが、ハッと気づく。

彼女!?俺にはいないはずだが・・・??

慌てて玄関へと向かう。


「ずいぶん早いね蒼人~」


玄関にいた来訪者は、ぺこりと何も言わず頭を下げた。


「姉ちゃんは下がってて、ていうか・・その・・彼女じゃないし」

瑠璃姉ちゃんは、にゃははと笑いながら居間へと姿を消していった。


〈随分と賑やかそうなお姉さんね。それと思ってたより元気そうでよかったわ蒼人〉


「どうしてここに??とりあえず上がっていって」


終桜祭まであと3日








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浅葱色の春 冬馬 凪 @Alicetear0315

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