伝承ⅩⅠ
「なんでそんなことが分かるんだよ」
「だから言ったじゃんあくまでも推測だってさ」
確かに言われてみればそう言ってた気がする。俺は冷静さを取り戻す。
「本当にお前は白音ちゃんのことになると焦るよな」
「べ、別にそうでもないから」
俺は必死に隠そうとした。次第に俺の額から汗がこぼれてきた。
「まあいいけどさ。でさっきの続きいいか??」
「ほら、さっきの続きな」
「お前明らかに話題変えられて喜んでるだろ」
俺は苦笑いをした。しかし付き合いが長いとこういう会話に広がるのは正直悪い感じはしない。一人で居るよりもずっと。
それこそ起きたとき病室に一人でその前の記憶がない不安と孤独に比べれば。
「ほら、先に進もう」
「嘘付くの下手すぎ」
彼は小声で言っていたがなんとなくは伝わってしまった。
「まあ不本意だか話を戻すぞ。この間、白音ちゃんには特別に反応する言葉があるって言っただろ?」
確かに言い方は違ったかもしれないがそういう話をしたことは覚えている。
俺は頷き、彼はこちらの様子をみて話を続けた。
「白音ちゃんは英語で言うlikeとloveによって反応が違ったんだよ」
「そのままの意味で理解すればいいのか?」
「そう、かな。likeの好きは以前このカフェで緋菜が和風のものは好きという問いに対して平然というか何事もなく返事を返していた。それは今回の場合もそうだっただけど、好きな人つまりloveの好きには拒絶反応かはよく分からないが、少なくとも俺の目から見ても彼女の瞳は何も写してないように見えたんだ」
最後の一言は俺の感じたことと全く一緒だった。
「やっぱり踏み込むべきなのか・・・」
「蒼人からそんな言葉が出るとは思ってもいなかった」
「そうだな・・・。でも今後も一緒に過ごしたいとお互いに思っているなら分かり合う必要があると思う。すぐじゃなくてもね」
「じゃあ、自分の過去を話してみるとか?」
「等価交換とか言いたいのか??生憎、俺には記憶がないし等価ではないよ。向こうが不利なだけだよ」
すると白音がお手洗いから戻ってきた。
先ほどよりも顔色は良くなり、俺は安堵した。
俺と夜明は小さな声でこの話はまた今度にすると約束をして、平穏を装った。
彼女は席に着くなり携帯を取り出した。
〈先ほどは申し訳ないわ。ちょっと体調が悪かっただけよ〉
「なら早く帰った方がいいんじゃないか?」
「これ以上体調を悪化させてもいいことないと思うよ」
俺たちは二人続けて心配の声を募らせた。
〈心配しなくても大丈夫だわ。他のメニューも頼みましょ。まだまだ食べて確認したいものがたくさんあるわ〉
確かに顔色も既に話を切り出す以前の状態に戻り大丈夫そうだ。俺は一応無理はしないように彼女に告げた。
〈次のメニュー頼むわ〉
俺はとっさに言葉が出た。
「え、まだ食えるのかよ・・!?」
〈他にも調べたいメニューがあるわ。だから昼ご飯を抜いたわ〉
「マジかよ・・・」
俺と夜明は彼女の真剣さに絶句した。
そこまでやる必要はなかったと思うがここは彼女のやる気を買うしかない。
「わかった。俺は白音が満足する最後まで付き合うさ。で夜明はどうするんだ??」
「もちろん、俺は大丈夫だぜ。スイーツは別腹、スイーツ男子舐めるなよ」
俺は安寧のため息をつき、メニューを開いた。
注文した品がテーブルに並んだ。
今度は俺が抹茶と黄粉のわらび餅を頼み、白音があんみつ、夜明が小豆ロールケーキを頼んだ。
各自は頼んだ品に手を着けた。
「やっぱり美味しいな・・・!!白音のも美味しい??」
〈ええ、美味しいわ。こっちの食べる??〉
俺はつい嬉しくてとっさに反応した。
「あ!食べる、食べる!!」
次の瞬間、俺は彼女の予想もしなかった行動に驚いた。
彼女はスプーンで具材をすくい、そのスプーンを俺のわずかに開いた口の中に入れた。
この出来事には隣にいた、夜明も驚いていた。それどころか周りの人たちにも見られている気がする。
驚きはあったものの、俺は嬉しかった。
体温が上がったのか顔周りが熱い。他の音は遮られ、胸の鼓動だけがしっかりと聞こえる。彼女に惚れていることは、もちろん理解していた。だけど今まで「恋をする」ということに疎かったせいか、告白されたことはあっても、その相手を受けいれることはしなかった。自分の中で自分が好きになれるか分からない相手に対して中途半端な気持ちで付き合っていいのかといつも思っていた。ある時、夜明に言われてたことがある。
「蒼人さーなんで告白されてもOKしないわけ??知らない子だから?」
「いや、その子のことを知らなくてもこれから知っていいけばいいとは分かってるしそう思ってはいる。でも俺は自分も相手も“一生隣にいたい”と思える相手と一緒にいるべきだと思うんだ」
「蒼人。お前の恋愛観はお前の自由だけど、今時そんな恋愛する人なかなかいないと思うぞ?でもちゃんと告白してきた子たちも本気だったんだから彼女たちの気持ちも理解ぐらいしてやってもいいんじゃないか」
あの時は自分の恋愛観をバカにされた気がして、あまり後半の所を意識したことがなかったけれど、今なら分かる気がする。「恋をする」ということがどんな形であれ相手に届けたい知ってもらいたい。ということが。
たとえ、届かない相手だとしても。届けたい。
俺は強く思った。
すると、その思いに呼応するように、頭の中に一人の少女がふと思い浮かんだ。唯一俺が覚えているあの時の記憶、草原で出会ったあの少女。
もう一人の届かない相手。
あの時の俺は・・・
いや、止めておこう。もう進むはずのない関係を考えても仕方ない。今は前に居る彼女との未来を望むことが俺の願いだから。
俺は口に入った甘いものを舌に移し、噛んだ後に喉へと通した。
その味は普段食べるものとはまた違った味がした。
「美味しいよ。白音」
俺は笑顔で彼女にそう言った。
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